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ライトHノベルの部屋
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~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~
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恋風(3)
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美姉妹といっしょ♪~新婚編
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「高校を出てからまだ二年半よっ!? 専門学校出てから僅か半年よっ! 実家だって、ごく普通のお家(うち)なのに……」
絶句する元・担任の訝しむ気持ちが宏には好く判った。 何しろ、敷地の大きさだけで三百坪近くあるのだ。 隣近所の家も似たような大きさと造りとは言え、実家周辺に建つ豪農屋敷と比べても何ら遜色無く、むしろこちらの方がより立派な造りに見えるのだ。 屋根が高く、大きな窓が横一杯拡がる一階部分と二階の大きなバルコニーが目を引き、パッと見では重厚な日本旅館に見えなくも無い。 そんな代物を僅か二十一歳の若造が手に入れたのだから、驚かない訳が無いだろう。
「もちろん、ちゃんと真っ当に稼いだお金で買ったんです。人道に外れた事は一切ありませんから」
本当は高校時代にバイトで稼いだ金を元手に優が株や為替などで増やしてくれたのだが、説明が長くなるので今は省略させて貰う。
「それにしても……まるで昔からこの地を治めている庄屋さんみたいね。しかも、こんな家(うち)に住めるなんて……凄いわ!」
元・教え子の言葉を信じてくれたのか、蒼味掛かったセミロングの黒髪を背中に払い、しきりに感心する夏穂。 その横顔にはほんのりと紅が差し、微笑んでいるのは、これからの生活への期待感が滲み出ているのかもしれない。
(夏穂先生、いつ見ても綺麗で若々しいよなー。ほんのり香る香水も昔と同じで……今日はレモン系、か。俺の好きな香りだ♥)
相手にバレないよう、そっと深呼吸し、肺一杯に恩師の香りを取り込む宏。 香水に混じって夏穂自身の甘い汗の匂いがした――のは気のせいだろうか。 同時に、頭の先から足の先までアダルトムード満載の身体をじっくり眺めてしまう。 ぼん、きゅ、ばん、のナイスバディーから滲み出る色香が、柑橘系の香水と相まって宏の中に潜む情欲を盛んに煽るのだ。
(切れ長の涼しげな瞳や目鼻立ちの整った皺の無い顔立ちは俺が高校の時と全く変わらないし……)
夏穂は年齢こそ三十に届いているが、容姿はどう見ても二十代前半にしか見えない。 心拍数が少し上がり、元・生徒だった男の視線は順々に下がってゆく。
(明確な意思を湛える眼力とシャープな顎のラインは知的な印象を与えて、晶姉とは違う魅力だよなー。それに黒のチョーカーが長い首のアクセントになって……メチャ色っぽいわ~)
手の平が薄っすらと汗ばみ、徐々に熱を帯び始める宏の視線。 この場に晶がいたら、嫉妬(殺気?)の篭もった瞳で睨まれ、手の甲を思いっ切りつねられるに違い無い。
(ジャケットを押し上げて柔らかそうに揺れる胸とか細くくびれたウェスト、横に張り出た丸い尻のラインが……さすが熟女に相応しい、まろやかさを醸し出してるよなー)
いつしか呼吸も浅く、早くなっている。 夏穂が聞いたら昇天間違い無しの台詞を思い浮かべる、元・生徒、二十一歳。
(タイトスカートから伸びるムッチリとした太腿や引き締まったふくらはぎが焦げ茶色のストッキングに包まれて……これぞ元祖・美脚! って感じだよなぁ~)
宏の脳内ではストッキングを引き裂き、たっぷりと湿らせた舌で爪先から太腿の奥までを舐め上げるシーンが浮かび上がっていた。 とても恩師を崇める目とは思えない、発情丸出しの宏。 この場に千恵がいたら速攻で足を踏まれ、エルボーの二連コンボを食らう事、間違い無しだ。
「……あはぁん♥ 宏クン♥」
