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 ライトHノベルの部屋  ライトHノベルの部屋  ライトHノベルの部屋
     ~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~


カルテット(4) カルテット(4) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
「あ~ぁ。早く補講、終わらないかな~。せっかくの土曜日だのに、これじゃ気分が滅入っちゃう」

 麗らかな春の陽射しが教室に満ち満ちて机に座る学生のやる気と集中力を奪い、昼食後とあって睡魔までもが容赦無く襲い掛かる、そんな昼下がり。
 女子大の文学部に属する飛鳥は先週に続いて補習を受けていた。

「でもまぁ、今回でラストだから適当に聞き流してさっさと帰ろう。そんで宏先輩と一緒にゲームしたりテレビみたりして、まったりと週末を過ごすんだ~♪」

 これでは補習を受けて当然だと誰もが思うが、脳内に宏が巣喰っている限り、飛鳥に改善を求めるには無理・無駄・無謀な相談と言えるかもしれない。
 元々、飛鳥の脳ミソは中学で陸上部に所属して以降、体育会系として鍛えられたので勉学は大の苦手なのだ。
 そんな学生らしからぬ(あるいは最も学生らしい?)想いに浸っていると。

「あ、またメールだ。さっきから何度も来てるけど、今は見る訳にいかないんだよなぁ。この補講中に携帯弄ったら無条件でFランクに降格決定だし。私が補講受けてるの知らないのは……美優樹サイドの連中、だな」

 上着の胸ポケットに入れた携帯が数分おきに小さく震える(ちゃんとサイレントモードにしてある)のも、飛鳥の集中力を削ぐ大きな要因となっていた。
 しかも。

「携帯の振動がオッパイの先っちょに伝わって……これはこれでクセになりそう♪」

 つい、ペン先でゆるやかな丘の頂点に携帯が当たるように位置を直し、次の着信を心待ちにする飛鳥。

「――なんてバカやってる場合じゃないっ」

 思わず全身がエロモードに染まりかけ、頭を振って講義に集中する。

「立て続けに鳴るのはそれだけ急ぎの用件があるってコトだよな。でも、こっちは単位が掛かってるし、あと一時間で終わるから、それまでは我慢、我慢。相手にも待って貰わんと」

 しかし、午後の気怠い雰囲気と胸のバイブレーションは飛鳥の脳ミソをいとも簡単にピンク一色に溶かしてゆく。

「オッパイ震えるの、気持ち好いなぁ♪ 今度、美優樹や夏穂姉さんにも試してみようっと♪」

 家に帰ったら性活物資を一括管理する若菜に胸用のローターが無いか聞こうと決心する飛鳥だった。


     ☆     ☆     ☆


 飛鳥が教室で悶々としていた頃。
 宏は美優樹と肩を並べて大学のメインストリートを正門に向けて歩いていた。

「今日は楽しかったよ。美優樹ちゃんが日頃過ごす工学部やパブリックスペースが見られて好かった
し♪」

「そう言って戴けて嬉しいです。でも、医学や獣医学、農学や理学に各運動部も見てませんし、エロゲ分析サークルや黒魔術振興会に腐女子組合など面白系サークルが集まっている場所もあるのですが……今度、ご招待した時にご案内しますね♪」

「エロゲ分析? 腐女子組合? 黒魔術!? さ、流石、女子大だな。 ……って、招待? 招待なんて出来るの?」

「学園祭が秋にありますから♪ ここは女子大なので、家族と言えど学生の招待が無いと男の人は入れないんです」

「あ、そうか。去年は引っ越しのドタバタで行く機会逃しちゃったからね。それじゃ今年の学祭、期待してるよ♪」

「ハイッ! その時は隅々までご案内します♥」

「うん、約束だよ♪ 指切りげんまん――って!?」

「宏さん? 急に立ち止まって、どうしました?」

 右の小指同士を絡め合ったまま固まる宏に、美優樹のツインテールがサラリと自身の肩を滑る。

「あ、いや、今の今迄、すっかりと飛鳥ちゃんの存在を忘れてたな~、と思ってさ。今、飛鳥ちゃんはどこにいるの?」

「あ……美優樹もすっかりとお姉ちゃんの存在を忘れてました。……てへっ♪」

「……美優樹ちゃん、身内には結構、ドライになるよね。夏穂先生とかにも」

「気のせいです♪ お姉ちゃんは……この時間は補講の真っ最中です。終わるまであと小一時間は掛かります」

「補講だって? キッチンのボード(各人の行動予定が記されたホワイトボードの事だ)には確か……午後まで授業、って書いてあったと思ったけど、補講って事は単位、ヤバイの?」

 歩き出す宏に美優樹は宏の左肘の上着をちょこんと掴み、寄り添いながら実情を聞かせる。

「授業はカムフラージュです。補講なんて書いたら、皆さんに頭の悪さを触れ回るようなものですから。美優樹は今日提出した春休みの課題に自信ありますが、先週提出したお姉ちゃんは見事にEランクの評価を受けたんです」

「それは……どの程度(レベル)なの?」

 一応尋ねるものの、宏はアルファベット順から何となく想像が付いてしまう。
 果たして。

「Aプラスが一番好くて、以下、A、Aマイナス、Bプラスと続いて、Dマイナスが最終(デッド)ラインとなっています」

「それじゃ、飛鳥ちゃんのEは……」

「高校風に言えば救済のある赤点――追試ってトコでしょうか。そもそも春休みの課題は後期試験とは全くの別物で、必修・選択に係わらず科目毎の一年間の総復習でもあるんです」

「ふむふむ」

「そこで余りに成績が悪ければFランクとなってその科目の単位を喪失します。この大学(がっこう)では在学期間中に各試験や毎月出される月課題でF評価を通算して二つ貰うとその時点で退学処分となります。しかし、万事グレーゾーンがあるように――」

「FよかマシだけどDマイナスに一歩及ばない追試の人をふるいに掛けて当落を確定させる訳か」

「それが補講です。先週と今週で二コマ分の補講を受ければDマイナスに昇格するんです。しかし補講をひとコマでも休んだり遅刻に早退、携帯に触れたり居眠りや私語など受講中の態度に問題があった場合には無条件でFランクに降格します。なので、たとえ四年間ずっとAランクの成績を修めていても卒業試験のとある科目で通算二つめのF評価を下された瞬間に退学となり、これまで学んだ全てが水の泡となる場合もあるそうです。当然、出席日数や日頃の受講態度、生活態度も評価対象となっています」

