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ライトHノベルの部屋
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~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~
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邂逅(1)
邂逅(1)
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美姉妹といっしょ♡
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「ん~~~~、誰か、ビジネスジェットを操縦出来て、日本語は勿論英語も堪能で、そこそこの給料で働いてくれる人を知らない? 日本人でも外国人でも、宇宙人でも地底人でも誰でも良いわ。心当たりない?」
晶はフロア全体を見渡すが、全員首を傾げるのを見て、そんな都合のいい人知らなくて当然よね~、と溜息を付く。
「ったく、会長のハゲオヤジめ~~、めんどくさい仕事ばっか押し付けやがって~~~っ」
眉間に皺を寄せた晶の独り言に、周りにいるOLや男性社員からどっと笑いが起こる。 晶のいるフロアはいつも明るく楽しい雰囲気に満ち、仕事がし易いと評判なのだ。 モデル並みの容姿に加え、それなりの肩書き(会長付き第一秘書兼秘書課課長なのだ)を持っている晶だがそれらを笠に着ることは無く、気さくで砕けた性格が人気を集め、転属から二週間も経たずに数百人いる東京支店での人気ナンバーワンの座に就いてしまった。 また業務に関しても有能な手腕を発揮し、人事や経理、果ては総務の仕事に至るまで冷静な判断と的確な指示を与える晶はもはや秘書課のOLというよりも常務や専務を通り越して代表取締役といっても良いだろう。 最初、役員連中はそんな晶を煙たがっていた(仕事を取られる恐怖に慄いた)が今やその実力を高く認め、晶は部署を超えたマルチ社員と化して活躍していた。
「お疲れ様です、晶さん。一息入れたらどうですか?」
後輩OLが柔らかく微笑みながら机の上にコースターを敷き、グラスに淹れられたアイスレモンティーを置く。 晶が壁に掛かった時計を見ると既に午後三時を過ぎている。 午後のお茶会には丁度良い時間だ。
「ありがと♪ そうね、少し休んで頭を冷やすわ」
頭を下げて去って行く後輩ににこやかに手を振り、椅子をリクライニングさせると大きく息を吐く。 休むとは言ったものの、パイロット探しに頭が一杯で、とても休める気分では無い。
(やれやれ。何でこんな事をあたしが……)
頭をバリバリ掻き毟り、今朝からの一連の騒動(?)を思い起こす。 事の起こりは晶のデスクの上に貼られていたメモ用紙から始まった。 そこには「社用ジェットのパイロットを一名、今日中に探してくれ。年齢・学歴・国籍不問。経験者尚良。任期は三年、労働条件等委細は君に任せる。それじゃ頼んだよん♪ by会長♥」と書かれてあった。
「な、何これ~~!?」
出勤した晶は開口一番叫んでしまい、フロア中の注目を集めてしまった。 およそ外資系大企業とは思えない連絡方法(しかも熊さんの似顔絵の入った付箋紙だ)に晶はまたか、と頭を抱え、同時に唸ってしまう。 今回の会長のリクエストは社内で自分が片付ける裏方事務仕事とは違い、外部からクルー(乗員)を探して契約するという、言わばスカウト業務だったからだ。 この支店に来てまだひと月も経っていない晶には営業経験と情報が不足過ぎ、早々に手に余ってしまった。
(あのガルフストリームVを操縦出来る人間を今日中に探せ!? これって、業務部飛行課の担当でしょうに。……さては余りの時間の無さに、社長に泣きついたな、あの部長)
晶は人の良さそうな業務部長を思い浮かべ、顔を合わせたらたっぷりと小言を言ってやろうと心に決め、数人に手伝って貰いながら行動を開始した。 会社のホームページにクルー募集広告を載せると同時に操縦士派遣の会社に問い合せ、会長や前任パイロットの人脈を辿り、民間航空会社のOB・OG会にまで捜索範囲を広げ、果ては社内にいる全ての人(社員からアルバイト、出入り業者に清掃や社員食堂のオバちゃん達だ)に心当たりを尋ねてクルー探しに掛かり切っていたのだ。
「む~~~、拙いっ。全然ヒットしない。あと二時間で見つけないと。……仕方無い。最後の手段に出るしかない……か」
晶は一瞬躊躇ったものの時差を確認し、長年使い込まれ、茶色く変色した手帳を開くと受話器を上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Clipper 001, wind 280 at 4, runway 25R, cleared for takeoff.」