当然、そんな熱い視線を見逃す夏穂ではない。 何しろ、宏が高校に入学した時から想いを寄せているのだ。 好きな男の目線の行き先は常にチェックしているし、敏感にもなる。
「そんな熱い目で見られると……ウチ、溶けちゃうぅ♥ いゃん、あはん♥」
言いつつ、宏の腕を胸の谷間に挟むようにして抱き締め、ひとり悶え狂う、女教師。 想い人からここまで熱心に見つめられたのは初めてだ。 ショーツのクロッチを湿らせつつも天に昇る程嬉しく、女冥利に尽きる夏穂だった。
「ぅおっほんっ!! あの! ホントにここが宏先輩の家で、私達の下宿先……なんですか? ここ、地域の公民館……みたいにも見えるんですけど」
「ほんとに大きなお家(うち)で! これなら、十人で住んでも狭くなさそうですし、美優樹達の下宿を許して下さった理由も頷けます」
と、ここで飛鳥と美優樹の姉妹がようやく会話に加わって来た。 今迄、ポカンと口を開けたまま呆けていたが、何とか復活したようだ。 と言うより、これ以上、叔母の暴走(ブリッ娘)を見て見ぬ振りが出来無くなったらしい。 叔母を見る二人の視線が険しく見えるのは、その所為だろう。
「えっ!? 公民館……かぁ。まぁ、そう見えなくは無いよね。実際、昔は商人宿で人が集まってたんだし。あははははっ! そっか~、公民館とは言い得て妙だなぁ」
飛鳥の咳払いによって正常に戻った(戻された?)宏は、意外な指摘になる程、と腹を押さえて笑い出す。 その声は広い庭に響き、庭の隅に植わっていた大木から小鳥達が羽ばたいた。 その羽音に、共にツインテールにした姉妹が同時に音の方向へと顔を向ける。 すると頭の高い位置から長く垂らした二本の茶色の髪がリボンのように揺れ動き、日の光に煌めいて宏の視線を吸い寄せた。
(ツインテールって、じっくり見れば見るほど愛らしいよな~。二人とも栗色の髪と相まって好く似合ってるし……シャンプーかリンスの甘い香りがほんのりと風に乗って……これはこれで好いなぁ)
夏穂に飽きたらず、再び目尻が下がり、鼻の下が伸びている事に宏本人は気付いていない。 この場に若菜がいれば、一緒になってデレデレする事、間違い無い。 今日の飛鳥は白の長袖シャツに黒のベストを羽織り、真っ赤なミニスカートに黒のオーバーニーソックスと普段通りのスタイルだ。 絶対領域を何気に強調し、部活(中高と陸上部だった)で鍛え上げたしなやかな脚線美は、宏の目をロックオンさせるには充分だ。
(飛鳥ちゃんの締まった長い足はいつ見ても惚れ惚れするな~♪ 太過ぎず細過ぎず締まった太腿に程好く筋肉の付いた脹ら脛の膨らみが……たまらんっ!)
夏穂と飛鳥の叔母・姪コンビの美脚に相好を崩して悶える宏。 この場にほのかがいれば、一緒になって美脚を晒す事、間違い無い(だろう)。 一方の美優樹の服装もいつもと変わらない。 頭には薄いピンクの縁取りがされた黒のレースのヘッドドレス。 纏う衣装は黒をベースに淡いピンクのフリルが付いたシックな長袖のドレスが脛まで覆い、僅かに覗く足下も黒のストッキングに黒のパンプスと、完全無欠のゴスロリータファッションだ。
(美優樹ちゃんも、いつ見ても可愛いし。ホント、等身大のお人形さんみたいだ♪)
派手過ぎ無いファッションと淑やかな雰囲気は、宏の萌心を刺激するには充分だ。 この場に真奈美がいれば、ゴスロリ衣装を着て宏に迫る事、間違い無いだろう。
(夏穂先生の血を引いている所為か、二人とも美人に類する顔だよなー)
宏の視線は、鏡で映したかのような瓜二つのかんばせへと向けられる。 細い筆で引いたかのような細く長い眉と透き通った切れ長の瞳。 鼻筋の通った小顔にピンク色に煌めく薄い唇。 ティーンエイジらしく皺の全く無い、張りのある瑞々しい肌。
(今でさえこんな美人なのに、あと五年十年経ったら、いったい、どんだけの美人になるんだろう……)
年上好きの宏でさえ虜にする年下の二人は、誰が見ても一卵性の双子にしか見えない。 しかし、この美少女はれっきとした三歳違いの姉妹だ。 他の人間は衣装を着た状態でしか二人を判別出来無いが、宏は顔だけを見て二人を判別出来る唯一の人間でもある。
(ま、風呂場以外は服装で見分けが付くから、晶姉達もそうそう間違えないだろう)