「やる気の無い者や素行の悪い者、成績に極端な偏りがある者はどんどん落とされる仕組みだね。ま、大学なんだから、その位の厳格さは当然か。でも昇格に降格だなんて、まるでどこぞのサッカーリーグみたいだ」

「うふふ♪ 当事者はスリルを味わえて一喜一憂ですね♪ そもそも、お姉ちゃんの成績がE評価になったのだって自業自得です。毎日少しずつ予習復習し月課題も徐々に仕上げて行けば好いのに、直前になって一夜漬けするから通り一遍で浅く軽いモノしか出来無いんです」

「スリル、か。美優樹ちゃんらしい見方だね。一夜漬けにしても、俺も中高の定期テスト前や夏休み冬休みの宿題はそれが当たり前だったから、飛鳥ちゃんを責められないなー」

 姉を庇い頬が緩む宏に、ゴスロリ美少女の眉間に小さな皺が寄る。
 どうやら軽い嫉妬心が湧き上がったようで、拗ねたような口調になってとんでも無いコトを言い出した。

「宏さんはお姉ちゃんに甘々です! もっと厳しくしても好いと思いますよ? それこそ、蝋燭と鞭を使って」

「はぃ~~~? 蝋燭と鞭ぃ!?」

 思わず立ち止まり、美優樹をまじまじと見つめ、声が裏返る宏。
 周囲を歩く女子大生が何事かと一斉に振り向き、女の園に紛れ込んだ年頃の男に視線を向けて来た。
 しかし美優樹は注目される事に慣れっこになっているらしく、宏に集まる好奇な視線に構わず話を進める。

「あ、間違えました。飴と鞭、です」

「えらい間違えようだね」

「噛みました」

「噛んでないっ」

「噛みまちた」

「ホントに噛んでるし!」

 見事にボケる美優樹に、テンポ好く突っ込む宏。
 宏は、これではまるでどこぞの双子美姉妹(ふたごしまい)――千恵と若菜――のようだと思った。
 美優樹も宏との言葉のキャッチボール(漫才?)に満足したのか満面の笑みを浮かべ、鈴を転がすような澄んだ笑い声を上げる。
 もしかしたら、美優樹は憧れていた宏との学校生活を仮初めとは言え味わい噛み締めているのかもしれない。

「――と、腹が減ったな。それじゃ、駅前でランチしてから帰ろうか♪」

「ハイッ! 喜んでっ♥」

 正門で入構証を返し、宏は頬を紅(あか)く染めた美優樹と学生カップルの如く腕を組み、飛鳥の存在を綺麗に忘れたまま駅へ向かうのだった――。


     ☆     ☆     ☆


「げげっ!? ナニ、これ――っ!!」

 二週に亘る補講を無事終え、その場で単位も(辛うじて!)貰えた所で。
 飛鳥は広い教室の隅々まで響く大声で叫んでいた。

「宏先輩がここに来てるってぇ――!? しかも美優樹と一緒――っ!?」

 力一杯握り締めた携帯の画面には、『飛鳥ちゃん愛しの旦那様来校! 美優樹ちゃんとデ~トなう♥』の文字が。
 しかもご丁寧なコトに、デコメで送られて来ていた。

「いったい、いつの話よ! ……って、最初の着信が二時間も前!? あっちゃぁ~~~」

 思わず頭を抱え、それまでノートを広げていた机に突っ伏す飛鳥。
 着信履歴には美優樹の複数の友人(飛鳥の学部違いの友人でもある)から十数件、同じ内容が記されていた。

「盛んにメール来てたの、これだったのかぁ~。補講が始まった直後じゃん。タイミング、悪(わる)ぅ~~~」

 脱力し、口から魂が抜け出たように真っ白になる飛鳥。
 仮に補講直前に知ったとしても単位が懸かっているだけに手の出しようが無いし、どんな用事で来たのかは知らないが二時間も経っていれば今も構内にいる可能性は限り無く低いだろう。

「まずは、みんなに返信しとこ。『補講……』じゃない! 『授業終了なう。返信出来ずスマソm(_ _)m』、送信、っと」

 そして他のメールや電話の着信が無いかを確認し終えた飛鳥が再び宏に想いを馳せたところで。

「あれ? それじゃ二人は今どこに? もう帰ったか、それともどこかにいるのか……直に聞いた方が早いな」

 親指ひとつ――ワンタッチボタンで美優樹を呼び出すものの。

「美優樹の携帯、留守電対応になってる! あんにゃろー、私を無視して宏先輩とどこにしけ込んだっ!? ダメ元で構内探しに行くか……って、無理だな。手掛かりが全く無いし」

 メールの最終着信には、『旦那様は学食なう』とあるが、これから行っても既にいないだろう。
 時間も経っているし、他を探そうにも敷地は広大で建物も数多いのだ。

「あ、そうだ! 携帯のGPSで二人を探せば好いんだ! 美優樹が赤で、宏先輩は緑……だったな」

 弾かれた様に携帯を操作して地図を表示させ、赤と緑の輝点が点滅している場所を見ると……。

「うわっ、大学の駅前にいる! ここは……あの洒落たパスタ屋か! 安くて旨くてボリュームあって私らの行き付けの店じゃん……じゃ無くてっ!! 輝点は動いてないから……さては二人して茶、しばいてるな!?」

 学業では低レベルだが、宏が絡むと途端に高レベルな頭脳にレベルアップする飛鳥。
 恋する乙女心(追及心?)は侮れない。

「よし! ここなら全速で走れば二分……いや、一分半で追い着く!」

 大学の正門から最寄り駅までゆっくり歩いて五分程の距離なのだ。
 体育会系だけあって、そうと決めれば行動の早い飛鳥。
 あっという間にデイパックを背負うと地図を表示させたまま携帯を握り締め、廊下を全速力で駆けていた。