「Roger, Runway 25R, cleared for takeoff, Clipper 001.」
コクピット(操縦室)の右席に座るコ・パイ(副操縦士)が管制官の指示に復唱し、キャプテンシート(左席)に座るキャプテン(機長)に向かって左親指を立ててクリアランス(許可)が出た事を伝える。 ヘッドセットで管制官の声を聞いていたキャプテンも頷きながら右親指を立ててクリアランスを確認し、離陸許可をコ・パイとダブルチェック(相互確認)をする。
「それじゃ、いきましょう」
「よろしくお願いします」
キャプテンの掛け声にコ・パイが応え、離陸に向けてコクピット内の緊張が高まってゆく。 コ・パイの右手はホイール(操縦輪)を軽く握り、左手はキャプテンと一緒にスラストレバー(エンジンレバー)に添えられ、いつでも緊急事態に対処出来る体勢を取る。 キャプテンの左手はホイールに添えられ、右手は二本のスラストレバーを均等に少し前にスライドさせ、一旦止めて各エンジンに異常が無い事をエンジン計器と音で確認する。 キャプテンはいつもの音と振動に満足し、両足でブレーキを解除すると離陸出力の位置までスラストレバーをスライドさせる。 すると急激にエンジン音が高まり、二つのエンジンがフル回転を始めると同時に背中がシートに強く押し付けられ、正面の窓から見える滑走路が猛烈な速さでどんどん後ろに流れてゆく。 離陸滑走中でもキャプテンは両足でラダー(方向舵)を小刻みに操り、滑走路の中心線から機体が流されない様に細心の注意を払う。
「……120……125! ……130!」
速度計を凝視し、読み上げるコ・パイの声が高まる。 コクピット内が最も緊張する場面だ。
「……V1(ブイワン)! ……VR(ブイアール)ローテイション!」
コ・パイのV1コールと共に二人は両手でホイールを持ち、VRコールでキャプテンがホイールをゆっくり手前に引くと機体のフロント・ギア(前輪)が地面から離れ、続いてメイン・ギア(主脚)が宙に浮く。
「……V2(ブイツー)! ポジティブ・クライム!」
コ・パイが上昇角十五度で正常に上昇している事を高度計と姿勢指示計で確認し、コールするとキャプテンも計器と目視で確認の後、素早く次の指示を出す。
「ギア・アップ!」
「ギア・アップ!」
コ・パイが復唱し、フロントパネル中央下にあるレバーを下から上にセットすると床下から三本あるギアが収納される音が響き、直ぐにエンジン音しか聞こえなくなる。 ギアが正常に収納された事を示すグリーンランプが点灯するのを確認したキャプテンがフロントパネル上部にあるスイッチをポン、と押す。
「オートパイロット・オン!」
「オートパイロット・オン!」
コ・パイが指差称呼してオートパイロットが作動している事を確認する。 機体はコンピューターに事前に打ち込んだルート、高度を辿って旋回、上昇してゆく。 この間にも管制官からの指示が飛ぶ。
「Clipper 001, contact Departure, have a nice flight !」
「Contact departure, Clipper 001, good day !」
コ・パイの復唱にキャプテンが頷く。 機体は毎分千五百フィートで上昇し続ける。
「Los Angeles Departure, Clipper 001, leaving 1thousand 8 hundred, Climbing.」
コ・パイが管制官に機体の飛行状況を伝えると、すかさず指示が出る。
「Clipper 001, radar contact, fly present position direct BEBOP, rest of route unchanged, Climb and maintain flight level 260.」
「Roger, direct BEBOP, rest of route unchanged, Climb and maintain flight level 260, Clipper 001, thank you.」
管制指示に復唱したコ・パイが親指を立てるとキャプテンがオートパイロットのヘディングモードを操作し、機体が北西に向けて旋回し始める。 ここまで来てようやくコクピット内の緊張が解け、一息付ける様になる。
(……何年振りの日本だろ。今行くからな、待ってろよ♪)
キャプテンシートに座っている女性が心の中で呟いた。
(つづく)
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邂逅(2)
邂逅(2)
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美姉妹といっしょ♡