宏は改めて、新たに同居人となった姉妹に視線を向ける。 それぞれ個性的なファッションに身を包み、長い首に載った小顔としなやかに伸びた手足は八頭身ボディーにマッチし、全身から弾けるような若々しさが滲み出ている。 共に身長百八十センチと上背もあり、殊に美優樹は十五歳とは思えない大人びた雰囲気を纏っている。
(うぅ、なんだか妹属性に目覚めそう……ってか、もう目覚めたかも)
活発的な性格で絶対領域から白い肌を覗かせる飛鳥と、大人しい性格で可憐であり雅(みやび)に映るゴスロリの美優樹は、宏の『妹萌え』心を盛んに刺激するのだ。 この場に優がいれば、『……ヒロクン、年上にはもう飽きたの?』と涙目で訴えて来そうだ。
(これから一緒に暮らすとなれば、今まで以上に親近感が湧いて来るんだろうなー。……大丈夫か? 俺の理性)
そんな宏の葛藤(?)を知る由もない姉妹は、次から次へと目に飛び込んで来る景色に興味津々だ。
「庭に大きな梅の木があるんですね。あの木の下でお昼寝とかしたら、気持ち好さそう。この生け垣が天然の涼風フィルターみたいになってるし」
「ここって、縁起の良いお屋敷ですね。庭に梅の木が、背後に松林と竹林で、松竹梅がすべて揃ってます」
飛鳥と美優樹は珍しそうに視線を巡らせる。 敷地を囲う生け垣はおよそ目の高さに揃えられ、道路から屋敷内を巧く遮ってくれるだけではなく、程好く開いた隙間から心地好い風を屋敷へと運んでいる。 庭の南西側に植わっている梅の大木は屋敷の格好の目印となり、屋敷の北側に拡がる松林は竹林を挟む形で生い茂って天然の防風林になっているとすぐに判った。
「いやぁー、こりゃ好い場所に建ってるわ。駅にも近いし、さすが、ウチが育て上げた宏クンだけあるわ♪」
「ホント。東京の郊外なのに、こんなにも自然豊かな場所があること自体が驚きだわ。まるでミステリースポットね」
「田舎にいる時と同じ環境で過ごせるので、とても嬉しいです♪」
夏穂の(かなり偏った)自画自賛に続き、ちょっとずれた感想の飛鳥と安心しきった表情の美優樹。 三人はこの日一番の笑顔を宏に向けたのだった。
「お気に召して戴けたようで何よりです」
宏はくすぐったい思いをしつつも、三人がこの屋敷を気に入ってくれた事が嬉しかった。 この様子なら晶達ともすぐに打ち解け、明るく楽しい生活を過ごせるだろう。
「それでは、荷物を置いてから中をご案内します」
旅館の番頭気分になった宏は、深々と腰を折った。
(つづく)
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恋風(4)
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美姉妹といっしょ♪~新婚編
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「この玄関を入って右に延びる、この廊下が東廊下です。リビングの東側にある廊下だからそう呼んでます。こっちの廊下側に、洗面所兼脱衣所や風呂場、トイレがあって、廊下の奥に二階への階段――東階段が続いてます。若姉、晶姉、俺の部屋があるのもこっち側です」
それぞれの扉を開け、手で示しながら説明を続ける宏を先頭に、列の一番後ろで前後左右上下に万遍なく視線を巡らせていた夏穂が感嘆の声を上げる。
「ウチら、てっきり普通の一戸建て住宅で下宿するものだとばかり思ってたから、よもや、こんな大きな家(うち)だとは想像もしてなかったわ。三畳分ある玄関の広さにも驚いたけど、ほらっ! この廊下の幅って、どうよ? 両手を目一杯広げても壁に届かないわ!」
大人二人が余裕で擦れ違える幅の広さに、年甲斐もなくはしゃぐ夏穂。 その浮かれた様子は、まるで遠足に来た小学生だ。
「それに、天井が高くて気持ち好いわ。梁も充分高いから、足下見たまま通れるし♪」
「ふふっ。これで、おでこをぶつける心配が無くなったね、お姉ちゃん♪」
一方、飛鳥と美優樹の長身ツインテールコンビは脱衣所の入り口で立ち止まり、つま先立っていた。 姉妹は目一杯背伸びをしてもまだ頭ひとつ分、余裕のある高さに喜びを隠せない。 二人とも身長百八十センチなので、一般住宅だと梁に頭をぶつけてしまうのだ。