「宏先輩、待っててね! 今、行くからっ! 二人は……まだ移動してない! 大丈夫! 追い着くっ」

 栗色に煌めくツインテールを真横になびかせながらチラリと携帯を見、勝利(?)を確信した――のだが。

「お、遅かった……」

 道半ばにして赤と緑の輝点が動き出し、当の店に辿り着く直前に駅から線路に沿って移動を始めていた。
 大きく息を弾ませたまま駅に視線を向ければ、アルミボディーに黄色いラインの電車が飛鳥を嘲笑うかのように加速してゆくではないか。

「くっ! 諦めてなるものかっ。次の電車で追跡よ!」

 急いで駅へダッシュし、ミニスカートを翻しながらホームに続く階段を駆け下りた――のだが。

「な、なんで私の時に限って、こーなるっ!」

 ホームの鉄柱を蹴飛ばし、怒りを露わにする飛鳥。
 回りの乗客達が目を丸くして遠巻きにするのも構わず、握り拳の中指を立てると心の底から叫んだ(咆えた!)。

「こんちくしょ~~~~っ!!」



 飛鳥は宏(と美優樹)を追ってホームに下りたまでは好かったが、次の電車がいつまで経っても到着しない。
 日中は六分毎に来る筈が、かれこれ二十分以上経っても来ないのだ。
 三十分過ぎて頭の血管が音を立ててキレ始めた所で、駅のアナウンスが飛鳥の(凄く短い)導火線に火を点けた。

『総務線の各駅電車は前の駅で車輌故障を起こして立ち往生しておりま~す。修理が終わるまで今暫くお待ち下さ~い』

 のほほんとした駅のアナウンスに周囲の乗客達は「毎度の事だね」と気にも留めず、のんびりとしている。
 しかし飛鳥にとっては、いつもなら聞き流す事でも今日だけは看過出来無い。
 なにせ、愛しき男性(ひと)がゴスロリっ娘(こ)により拉致されている真っ最中なのだから。
 結果、飛鳥の魂の叫びと相成った訳である。

「なんだって、いつも割りを食うのよっ! 私がナニをしたっ!? なんもしてないのにっ!」

 宏とナニをしたのは美優樹なのだが、そこまでは知らない飛鳥。
 ひとつ向こうの線路では、藍色のラインの快速電車が軽快な音と共に右に左に何度も高速で走り抜けてゆく。
 宏達と暮らす屋敷の最寄り駅は快速も停まるが、飛鳥と美優樹の通う大学(がっこう)の最寄り駅は各駅停車の電車しか停まらないのだ。

(くぅ~~~~~っ! 快速停めて飛び乗ってやろうかっ! それなら十分で着く!)

 やる事なす事全て裏目になり、飛鳥の心が怨めしくなってゆく――が、そこは晴れて想い人の妻となった身。
 愛し愛される事で心のキャパシティが大幅にアップしたので、以前のように大荒れはしない。

「ま、仕方無い。追跡は諦めるしかないか。美優樹達は……GPSが正確なら電車下りてお屋敷に向かってる最中だし。もしもこれがネズミーシーや臨海公園の大観覧車に向かってたらマジギレするトコだったけどね。……あ、もう夕方かぁ~、お腹も空くか。私も空いたなー」

 いつしか陽も翳り夕刻を意識した所為か、自身の空腹も覚える飛鳥。

「今日のご飯はなんだろな~♪」

 既に意識は夕飯のおかずで占められ、さっきまでの怒りや焦りはとうの彼方に消滅している。
 体育会系だけあって、脳ミソも筋肉で出来ている飛鳥だった――。


     ☆     ☆     ☆


「ただいまー! 宏先輩はどこ?」

 飛鳥が足音けたたましくリビングに飛び込むと、キッチンにいた多恵子や千恵、真奈美が一斉に振り向いた。
 チャイムの音(人が門を通ると屋敷全体に鳴るシステムになっている)が鳴り止まないうちに現われたのだから、一様に驚いた顔をしている。

「あら、飛鳥、おかえり。何だか……いつもより顔が崩れてるわよ?」

「飛鳥ちゃん、おかえり♪ 土曜なのに大学(がっこう)お疲れ様。……で、そんなに慌てて何かあった?」

「おかえり、飛鳥ちゃん。どうしたの? そんな息切らして」

 母である多恵子から辛辣に突っ込まれ、千恵と真奈美が首を傾げ、晶やほのか、夏穂もリビングのソファーから何事かと首を伸ばし、目を見張っている。

「あ、お母さん。ただいま。千恵先輩と真奈美さん、晶先輩とほのかさんもただいま。で、宏先輩はどこ? 美優樹と一緒に帰ってるんでしょ?」

「――って、なんでウチだけ挨拶無しなのよっ!」

 セミロングの髪を振り乱してブー垂れる叔母を無視し、大きく息を弾ませたまま飛鳥はリビングを見渡す。
 大学の最寄り駅から真っ直ぐに帰る宏と美優樹に一旦は安堵したものの、宏が大学(がっこう)に来た理由や美優樹と何をしていたのかが気になり出して居ても立ってもいられなくなり、電車を降りるや否や駆けて来たのだ。
 しかし、逢いたい男性(ひと)の姿はどこにも無い。

「宏先輩、お部屋にいるのかな……」

 最後まで追い付けない虚しさに脱力する飛鳥だったが。

「宏ならお風呂に入ってるわよ。ニャンコと遊んでヒマそうだったから先に入って貰ってるの。美優樹ちゃんは次の課題がどうたら、とか言って部屋にいるわよ」

 腰まで届くポニーテールを揺らしながら千恵が歩み寄り、にこやかに対応してくれた。
 中学と高校の五つ先輩だのに偉ぶる事無く、気さくに接してくれるだけでも飛鳥の溜飲を下げるには充分だった。
 因みに、ニャンコとは十ヶ月程前に真奈美が助けた野良の三毛猫(雌で推定生後十一ヶ月位)の事で、ちょくちょくこの屋敷に遊びに来てはみんなとじゃれ合い、ご飯を貰ったり泊まったりしてゆくのだ。
 現に今も晶の膝の上で喉を鳴らしながら丸くなっている。

「あ……そう、ですか。えっと……」

(どうしよう。不躾承知でお風呂へ押し掛けて聞き出そうか。それとも夕食の席で聞く……のは何となく宏先輩をみんなの前で弾劾するみたいで憚(はばか)られるな)