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「……と言う訳で、ご希望通りパイロットを一名、確保しましたっ。彼女は現在日本に向けてフライト中ですので、明日の午後、挨拶に伺いますっ。詳細はファイルに纏めてありますから御確認下さいねっ!」
「あの~~、晶さん? もしかして怒ってる?」
軽い笑みを浮かべた晶なのだが怒気を孕んだ声と、こめかみに浮かぶピキマーク(怒りの印)を見た会長(すっかりハゲ上がった六十五歳・男)が恐る恐る尋ねる。 晶が更にニッコリと微笑んだ顔を見た瞬間、会長は背中に冷や汗を浮かべ、この場から逃げ出したくなった。 美人が笑顔のまま目を吊り上げ、怒りに震えている表情が物凄い圧力となって迫って来るのだ。
「いいえぇっ、怒ってなんかっ、いませんわよっ、これっぽっちもっ!」
「いや、どう見ても怒ってるって」
思わず呟いたツッ込みが聞こえたのか、首をぐるりん、と回した晶の鋭い視線が会長室の隅で成り行きを見守っていた業務部長に突き刺さる。 本来、パイロットを手配するのはこの業務部長なのだが、何故か巡り巡って晶にお鉢が廻って来たのだ。 その事でこの部屋に来る前に晶は散々小言を言ったのだが、この部長、ちっとも堪えてない。 晶の顔を見るなり「今回の調子でまた頼むよ♪」と笑顔でのたまい、今でさえ、まるで他人事の様に振舞っている。
(この人、責任感ゼロね)
晶は金輪際、この部長とは仕事をしない事を固く心に決めた。
「ともかくっ! パイロットを雇う仕事は私の管轄ではありませんのでっ! これっきりにして下さいっ!」
秘書課課長として机の上で小さくなっている会長と部屋の隅でのほほんと立っている業務部長をひと睨みし、一礼してから大股で部屋を出る。 しかし、晶が怒っているのは何もこの二人の不甲斐無さだけでは無かった。 仕事の為とはいえ、新たな火種を呼び起こした事に対する自己嫌悪があったのだ。
(あの娘(こ)、ヒロの事をまだ……。ったく、あたしも人が好いというか、何というか)
晶は深い溜息を吐(つ)きながら自分のデスクに座る。 するとタイミングを見計らったかの様に目の前にコースターが敷かれ、レモンが添えられたアイスティーが差し出される。 時計を見ると十時半、午前のティータイムだ。
「ありがと♪ 丁度飲みたかったの♪」
顔を赤らめた後輩OL(今年の新入社員だ)にウィンクすると、そのOLは逆上せた様に首から上が真っ赤に染まって俯いてしまう。 憧れの先輩OLにお茶出し出来た上にウィンクまでされ、フリーズしてしまったのだ。
(ふふっ♪ 初々しくて可愛いわね~♪ あたしもこんな時期があったのよね~)
思わず現実逃避に走った晶だが、これから先の事を考えると再び溜息を吐いてしまう。 と、晶のしかめっ面を見ていたひとつ年下の後輩OLが声を掛けてきた。
「さっきから深い溜息ばっかりですけど、悩み事ですか?」
彼女は転勤して来た晶に、この支店の情報(裏情報含む)を何かと教えてくれた秘書課の同僚のひとりだ。
「ん~~~、悩み……というか、嵐の予感……というか」
言葉を濁す晶に同僚OLがニヤリと笑う。
「もしかして三角関係ですか? 旦那さん……宏さんが浮気した、とか!?」
「ん~~~、浮気じゃ無くって、新たな同居人が――」
「えぇっ!? 五人目の奥さん登場なんですか!? ……宏さんって、あちこちに奥さんいるんですね~♪」
眉間に皺を寄せ、どう説明しようか迷っている晶に同僚OLは目を見開いて驚きを露わにする。 この会社の人間は晶が既に結婚し、四人いる妻の一人だという事も全て知っているのだ。
「いや、まだ五人目とは決って無いし、あちこちなんていないわよ。その娘は大学のサークルであたしと一緒だった娘で、ヒロ……夫と一度や二度、会ってるの」
「なぁ~んだ。つまりは共通の知り合い、って事だけじゃないですか。つまんないの♪」
何を期待していたのか、同僚OLはがっかりして自分のデスクに戻ってしまう。 そのうしろ姿に、時場所状況を選ばす、OLというのはゴシップ好きよね~、と改めて思う晶だった。
(それにしても、あの娘が今でもヒロを好きだったとは思わなかったな~)
晶はあの娘がアメリカでビジネスジェットのパイロットをしている事は知っていたが、とっくに宏の事は冷めていると思っていた。 なにせ宏と最初に出逢ってから既に四年近く経ち、その間に数える程しか逢ってないのだ。
――それでも再会したら恋心が再び燃え上がるかもしれない――
そんな予感が晶の頭を掠(かす)め、あの娘を自分の会社に引き抜く事を躊躇ったのも事実だった。 果たして、あの娘は今でも宏を想っていると言う。
(……ま、仕事は仕事、プライベートはプライベートだし、何とかなるでしょ♪)