「若姉やほのかさん、晶姉も梁や天井の高さを喜んでるよ。この家(うち)に住むメンバーは、みんな背が高いからね。二人も、何の心配しなくて好いよ」
「「あ……ありがとう……ございます」」
目の前で優しい瞳の宏に見つめられた飛鳥と美優樹は、たちまち頬を朱(あか)く染めて俯いてしまう。 今になって宏の匂いや息遣いが判る程、自分達が傍にいる事を実感したのだ。 あと半歩、前に進めば宏と密着出来てしまう。
「宏クン、宏クン! 次行こう、次っ!」
「うわぁ! 夏穂先生、そんなに強く引っ張らなくても――」
そんな初々しい二人を余所に、ニコ目になった夏穂が先をせがむ。 どうやら、姪の恋心や自身の宏への想いよりも、今は屋敷探検の方が琴線に触れているらしい。 宏の腕に自分の腕を絡ませ、自ら先頭に立って歩き出す。 そんな上機嫌な叔母を、二人の姪は心中複雑な想いで見つめていた。
(夏穂姉さん、担任だったからあんなに気軽に触れる事が出来るんだろうな……)
(夏穂お姉さん、宏さんと腕を組んじゃって……好いなぁ。美優樹も、もっと積極的に行動出来たら好いのに……)
叔母の度胸の好さを羨む飛鳥に、自分の消極性に歯痒い想いを抱える美優樹だった。 片や、姉妹の心中を知る由も無い夏穂と宏は、既に次の場所へと進んでいた。
「玄関を入った左にリビングがあります。ここは十畳分のダイニングキッチンと一緒になっているので、都合三十畳分の広さになります。正式にはリビングダイニングキッチン、と言うらしいんですが、俺達は単にリビングと呼んでます。まぁ、話の中でキッチンとか台所とか呼んだりもしてますが」
家主の説明に、三人の下宿人はただただリビングやキッチンの広さに驚き、目を見張る。 畳一枚分はあろうシンクの大きさや四つあるコンロ――しかも業務用だ――など、町のちょっとした食堂と何ら変わらない規模と設備なのだ。 置かれた冷蔵庫も、大人三人が余裕で入れそうだ。
「うわっ! さ……さすがに十人分だと、テーブルもデカくなるわね。まるでお城の晩餐会で使うかのようだわ。……でも、楽しみでもあるわね」
ダイニングキッチンには十脚分揃った大きなダイニングテーブルが鎮座し、夏穂の度肝を抜く。 しかし、ここで毎日、宏と一緒に食事を摂れるのかと思うと心が弾んで来る。
「ふふっ。食事も楽しみだし、皆さんとの語らいも楽しみだわ」
薄っすらと笑みを浮かべた美優樹の視線はリビングに置かれた、こちらも十人は余裕で座れるソファーセットに注がれていた。
「その一人掛けは宏ちゃんの指定席なんだよ~。そのすぐ前は私の指定席で~、あとは早い者勝ちの自由席~♪」
西洋アンティークドールのような姿をした美優樹の目線を察した若菜は、自ら進み出ると美優樹の手を取る。 そして満面の笑みを湛えたまま、リビングの掟(?)を大雑把に説明する。
「あはははっ! 並み居る強者(つわもの)を掻き分け、宏の傍をゲット出来れば一流の妻の証だぜ♪」
金髪碧眼美女のほのかも隣に立ち、美優樹の肩にポン、と手を置いて豪快に笑う。 二人とも、新たに加わったゴスロリ衣装の美優樹に興味津々なのだ。
「えっ!? つ、妻の……証!? 美優樹も……? みなさんと同じ立場になれるの!?」
二人のお姉様に優しく接せられ、同時に二階級特進したかのような身上に嬉しさが猛烈に込み上げて来る。 そこへ、ポニーテールを揺らした千恵が苦笑しつつ寄って来た。
「この二人の言う事は、話半分で聞いてて好いからね。まともな事、殆ど言わないから。それに、どこに誰が座るのかなんて宏以外決まってないから、好きに座ってね」
何やらブーブー文句を言う二人を片手で制しつつ、笑顔になってウィンクひとつ寄越す千恵。 毒牙に犯されそうだった後輩を見上げ、自信に満ちたアドバイスをしてくれるその顔は、まさしく『姐さん』と呼ぶのに相応しい、頼り甲斐のある表情だ。 もっとも、二人の身長差は三十センチもあるので、傍から見ればどちらが年上なのか判らない。
「あ……あはは……」