 目線を下げて暫し迷っていると、世話好きの御姐様がひとつ提案して来た。

「急ぎの用事なら一緒にお風呂、入っちゃえば? 優さんと若菜も一緒だけど、この二人だけなら大丈夫でしょ?」

「はぁ、まぁ。そっか、優先輩と若菜先輩、か」

 駆け込んだ勢いはどこへやら、ひとり静かに眉根を寄せ考え込む飛鳥。

(二人共バストサイズが私と同じ七十台だけど――)

 下地島での『ちっぱい騒動』を機に、飛鳥は徐々にではあるがみんなと風呂を共にするようになっていた。
 それでもDカップ組(晶、真奈美、多恵子、夏穂、千恵の事だ)と入浴するのはまだ若干の抵抗があり、千恵はそんな想いを察した上で、屋敷では微乳に属する優と若菜が入っている風呂を勧めたのだ。

(――優先輩と若菜先輩はCカップなんだよなー。低い丘陵の私からすれば二人共山脈に見えるしー。あ~ぁ、私の成績はEだのに胸だけはダントツのA! ……って、ちっとも笑えねぇっ!!)

 頭を抱え、ひとり百面相で身悶える子羊(?)に、千恵は大きく見上げたまま破顔する。
 なにせ、身長百八十センチの飛鳥より頭ひとつ分――三十センチ低いので、どうしてもそんな格好となるのだ。

「無理にとは言わないけど、裸の付き合いって慣れれば好いものよ♪ 今なら落ち着いて入れるし、何より宏が一緒なんだから心も温まるしね♪ そんじゃ、あたいは夕食の準備に戻るわね」

 千恵は、余り人に聞かれたくない話ならここでするより二人しかいない風呂の方がし易いでしょ? と暗に匂わせたのだ。

「へ? ……あっ!? す、すみません! お時間を取らせてしまいましたっ! ありがとうございます!」

「好いって好いって♪ 同じ奥さん同士、変な遠慮は無し、よ♪」

 ウィンクひとつ残し、足取り軽くキッチンへ戻る千恵の後ろ姿に、腰を深く折ったままの飛鳥は暫し見惚れてしまう。
 流石、生徒学生時代は御姐様と呼ばれただけの事はあって、的確なアドバイスを贈り、相手の心へ必要以上に踏み込ま無い。
 そんな小柄な千恵の大きく包み込む広い心に、飛鳥のそれまでの怒りや焦り、劣等感が薄まってゆくのだった。


     ☆     ☆     ☆


「あの~、ご一緒して好いですか?」

 ツインテールも解いて素っ裸となった飛鳥は浴室のガラスドアを細く開け、顔だけ出して中の様子を窺う。
 すると、朦々と立ち昇る湯煙の向こうから間髪入れずに明るく澄んだ声が返って来た。

「あ~~~、飛鳥ちゃんだぁ♪ 一緒に入ろう~♪」

 姿を見るまでもなく、大和撫子を地で行く若菜だ。
 白く霞む中で目を凝らすと、湯船の中に三つの人影が並んでいるのが判った。
 左はショートのヘアスタイルからして優だろうし、右は腕を大きく振っているので若菜だとすぐに判った。
 そして、その中央にいる肩幅の広い影が小さく手を挙げて迎えてくれているのが目に入った。

「飛鳥ちゃん、お帰り♪ さ、入って」

(いたぁ――――――っ!! やっと! やっと宏先輩に追い着けたっ! 長かったぁ~~)

 通常は小一時間の道程(みちのり)を今日は数時間掛けて追いに追い掛け、ようやく巡り逢えた愛しき男性(ひと)。
 その優しい声と逞しいシルエットに、飛鳥はそれまでの疲れが一瞬で吹き飛んだ。

「宏先輩、ただいま! それじゃ、お邪魔しま~す♪」

 気分好く後ろ手にドアを閉め、空いているカラン(ここの浴室には三組も備えてあるのだ)で掛け湯をしていると湯船の中から三つ目の声が掛かった。

「……ふふ♪ 美女がまたひとり増えた。ヒロクンも嬉しそう」

 その落ち着いた声に目を上げると、正面の鏡の中で優が笑みを浮かべて歓迎してくれていた。
 と、ここで何を思ったのか、宏が暴挙(としか思えない行動)に出た。

「新妻さん、いらっしゃ~い♪」

 どうやら関西出身の有名司会者の仕草と口調を真似たらしいのだが……。

「宏ちゃん~、全っ然! 似てないよ~。ダレ、ソレ~?」

「……ヒロクン。無謀なマネはしない方が好い。痛々しくて見ているこちらが切なく哀しく虚しくなる」

「宏先輩……脳ミソに蛆、湧いてません?」

 オーバーアクションと妙なイントネーションで言うものだから、その場にいる全員から総スカンを喰らってしまう。

「……………………ぐっすん」

 三人の奥さんから冷笑&溜息混じりに情け容赦無く突っ込まれ、広い浴槽の隅で背を向け膝を抱えて泣く宏。
 どうやら自信満々にかました、渾身のひと言(ギャグ?)だったらしい。

「……まぁ、被害が三人で好かった。不幸中の幸い。これが夕食の席だったら被害者十人の大惨事」

 止(とど)めを刺す優に笑いが湧き起こる中、飛鳥は手っ取り早く身体と髪を洗い終えると湯船に向かう。
 この浴室は十二畳強の広さがあり、床を掘り下げて造られた湯船も四畳半程の大きさなので、大人五人が入っても手足を充分に伸ばせるだけの余裕があるのだ。

(何度見ても広い浴槽だわ~。既に大人三人が入っているのに隙間だらけで、ちっとも狭さを感じない)

 なんでも、このお屋敷は昔の商人宿を民家に改装したものを買い取ったものなので浴室や脱衣所、廊下やリビングがやたら広かったり天井が高かったりするのは宿屋時代の名残だと聞いている。
 しかも、飛鳥にとってこの屋敷は梁も高く、一般住宅のように額を強打する心配が全く無いので非常に暮らし易い(下を向きながらでも安心して歩ける♪)家でもあった。

「失礼しま~す。あ゛~~~~、生き返るぅ~♪ 極楽極楽~~♪」

 肩まで浸かり、無意識に漏れるひと言に、宏に寄り添い微笑みを湛えていた優がクスリと笑う。

(それにしても……優先輩のクールなんだけどどこか優し気な表情や線の細さは何回見ても惚れ惚れするわ~。プリンッ、とした上向きのオッパイ綺麗だしウェスト細いし贅肉無いし! ほんと、スレンダー美人って優先輩の為にあるような言葉だわ)