根が楽天的な晶は、全ては今夜、あの娘に逢ってからだと、自ら起こした火種に蓋をしてしまう。 今更じたばたしても、なる様にしかならないのだ。
(さてと。あの娘が羽田に着くのは……十八時四十分の予定だから……ここを十八時過ぎに出れば充分間に合うわね。それから家に向かうとなると……帰るのは二十一時過ぎね)
晶はパソコンでスケジュールを確認し、手帳にもペンを走らせてこれからの段取りを頭の中でシミュレートする。 今夜は羽田であの娘を出迎え、空港内で食事を摂ってから家へ直行する予定なのだ。
(あの娘と直接会うのは……三年振りかしら。ヒロも懐かしがっていたし、逢うのが愉しみだわ♪)
晶は久しぶりに逢う友人に想いを馳せつつ、本来の秘書としての仕事に没頭した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Clipper 001, contact Tokyo approach, 119.1, good day.」
「Roger, switch Tokyo approach, 119.1, good day.」
管制官が羽田への着陸機を管轄する管制官へのコンタクト(無線切替)を指示すると、キャプテンシート(機長席)に座る女性の顔に笑みが浮かぶ。
(いよいよ到着だ。……懐かしいな)
管制指示に従って機体を降下させてゆくと、コクピット(操縦室)の窓から夕日に染まった日本の緑の大地が一面に広がり、家並みが小さく見え始める。 あと二十分もすれば彼と同じ土地を踏めるのだ。 自然と心が逸(はや)るが、今はランディング(着陸)に備えてコ・パイとファイナルチェック(最終確認)に専念する。 ヘッドセットからは羽田へ降りる航空機と管制官との交信がひっきりなしに聞こえて来る。 そしてその合間にこの機に向けて管制官から指示が出る。
「Clipper 001, turn left heading 330, descend and maintain 3 thousand 1 hundred, cleared for ILS runway 34L approach.」
コ・パイ(副操縦士)が復唱し、キャプテン(機長)がオートパイロットのヘディングモード(機首方位)とバーチカルモード(下降率)をセットすると機体はゆっくりと左へ旋回しながら徐々に降下する。 やがて遠くに羽田の灯りが見え、滑走路の延長線上に機体が載ると、いよいよファイナルアプローチ(最終進入)だ。
「Clipper 001, contact Tokyo tower, 118.1.」
「Contact tower, 118.1, Clipper 001.」
管制官の指示にコ・パイが復唱し、羽田空港の管制官へコンタクトする。 同時にキャプテンはオートパイロットを切り、自分の腕で機体を巧みに操ってゆく。
「Tower, Clipper 001, 5miles on final.」
「Clipper 001, runway 34L, cleared to land, wind 330 at 8, welcome Tokyo.」
管制官はビジネスジェットの我々に歓迎の意を示してくれる。
「Runway 34L, cleared to land, Clipper 001, アリガトウ♪」
「You are welcome♪」
コ・パイが気を利かせて慣れない日本語で挨拶すると、管制官も気さくに返してくれる。 定期便を捌(さば)くのに忙しい中、些細な事をさり気無く言ってくれるこの土地が、日本が彼女は大好きなのだ。 そしてそんな土地に生まれ育った宏の事はもっと大好きだった。
「100……50……30……」
コ・パイが読み上げる高度に合わせ、キャプテンは右手でスラストレバー(エンジンレバー)を手前に引いてエンジン出力をアイドリングにすると同時に左手でホイール(操縦輪)をゆっくりと引く。 出迎えた晶が見つめる中、あの娘が操縦するガルフストリームVは見事なタッチダウン(着陸)を決めた。
(つづく)
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邂逅(3)
邂逅(3)
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美姉妹といっしょ♡
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「ここが、あたしの住んでいる家(うち)なんだけど……驚かないでね♪」
羽田で久しぶりの対面を果たした晶とパイロットの彼女は、食事も摂らずに晶の住んでいる家にやって来た。 空港内のレストランより、晶と落ち着いて話の出来る自宅での食事を彼女が切望したのだ。
「驚く? 何に?」
「そ・れ・は~、逢ってからのお・た・の・し・み♪」
(……逢う?)