美優樹は若菜とほのか組と千恵の板挟みとなり、どう返事したものかと迷ってしまう。 仕方なく、曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。
(でも、みなさん親切にして下さって嬉しいわ)
図らずも美優樹の願う『みんなと仲良く』が早々に、しかも相手側からのアプローチで達成されつつあり、ゴスロリ少女は心底喜んだ。 この調子なら、一週間と経たずにみんなと親密になれるやもしれない。 ……若干、さっきみたいな勢力争い(?)に巻き込まれそうな気配はあるが。
(でも、これはこれで楽しいし♪)
ひとり莞爾と笑う美優樹だった。 一方、飛鳥もソファーの置かれた一画に視線を向けていた。 リビングの窓側に置かれたガラステーブルの短辺には一人掛けのソファーが、長辺に三人掛けと二人掛けのソファーがそれぞれ向かい合って置かれ、最大十一人が座れるようになっていた。 一人掛けソファーの正面の壁には大画面テレビが鎮座し、背後の壁にはマガジンラックが置かれているので食後のお茶や普段の談笑にはもってこいの環境と言えるだろう。 商人宿時代、ここはロビーだったと宏が言っていたのも納得出来る。
「中の案内が終わったら、みんなでお茶するわよ。それまではじっくりと探検して来なさい」
長いソフトウェーブの髪を揺らした晶がソファーに座ったまま、後輩でもある飛鳥に語り掛ける。
「あ、ハイっ! ありがとうございますっ」
緊張したまま遥か年上の先輩が示す方向を見ると、ガラステーブルにはお茶やケーキが人数分用意されていた。 晶が怒ると、まるで鬼だと聞かされていたが、そんな事は微塵も感じさせない、優しさと慈愛に満ちた笑顔に安堵する飛鳥。 どうも叔母から聞いた情報には(かなり)偏りがあるようだ。 緊張を解いた飛鳥は小さく会釈を返し、再びリビング全体を見回す。
「これだけ人数が揃っているのに、少しも圧迫感を感じないのは、単に広いってだけじゃ無さそうだわ」
リビングの想像以上の広さに、飛鳥はしきりに感心する。 既に六人の美女軍団が思い思いのスタイルでくつろいでいるのだが、白い壁と高い天井、人の姿が映る程に磨かれたフローリングの床が開放感を強調しているので、自分達四人が加わっても全く狭さを感じないのだ。
「なんだか……ここを自室にしたい位だわ」
夏穂の呟きに、思わず首を縦に振る飛鳥と美優樹。 二人の姉妹は、叔母の言わんとする事が手に取るように判った。
――この屋敷に来てからも聞こえる小鳥のさえずりが心地好く耳朶をくすぐり、開け放たれた窓からは晩秋の爽やかな風が通り抜け、髪を優しく撫でてくれる。 竹林の葉擦れの音が心を穏やかにしてくれ、どこまでも澄み切った蒼い空が心に活力を与えてくれる。 そっと目を瞑れば、緑豊かな草原の上に立っているかのような気分になれる――
それは取りも直さず、自分達も思っていた事だった。
「……ここは東京郊外とは思えない、抜群に好い環境。上水道も地下水が殆どの割合を占めているから、ご飯やお茶が美味しく出来る」
屋敷の博識者(宏談)と聞いていた優の言葉は、夏穂や飛鳥達の思いを肯定する発言となった。
「宏先輩。こっちの廊下は?」
飛鳥が廊下とリビングを分ける縦に長い暖簾を掻き分け、弾んだ声で手招きする。 どうやら、飛鳥も広い屋敷に心が浮き立っているようだ。
「こっちの……リビングの西側に延びる廊下が西廊下。こちら側に千恵姉、真奈美さん、ほのかさん、優姉の部屋があるんだ。廊下の右手前にトイレ、左奥に二階への階段――西階段があって、突き当たりは非常口兼用の勝手口になってるんだ。このドアからも庭に出られるよ」
案内を再開させた宏は三人の先頭に立ち、ドアを開けて中の様子も見せながら丁寧に説明してゆく。
「この階段を上ると左手……北側に出窓が並ぶ長い直線の廊下があって、南側にワンフロアぶち抜きの部屋があるんだ。東西の階段横にトイレと洗面台がそれぞれあるから、使い勝手は好いと思うよ」
廊下の半分の幅の――それでも九十センチはある――階段を昇った宏は手前のドアから部屋に入り、中央で説明を始める。
「うわっ、広っ!」
真っ先に歓声を上げたのは夏穂だ。 首をぐるりと巡らし、空間の大きさに目を見張っている。