 筆頭妻の晶と双子の妹だけあって、可愛い系よりも美人系の顔立ちなのだ。

(目鼻立ちは整ってるし手足は長いし肌もつるつるだし……非の打ち所がないわ)

 飛鳥は湯の中で揺らめく優と若菜の瑞々しい肢体を何度もチラ見してしまう。
 心なしか顔が火照り出し、鼓動が早まったのは――温かな風呂に浸かっている所為だと思いたい。

(若菜先輩も凄いよねー。切れ長の澄んだ瞳に鼻筋の通った美顔と水滴を弾く白い肌に漆黒の髪のコントラストは大和撫子そのものだわ! 八頭身のしなやかなボディーラインやお碗型の美乳に、細過ぎず太過ぎない手足は完璧なモデルさん体型だし! 今なんてアップに纏めた髪のほつれ毛がうなじに貼り付いて……メチャ色っぺ~し!)

 長身の体型や常に明るく超・前向きな性格はリビングで相手をしてくれた千恵の双子の妹とはとても思えないが、人を強烈に惹き付ける美人である点は全く同じだ。

(しかも優先輩と若菜先輩、見た目は細いのに堂々たるCカップ! それに比べ私の胸は……………………ふぅ)

 つい自分の微乳と見比べてしまい、溜息ひとつ、漏らす飛鳥だった。

「――って、まったりしてる場合じゃ無かったんだ。あの、宏先輩。今日、大学(がっこう)に来てたそうですが、どうしたんですか?」

 飛鳥は宏と向かい合う位置で居住まいを正し、窓を背に足を伸ばしてリラックスしている宏(先程の深刻なダメージからどうにか立ち直ったようだ)に尋ねた。
 この答えが聞きたいが為に駅からダッシュして来たのだ。

「あ、俺が行ったの聞いたんだ。美優樹ちゃんから電話があって、家(うち)に忘れた課題を届けてあげたんだ」

「へっ? 忘れ物? 届けに? あ、そう……ですか」

 予想だにしなかった単純明快な答えに目を丸くし、拍子抜けする飛鳥。
 普通に考えれば女子大に男が――それも身内が来る理由など簡単に想像出来るが、自分の知らない所でいきなり「美優樹とデ~トなう♥」などと聞かされて頭に血が昇り、そこまで思い至らなかったのだ。

(ぜ、全っ然、思い付かんかった……)

 がっくりうな垂れ、余りに単細胞な自分の脳ミソに嫌気が差してしまう。
 これではE評価と下されて文句を言えないどころか、単位を貰えただけでも御の字だ。
 気分的に深~く落ち込む飛鳥は、宏に尋ねるに至った心情を打ち明けた。

「友達から、宏先輩が大学(がっこう)に来てる、ってメールを何通か貰って、どうしたのかなー、と思って」

「そうだったんだ。こっちこそ知らせなくてごめん。飛鳥ちゃん、午後も授業ってキッチンのボードに書いてあったから、邪魔しちゃ悪いと思って連絡しなかったんだ」

 すまなそうに眉を下げる宏に、飛鳥は慌てて両手を振る。

「あ、いえ、そんな! こ、こちらこそ問い質す真似してすみませんっ!」

 宏の口から出た授業と言う言葉に、飛鳥は補講を受けていたとは死んでも言えなくなった。

(そ、そうだった! 見栄張ってボードに授業って書いたんだった! いくらなんでもAカップな上に頭まで悪い女だと思われるのは辛いもんっ)

 しかも、ここで美優樹と大学(がっこう)のどこで何をしていたのか、などと根掘り葉掘り下手に聞こうものなら、話の流れから授業では無く補講、延(ひ)いては単位を落とす寸前だったとバレかねない。

(ここは宏先輩が大学(がっこう)へ来た理由が判っただけでも善(よ)しとしとかなきゃ!)

 お湯に浸かっているのに蒼くなったり脂汗を浮かべたり。
 そんなテンパり気味の飛鳥に、みんなが目にするホワイトボードに授業と記した後輩の心情を慮(おもんばか)って宏が話を合わせていたなどと、判ろう筈も無かった。
 言葉が詰まって無言の時間が一瞬流れるが、にこやかな宏の声が時を動かした。

「まぁ、好いから好いから、気にして無いよ。せっかく一緒に風呂に入ったんだ。ゆっくり浸かって温まってね♪」

「それじゃ~、みんな程好く温(あった)まったところで~、ヌルヌルして気持ち好くなろう~♪」

 話の切れ目を待っていたらしく、切れ長の瞳を輝かせた若菜がここぞとばかりに手を挙げた。
 見れば、透明な液体の入ったボトルが両手に握られている。
 どうやら、今迄湯船に浸けて温めていたようだ。

「ソレって……真ん中が括れた形と無色透明で粘度の高い液体からしてローションぽいですけど? ――って!?」

 どこか見覚えのある形だったので思い付くまま言ってしまい、慌てて口を両手で塞ぐ飛鳥。
 風呂場でローションとなれば当然使い道も知っています、と、己のスケベ度を自白しているようなものだ。
 そんな落ち着き無く瞳を泳がせ口籠もる飛鳥に、エッチに目敏い宏から当然のように突っ込まれてしまった。

「飛鳥ちゃん、ローション知ってるんだ」

「いえ、レディコミ雑誌の広告や懸賞に載ってるのや脱衣所に置いてあるのを見た程度で。みなさん、マットプレイが好きなようですね。流し場にはエアマットがいつでも使えるよう常備されてますし」

「へ~、飛鳥ちゃん、マットプレイも知ってるんだ~♪」

「あ゜っ! いや、そのっ、それはつまりっ、レディコミに詳しく載ってて……っ!」

(私ってば、話せば話す程、墓穴掘ってるっ!?)

 ニコ目の宏に見つめられ、飛鳥は湯船の中なのに背筋が凍り、額から冷や汗をドバドバ垂らしてしまう。
 いくらレディコミ愛読者だと認知されてはいても、四六時中エッチな事ばかり考えている女だとは思われたく無い。

(あ~~~もうっ、私のバカバカッ! Aカップで頭悪くてその上スケベな女って……辛いを通り越して痛いわっ!)