首を傾げる彼女に、晶はニヤリとする。 晶が目を細め、ニヤリと笑う時は大抵ロクな事が無い事を、彼女は長い付き合いから充分知っていた。
(……何か変な事に巻き込まれないといいけど)
彼女は晶の陰謀(?)への恐れと十二時間以上に亘るフライトの疲れもあって、上手く言葉が出てこない。 黙り込んだ彼女を尻目に、晶は玄関の鍵(ダブルディンプルキーだ)二ヶ所を開けて大きな声で「ただいま~♪」と家の中に向かって声を上げる。
「……ただいま? 晶、あんた一人で住んでいるんじゃ無いの?」
彼女は晶が東京支店に転勤になり、住居も実家のある田舎から移った事は知っていた。 でも、誰かと一緒に住んでいるとは聞いていない。 聞いていれば、晶の家に泊めて欲しいとリクエストなどしない。
(オレ、このまま泊まってもいいのかな?)
戸惑う彼女を晶が「いいから、いいから♪」と玄関に押し入れる。 すると玄関の左手奥から近付く足音が聞こえ、廊下に現れた人物の顔を見た瞬間、彼女の全てがフリーズする。 思考も、動きも、そして時間さえも。
「いらっしゃい♪ ほのかさん♪ お久しぶりですね♪」
そこには、ほのかが想い続けた愛しの男性(ひと)が思い出の中より逞しい身体つきで、思い出の中と何ら変わらない優しい微笑を湛えて立っていた。
「な゛っ! ひ……宏!? ひ、ひろ……宏ぃ!!」
ほのかは手にしていたスーツケースを放り投げ、宏の胸に両手を広げて飛び込んだ。
☆ ☆ ☆
「なるほど。宏はここにいる全員と結婚し、この家を借りて住んでいる、って事か」
ほのかは若菜と千恵が腕を振るって作った和食を美味しそうに頬張りながら晶の話にウンウン、と頷く。 宏に抱き付き、顔中にキスの嵐を降らせてみんなを唖然とさせたほのかだが、今は冷静さを取り戻して懐かしい面々と夕食を共にしていた。
「ほのかさん、余り驚かないんですね? 嫉妬……しないんですか?」
ほのかの顔色を伺う様に千恵が問い掛ける。 千恵は以前からほのかが宏を好きな事を優を通じて知っていた。 だから本人が知らない内に宏が結婚していた事をどう思ったのか知りたかったのだ。 しかしほのかは意外な程あっさりと宏の結婚を認める発言をする。
「だって、宏はオレと出逢う前から晶と優の事が好きだったし、あんた達美姉妹(しまい)も同じ様に好いていたからな。別にこうなったとしても、ちっとも不思議じゃないよ。それにオレはみんなの事好きだし、今更、嫉妬心は無いな♪」
ほのかは「そんな宏を好きになったんだから」、と口には出さず、きんぴらごぼうを摘みながらニコリと笑う。
「そうでしょ~♪ 私達も宏ちゃんの事、大好きなんだよ~♥」
恥かしい台詞を何の抵抗も無く口にする若菜は宏に向けて投げキッスをすると、妻一同がはにかみながらも頷く。 宏は照れ臭くて顔を上げられない。 そんなほのぼのした雰囲気にほのかは宏の結婚生活が上手くいっている事を肌で感じ取り、嬉しくなる。
「にしても。千恵ちゃんと若菜ちゃん、暫く逢わない内に女っぽくなったね~。大学(がっこう)で逢ってた時はまだまだあどけない少女、って感じがしてたけど、流石に男を知ると、途端に色っぽく変わるね~♪」
碧眼を細め、明け透けなほのかの台詞に若菜がえへんと胸を張る。
「そうなのよ~♪ 宏ちゃんの熱くて濃厚な精液を毎日、子宮(なか)にたっぷり注がれると、次の日、お肌の艶がググッ、と増すのよ~♪」
若菜のあまりにも生々しい言い方に、たまたま温泉卵の白身を食べていた千恵が噎(む)せながら自分の箸で隣に座る若菜の頭を勢い良く突き刺す。 晶と優も目元を赤らめ、一瞬、動きが止まる。 若菜と同じ感想を持っていたのだ。
「こっ、このおバカっ! 食事中になんちゅー事言うかなっ!? この娘(こ)はっ!」
恥かしさで顔を真っ赤に染めた千恵と箸が刺さったまま頭を抱える若菜に、ほのかが大口開けて大爆笑する。
「あはははははははっ!! ちっとも変わってないっ! やっぱ、あんた達美姉妹(しまい)は最高だよっ!」