「これが……部屋? 体育館……はオーバーとしても、ホールじゃ無いの?」
「これって……旅館の宴会場……とか、市民サークルが使う公民館の小ホール……って感じですね」
飛鳥と美優樹も、個人宅とは思えない部屋の広さに唖然としている。 ついさっきまで、一階リビングの広さに驚いていた自分達が馬鹿馬鹿しく思えてしまう。
「宴会場……って言うより、まるで教室だよ。教室二つ分、繋げた位の広さだよ、これ。天井は高いし、片側はテラスに出られる窓が並んで陽当たり好いし。廊下側には……五つも扉があって、壁にも大きな窓が連なってるから、教室とおんなじだよ」
未だに呆ける飛鳥は、まるで机や椅子の無い高校の教室に立っている錯覚をも起こしていた。 もしも片側の壁に黒板があれば、完全に教室にいるものと考えただろう。 それ程、二階の部屋が広々としていたのだ。
「それと、これ、なんだけど」
宏は壁に設置された白く薄い箱形の機械の前に立ち、説明を始める。
「二階の廊下二ヶ所とこの部屋の五ヶ所に、カラーモニター付きのインターホンが付いてるんだ。玄関や勝手口の対応や施錠・解錠もここで出来るし、全ての部屋へも通じているから個別にも話せるんだ。何かあった時は、この赤いボタンで一斉連絡とかも出来るよ」
宏が数字ボタンを操作してリビングを呼び出すと、応答した千恵と背後で手を振る美女軍団がクリアな音声付きで鮮明に映し出された。 そして赤いボタンを押した瞬間、屋敷のそこかしこから一斉にベル音が鳴り出した。
「まぁ、普段そんなに使う機会は無いと思うけど、防犯には役立つと思うよ。このインターホンは庭に設置した二十四時間稼働の防犯カメラとリアルタイムで繋がってるから、部屋にいながら外の様子を見る事にも使えるよ。こうやって……ズーム出来るし、ある程度、角度も変えられるし」
黄色のボタンを押す度に、四つのカメラが捉えた庭の様子が順々に映し出された。 その解像度は生け垣の葉っぱ一枚は勿論、梅の木に留まる小鳥の羽の一本一本までもがはっきりと判る程だ。
「夜はセンサーライトと連動してモニターと録画機能も作動するから、誰が忍び込んでもすぐ時間付きで判るよ。……あ、因みにだけど。これ、門に付けた赤外センサーにも対応してるんだ。門を通るとチャイムが鳴ってモニターが作動するから、誰かが訪ねて来ても、すぐ判るようになってるんだ」
そしてひと言。
「何たって、ここにはうら若き女性が九人もいるからね。用心に用心を重ねないと。……ね♪」
そう言うと、宏はひとり莞爾と笑った。
(宏先輩、凄い! 学校や部活でも思慮深い所がいくつもあったけど、結婚するとここまで変わるのかしら。……それにしても……やっぱり先輩は凄いや♥)
飛鳥は宏の危機管理能力の高さや同居する家族への配慮に感動し、いつしか熱い視線を注いでいた。 昔から思慮深い面を持っている事は知っていたが、一家の主ともなると、こうも違うのかと感動し、改めて惚れ直していたのだ。 そんな飛鳥に応えるように、宏はウィンクひとつ、返して来た。 すると目が合った途端、飛鳥は飛び跳ねるようにして一歩下がり、思わず叫んだ。
「せっ……先輩っ、凄いです! かっ……感動したっ!!」
まるでどこぞの総理大臣みたく訳の判らん事を口走り、声なぞすっかりと裏返ってしまう飛鳥。 しかも、余りに急に飛び跳ねたものだからミニスカートがひらりと舞い上がり、白地に薄青の水玉模様のショーツを景気好く披露した事など、全く気付けなかった。
「この部屋だけど、およそ八十三畳分あるんだ。フローリングだから、大きさの実感が湧かないかもしれないけど」
飛鳥の驚きようと可愛らしいショーツに微笑んだ宏は、今度は隣に立っている美優樹に顔を向ける。 とは言え、美優樹は宏より十一センチ背が高いので、若干上向きになってしまう。
「そうですね。ホント、教室みたいに広くて、驚くばかりです……って!?」
宏の肩と自分の二の腕が触れる程に接近していた事に初めて気付いた美優樹は、一瞬で頭の中が真っ白になる。 憧れの宏と並んで立つ事など頭の中では何度も繰り返し夢見て来たが、実体験では初めてだ。
(やだっ、宏さんが……すぐ隣にっ! 腕が……触れて あぁっ、服越しに体温が伝わって……!!)