 今日だけでいったい何度、頭を抱えただろうか。
 頭のてっぺんまで湯に沈み、そのまま身悶える飛鳥。
 これでは、股の緩いおバカな女子大生、そのものではないか。
 下ろした栗色の髪がカーテンのように湯の表面に大きく広がり、飛鳥は身を隠すよう小さくなる。

(あ゛ー、今すぐ溶けて無くなりたい! このまま髪に隠れれば、これがホントの髪(神)隠し! ――なんてボケてる場合じゃないっ!)

 湯に沈みながら器用に百面相する飛鳥を面白そうに(唖然と?)見つめる宏、優、若菜の視線が痛い。
 そんな悶絶寸前(おまけに窒息寸前!!)の美少女を救う神が現われた。

「うふふ♪ マットプレイは~、何も恥ずかしいコトじゃ無いよ~。むしろ身体に好くて楽しいコトだよ~♪」

「……ヒロクンとのマットプレイは俗世を忘れて無心で楽しめる♪ ここは心と身体をリフレッシュする場所」

 両脇に手を入れ、沈む飛鳥を引き上げた若菜は満面の笑顔でローションを渡す。
 優もカラン前の洗い場にエアマットを敷き、お湯を少し出したシャワーヘッドを置くと準備万端整え手招きする。
 二人の手際好さと嬉々とした笑顔からすると、どうやら今日は初めからマットプレイをするつもりだったらしい。

(あ! だから夕方の早い時間に宏先輩とお風呂に入ってたのか! お、恐るべし美女軍団! レディコミに載ってた、あ~んなプレイや、こ~んなプレイ、もしや全部やってるんじゃ……)

 若菜と優に励まされ、飛鳥は恐る恐る(実際は興味津々と♪)ローションを開けるのだった。


     ☆     ☆     ☆


(宏先輩とマットプレイ、か。楽しみだなー♪ やっぱレディコミみたく、女がご奉仕するんだろうなー)

 切れ長の瞳を煌めかせ、心弾ませる飛鳥。
 午後からの鬱展開(?)が転じて未体験ゾーンに突入したのだから好奇心が刺激されて仕方が無い。
 ナイ乳コンプレックスが長引いた影響で、飛鳥は妻達の中で唯一、マットプレイ未経験だったのだ。

「若姉、俺はどうする? 今日は趣向を変えて俺が飛鳥ちゃんにご奉仕しようか?」

「ううん、宏ちゃんはいつも通りに寝てて好いよ~。今日は~、私達が飛鳥ちゃんにマットプレイのイロハを教授するから~♪ いわば、マットプレイ講座の補講だよ~♪」

「ぐはぁっ!!!」

 おそらく無意識なのだろうが、若菜の口から突然飛び出した補講と言うキーワードに、思わず胸を両手で押さえヨロヨロと後退る飛鳥。

(お、恐るべし偶然! 侮り難し天然! ――ってか、何でいつも私に補講が付き纏うっ!?)

 中学・高校と赤点(ボーダーライン)スレスレの教科が幾つかあっただけに、もはや、補講・補習と言ったモノから逃れられない運命なのかもしれない(勿論、全力で拒否するが)。

「……きちんと基本を押さえないと、滑って頭を強打するから甚だ危険。だから最初が肝心」

 飛鳥が悶々としている間にも優から注意があり、若菜と優によるマットプレイ教習が始まった。
 女性陣はエアマットを囲んで膝を着く。

(何だか面白そう! 宏先輩がどんな反応示すかも楽しみ~♪)

 その宏はと見ると、言われるままに重ねた手の甲に顎を載せて横たわっている。
 ここから先は性活指導のリーダーたる若菜のリードでコトが進むらしい。

「それじゃ~飛鳥ちゃん。まずはローションを伸ばすトコから始めよっか~♪」

「はい? ローションを……伸ばす? このまま使うんじゃないんですか?」

(そんなコト、レディコミに載ってなかったし友達から聞いた事も無いわ)

 飛鳥は思わず眉根を寄せ、のっけから大きく首を捻る。
 そんな、見るからに初心者マーク全開な飛鳥に、終始笑顔の若菜は懇切丁寧に教えてくれる。

「勿論、このままでも使えるよ~。でも~、お湯で伸ばすと滑り具合が調節出来るし~、ローションの節約にもなるから好いんだよ~」

 洗面器にボトル半分の量を垂らし、シャワーのお湯を少しずつ加えて手で練ってゆく若菜。
 餃子や春巻きの皮など自前で作り上げるだけに、捏ねる手付きに一切迷いが無い。
 丁寧に掻き混ぜ何度も持ち上げては垂れ具合を見極め、指で擦り合わせては粘度を確かめてゆく。

「……ローションを節約して使うのは当然だけど、封を切ったら出来るだけ早く使い切らないとダメ。何故なら、口に入っても安全なように作られているから保存が余り利かない」

「ふむふむ」

 優からの判り易い解説も加わり、飛鳥は真剣に頭の中へインプットしてゆく。
 もっとも、勉学にもこの位真剣になればEだのDだのと騒がなくても済む……筈だが、それをツっ込む者――夏穂とか美優樹とか多恵子がいないのが飛鳥には幸いだった。

「ん~~~、この位、かな~。飛鳥ちゃん~、手で確かめてみて~。これが今お湯で伸ばしたもの、それがボトルから出したままのものだよ~♪」

「どれどれ? ……あ、ホントだ! お湯で伸ばした方は粘りが薄いですね。でも滑り具合は殆ど同じか少し浅い……軽い? 感じですね」

「当たり~♪ ローションをそのまま使うと滑りは一番好いけど~、濃過ぎて肌や床に纏わり付いちゃうんだ~。だからお互いの肌や温もりを感じる程度に薄めた方が~、ずっと気持ち好いんだよ~♪」