久しぶりに見た姉妹コントに、ほのかは懐かしさも手伝って上機嫌になる。 実はここにいる女性達は、同じ大学の先輩後輩の間柄だったりもするのだ。 晶と優の美女姉妹(しまい)とほのかが大学三年になった時に、美姉妹が新入生として入って来たのだ。 美人双子姉妹が再び入学(最初は晶と優だ)したので一時期、キャンパス内はその話題で持ち切りになった。 その上、その双子は美女姉妹と仲が好いと聞けば、好奇心旺盛なほのかは黙って見ている事など出来ず、何度かここにいる女性達でお茶をした事があったのだ。 その時も若菜のボケに千恵がツッコみ、みんなの爆笑を誘っていたのだった。
「ほのかさん、晶姉から仕事で日本(こっち)に来た、って聞きましたけど、いつまで滞在されるんですか?」
それまで黙ってみんなの話を微笑みながら聴いていた宏が、少し離れた席に座るほのかに尋ねる。 宏から見て左側手前から晶、優、ほのかの順に座り、右側手前からは千恵、若菜と座っているのだ。
「ん!? 滞在……って、オレ、晶の会社に引き抜かれたんだ。だからこれからは羽田ベースで勤務するんだ。それで住まいが見つかるまで、ここから羽田に通う事に……って、晶から聞いて無いのか?」
首を横にブンブン振る宏に、ほのかが困惑気味に晶の顔を見る。 ほのかは宏が全てを知った上で泊めてくれると思っていたのだ。 しかし、家長の宏が初耳となると、このまま泊まる訳にもいかないだろう。 そう思ったほのかは箸を置いて腰を浮かせ様としたその時、晶が舌をチロッ、と出し、左手をパタパタ振る。
「ごめんね~、ヒロを驚かそうと思って黙ってたの♪ あのね、ほのかを泊めるのは今夜一晩だけじゃ無いの。ちゃんとした社宅かマンションが用意出来るまで、家(うち)に泊める事にしてあるの♪ 知らない仲じゃないしね♪」
「「「………………」」」
晶のドッキリにフリーズした宏、千恵、若菜の無言の声が重なり、優がやれやれと首を振る。 姉の度を越えたサプライズに「ホント困ったものね」、と心の中で苦笑する優だった。
「あ……、そうだったんだ。それじゃ、ほのかさん、ここを自分の家(うち)だと思って遠慮無く、くつろいで下さいね♪ 俺達は大歓迎です♪ 好きなだけ泊まっていって下さいね♪」
復活した宏の微笑みに、ほのかの顔がほんのりと赤くなり、鼓動が早くなる。 突然の宿泊延長を聞いても嫌な顔ひとつせず、逆にこちらを気遣う思い遣り……。 四年前の紅葉狩りの時と同じ微笑、変わらない優しさにほのかは胸が熱くなり、両手を握り締めると無意識にポツリと呟いた。
「オレも……」
みんなの視線がほのかに集中したその時、誰かが敷地内に入った事を知らせるセンサーが反応し、チャイムが鳴ると同時にモニターテレビが自動的に起動し、門から入って来る人の姿を映し出す。 そして少し間をおいてから玄関の呼び鈴が屋敷に響いた。
☆ ☆ ☆
「あっれ~~? おっかしいな~。この住所で合ってる……わよね?」
街灯の下、左肩にショルダーバッグを、左手にはボストンバッグを提げた女性が電柱に書かれた住所と印の付いた地図(駅前交番でコピーして貰った)を交互に見比べる。 彼女は先程からこの近辺を行ったり来たりして、とある家を探しているのだ。 しかし夜の帳が降り、道を尋ね様にも思いの他人通りが少なく、不慣れな土地という事もあって目的の家がなかなか見つけられないでいた。
「松林と竹林を背後に、生垣に囲まれた庭に大きな梅の木がある家、ったって、ここら辺みんな同じ家(うち)ばっかり……あっ! あったぁ~! ここね!?」
ようやく目的の家を見つけ、彼女はふぅ~~、と大きな息を吐く。 駅から一時間以上(本来はゆっくり歩いても十五分の距離だ)も彷徨い続け、流石に疲れを感じる。 左肩と左腕が鉛の様に重い。
「さて、いよいよ感動のご対面といきますか♪」
門柱に掲げられた表札を何度も確認し、彼女は気合を入れ直すと太い門柱の間を抜けて玄関の呼び鈴を押した。
(つづく)
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