好きな男性(ひと)の息遣いを間近で感じた瞬間、顔が火照り出すのと同時に茹で上がったタコのように耳まで真っ赤に染まってゆくのが自分でも判った。
「宏さん……♥」
何も考えられなくなった美優樹は両手を胸の前で握りしめ、優しく微笑む宏に魅入ってしまう。 宏も、にこやかに微笑み返してくれるではないか! 瞳をハート型にし、紅潮したままの顔で心ここにあらずの美優樹だったが……。
「まぁ、机やベッドを置けば、今よりは狭く見えるんじゃないかな? 三人の部屋割りを決めたら、俺も手伝うから」
「……ほぇ?」
悲しいかな、美優樹の想いなぞ想像だに出来無い(超鈍感な)宏は、部屋の隅に握り拳の親指を向けて話を続けていた。 思わず間抜けな返事、ひとつ零す美優樹。 示す方向を見ると、広い部屋の片隅には三人分のベッド、机、本棚などが一纏めに置かれ、いつでもセッティング出来るようになっていた。
(み、美優樹の想いって、いったい……)
今の自分を鏡で見たら、きっと呆けた顔をしているに違いない。 しかし、宏が悪い訳では無い。 悪いのは、自分の気持ちを言葉にしない自分自身だ。
(うんっ! 頑張ろう! いつか認めて貰う日までっ)
背後に隠した右手を握り、気を取り直してひとり息巻く美優樹だった。 と、ここで首を傾げた夏穂が宏の腕をツンツンと引く。
「ねぇ、宏クン。部屋がひとつ……って事は、ウチらの部屋はどうなる……」
訝しむ夏穂の言葉を片手で遮り、宏は壁に埋め込まれたパーティションを引き出した。
「これで、二階部分が五区画に区切る事が出来ます。壁と床、それにこれ自体にも厚みがあるので防音や断熱などは心配いりません。エアコンもそれぞれの区画の天井に埋め込まれていますし、先程のインターホンも一区画ずつに付いてるので、静かで快適に過ごせるかと思います。夏穂先生達は自由に三区画分、使って下さって結構です。場所はお好きな所をどうぞ♪」
「「「………………………………」」」
にこやかに話す宏だが、三人の下宿人は言葉を失う。 一体、今日だけで何回、唖然としただろう。 てっきり、実家のような六~八畳の部屋をそれぞれ宛がわれるものとばかり思っていたのに、ここの一区画(ひと部屋?)分だけでもザッと見、十四~十八畳分の広さがあるのだ。
「俺達の子供はまだまだ先の話になるので、今は自由にここを使って好いですよ」
大家(宏)の言葉に、我に返った店子・その一(夏穂)は嬉々として、
「じゃ、ウチは陽当たりの一番好い、ここを使わせて貰うわね♪」
と真っ先に勢い好く手を挙げ、二階の端にあたる南東向きの区画を早々にゲットしてしまった。 そんな叔母の厚かましさに赤面した店子・その二とその三(飛鳥と美優樹)だったが、
「それじゃ、私達はその隣を拝借します♪」
「お借り致します」
と、遠慮がちに、しかし喜んで手を挙げた――。
★ ★ ★
年齢や処女性で弄られ、大噴火している叔母を眺めつつ、飛鳥と美優樹は昨日の出来事を鮮明に思い出していた。 それは、遙か遠い記憶のようにも映っていた。
(つづく)
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