「な、なるほど。濃過ぎると肌が厚くコーティングされて肌と肌の触れ合いが感じにくくなる、ってコトなんですね。だからお湯で伸ばす時に腕にも塗って確かめてたんですね」

「……飛鳥ちゃん、呑み込みが早い。その調子なら明日からローションの配合を任せられる♪」

 飛鳥に向かってにこやかにウィンクし、ビシッ、とサムズアップする優。
 どうやらここまで順調に来ているようだ。

「ローションを落とす時も~、伸ばした方はすぐに流れ落ちるからシャワーとガス代の節約にもなるんだよ~♪ 濃いままだと床に落ちたのはシャワーの勢いを強くするかデッキブラシで擦らないとなかなか流れないんだ~」

「……いくらヒロクンのお財布が潤沢でも、無駄遣いはダメ。だから常にエコ性活……もとい。エコ生活を心掛けるのが妻たるボク達の努め」

「はいっ、好く判りました! どれもこれも、全て理に適っているんですね!」

 いつの間にか、飛鳥は正座して二人の講義に耳を傾けていた。
 そんな真剣な飛鳥に、優はそれまで浮かべていた笑みを消して真面目な表情に変わる。

「……あと、これだけは絶対に守って。ローションに塗れたまま立ち上がるのは絶対にダメ。十中八九、コケて頭や肘、膝、腰を壁や床に強打する。だからローションプレイを終える時は、座ったまま身体とマット、床に零れたローションを流すのが正解。お湯を弱めに出したシャワーヘッドを手の届く範囲に常に置いておくのは、その為」

「お湯を出すのは~、何も浴室や床とマットを温めるだけじゃ無いんだよ~。宏ちゃんと私達が怪我をしない為の防護策でもあるんだよ~♪」

 若菜も、やや真面目な顔になって見つめて来る。
 二人共、それだけみんなを心配しているのだと、飛鳥は強く判った。
 と、ここで眉を顰めた優が飛鳥に向かってズイッ、と身を乗り出し、顔を寄せてポツリと零した。

「……想像してみて。滑ってコケた弾みに頭からガラス戸に突っ込み、割れたガラスで身体が切り刻まれ鋭く尖った破片が顔面深く突き刺さって――」

「わ――――――――――――っ!! そ、それ以上は言わなくて好いですっ! よ~~~く判りましたからっ!!」

 危うくスプラッター映画になる(なりかけた?)所を、飛鳥は慌てて打ち消す。

「と、とまれ、単にマットプレイと言っても奥が深いんですね。そこまで、ちっとも知らなかったです」

 ひと息吐(つ)いて神妙な顔になる飛鳥に、ニヤリと笑った若菜と優がにじり寄る。

「それじゃ~、前座が終わったところで実践編と行こう~♪」

「……まずは身を以て体験すると好い。それがヒロクンへのご奉仕に繋がる♪」

「へ? えぇ!? え――――――――っ!!」

 若菜と優に両脇を抱えられ、エアマットの上に移送させられる飛鳥。
 さっきまでいた筈の宏はいつの間にか湯船へ移動し、ニコニコ顔でこちらを見ている。

「あのっ、実践……って、まさか私が『される』んですか!? 私が『ネコ』……違う! 『受け』、なんですかぁっ?!」

「……だからそう言ってる。どこをどうされればどう気持ち好いのかを身体で覚える♪ ……ある意味『ネコ』、だね」

「それじゃ~、踏ん付けたり床のタイル地に擦って痛めたりしないように~、このクリップで髪をアップに纏めてね~。……そうそう、途中で解けないようにしっかり留めて……オッケー♪ そしたら顎の下に両手を置いて俯せになってね~♪」

「ひぇっ……あ、あ、あ、あ~~~~~っ!! そ、そんなトコに手を入れちゃッ……あはぁ~ん♥」

 若菜と優によって全身くまなくローションを塗りたくられ、飛鳥の悲鳴(嬌声?)が浴室に響くの
だった――。


     ☆     ☆     ☆


 飛鳥が実験台の身となってすぐ。

「若姉、俺と変わろう。俺が若姉に化けてローション塗ってくよ♪」

 飛鳥に見られないようにそっと湯船を出た宏は、飛鳥の足にローションを塗っていた若菜の耳元に口を寄せた。

「うん、好いよ~、宏ちゃん。……うふふふふ~♪ 我慢出来無くなったみたいだね~♪」

 勃起肉にチラリと視線を向けた若菜が委細承知とばかり、宏の耳元で囁くとそっと場所を譲る。
 その時、さりげなく肉棒をさすり上げ、細い指先で亀頭を極軽く扱くのだから流石だ。

(うっひゃぁ~~っ!!)

 掃くような刺激に性電気が背中を駆け抜け、宏は声を上げそうになった。
 しかも、撫でられた弾みで肉棒が大きく震え、ガマン汁が飛鳥の太腿に飛び散ってしまった。

(わ、若姉ってば、油断も隙もありゃせんわっ。……って、ここから先は優姉にも協力して貰おう)

「……(こくん)」

 優も宏の意図を理解したようで、小さく頷くと飛鳥の視野に入る位置に身体を置いた。
 どうやら飛鳥の意識を自分に向けさせるようだ。

(さ~て、ここからは飛鳥ちゃんを弄り回すぞ~~~♪)

 ローションを捏ねるように両手を摺り合わせ、舌舐めずりする宏。
 それに呼応するかのように、勃起肉もビクンと震える。

(うっほ~♪ 飛鳥ちゃんの肌、十九歳だけあってぴっちぴちだぁ♪ しなやかで強靱な筋肉が付いた脚なんか流石、元陸上部。惚れ惚れするわ~。しかも長身の肢体がローションで濡れ光ってるのは……すっげ~淫靡だよなぁ♥)

 両足を軽く開いて俯せになった飛鳥の太腿に、手の平でローションをたっぷりと塗してゆく宏。
 オイルマッサージするかの如く、押し込むようにゆっくりと刷り込んでゆく。

「あ……はぁん……ひぇっ!? あはぁ~ん♥ あ、いゃん♥ そ、そんな中にまで指、入れちゃ……だめぇ♥」

 ローションの滑(ぬめ)りを利用して両手を尻の割れ目からその下に続く淫裂と内腿に這わせる度に、飛鳥から艶っぽい声が上がり、身体が小さく震える。
 そんな初々しい反応が宏の肉棒に、より活力を与えてゆく。

(うわ、チンポからガマン汁駄々漏れ! でもまぁ、こんな色っぽい飛鳥ちゃん目の当たりにしたら当然だよなぁ。だったら……♪)

 宏は素早くローションを勃起肉に塗し、飛鳥の腰を跨いで膝立ちになる。
 そしてそのまま腰を下げ、右手で握った勃起肉を飛鳥の背中に這わせた。
 丁度、背中に指で文字を書く、あの要領だ。

「あれ? 何か熱くて……弾力のあるモノが背中に当たってますが?」

 上体を捩って振り返ろうとする飛鳥を、優が肩に手を置いて瞬間的に止める。

「……まだ動かない。暫く、重ねた手の甲に顎を載せたまま、じっとしている」

 大人しく従う飛鳥に、宏は優に向けてサムズアップし、ニコリと視線を送る。

(優姉、グッドジョブ!)

 飛鳥の足下では、若菜が両手で口を押さえて笑いを堪えている。
 どうやら、最初(はな)っから飛鳥を実験台にして宏が参戦するよう仕向けていたようだ。

(若姉もグッドジョブ!)

 宏が頷くと、若菜も満面の笑みでサムズアップを返して来た。
 若菜自身も結構、楽しんでいるらしい。

(それじゃ、俺も本気でイタズラしちゃおう~っと♪)

 右手で竿を上下左右に動かして亀頭をなすり付け、時には横に倒した竿の側面で背中を削ぐように滑らせる宏。

(うわっ!? コレって……すっげ~クセになるわっ! みんなが俺の背中にオッパイ擦るの、判る気がする!)

 微妙な(絶妙な?)凹凸のある背中だからか、竿に掛かる刺激も一様では無いのだ。
 竿の根本とカリ首が同時に擦れたり竿の真ん中だけが当たったり。

(うはは♪ 人肌に温めたヌルヌルのローション塗れになってるから、このまま射精(だ)しても判らんぞ、きっと♪)

 ペニスからの性電気が思いの外強かった為に、宏の性の箍(たが)が一気に外れた。
 宏自身もマットプレイでは殆どご奉仕される側だったので、こうして女体を弄り回すのが楽しいのだ。
 背骨に沿ってカウパー噴き出す亀頭を何度も上下に滑らせ、そして尻の割れ目に沿って竿を上から嵌め込んだ。

(うっは~♪ 裏筋が尻の割れ目に丁度好く埋まって……先っちょから根本まで万遍無く擦れて気持ち好いっ!! しかもカリ首の左右まで尻たぶに挟まれて……パイズリよか刺激、強っ! しかも尻の膨らみがキンタマ袋まで擦って……タマランチ!)

「はぁん♥ そ、ソコは……だめぇ♥ 若菜先輩、お尻の穴、擦っちゃだめぇ♥」

「うふふ~♪ ここは~、た~~~ぷり、塗らないとダメなんだよ~♪」

 ニチャネチャとゆっくり腰を振る宏に代わって若菜がアドリブで応え、何も知らない飛鳥が身悶える。
 背後からの声に、どうやらずっと若菜に弄られていると思っているらしい。

(俺の存在、すっかり忘れてるよ、飛鳥ちゃん♪)

 美少女による尻の割れ目での素股(パイズリならぬ尻ズリ?)を心ゆくまで満喫した宏は、続けて竿を垂直に近い形で押し下げ、本丸である淫裂に宛がった。
 サーモンピンクに煌めく無毛の割れ目に、滾る竿を小刻みに動かしながら滑り込ませる。

(うわっ!? 飛鳥ちゃん、すっかり蕩けてる!? ラヴィアが充血して薄っすら開いてるし! あぁ……チンポがビラビラに挟まれて……か・い・か・ん~♥)

 勃起肉の前面と左右が熱いぬかるみに嵌ったような感覚に、宏の性感がまた一段、上昇する。
 しかも、明らかにローションとは別の滑(ぬめ)りが竿に纏わり付いている。

「あん、若菜先輩の指、熱いですぅ~♪」

 どうやら性電気で悶えているのは飛鳥も一緒のようで、鼻に掛かった甘い声を上げ、小さく腰も蠢かせている。
 それも、自ら竿に擦り付けるような動きで、だ。
 そんな可愛らしい反応に、宏の射精感が一気に高まる。

(このままで一回、射精(だ)すか。俺も辛抱堪らんし!)

 目線で優と若菜に合図を送ると、阿吽の呼吸で頷き返して来た。
 流石、長年連れ添った間柄だけはある。
 宏の射精をアシストするように優は飛鳥の脇の下からバストの横に手を伸ばして撫で擦り、若菜は盛んに飛鳥の身体を褒める言葉を投げ続ける。

(それじゃ、始めチョロチョロ……)

 宏はカリ首でラヴィアの縁を掠めるように、縦筋に沿ってゆっくりと腰を上下に動かす。
 何度も繰り返していると、飛鳥の反応が急激に高まって来た。

「はぁんっ♥ 若菜先輩。そ、ソコは弄っちゃダメですぅ。感じ過ぎて……乱れちゃいますぅ」

(中、パッパ……)

 飛鳥の荒くなる呼吸と腰の蠢きに合わせ、宏の上下動も徐々に早くなる。
 淫裂に竿を半分沈め、カリ首と竿全体で膣前庭を撫で擦るように腰の振れ幅を大きくする。

「あっ♥ あっ♥ あっ♥ お、女同士なのに……こんな……ローション塗るだけなのに……こんなに感じちゃうなんて……はぁんっ♥ きっ……気持ち好い~~♪」

 俯せになった飛鳥の上体の動きが大きくなり、宏は危うく見つかりそうになってしまう。
 するとすかさず、優が飛鳥の背中に自分のバストを押し付けて動きと背後への視野を封じる。

「……飛鳥ちゃん。これがローションによるパイズリ。本来は縦に重なって動くけど、今回は横に陣取って動いてみる。どんな風に感じるか、確かめて」

「あ~~~、優先輩の弾力あるオッパイが……特に先っちょのコリコリが……背中を這い回って……気持ち好い~~♪ アソコと背中、同時に擦られて……夢見心地ですぅ~~~♪」

(飛鳥鳴いてもまだイカない♪)

 優のナイスフォローと飛鳥の甘い鼻声に、宏の素股は熱を帯びる。
 竿の進入角を変え、芽吹いた紅真珠目掛けて亀頭を割れ目の奥に挿し込んでゆく。

「はぁん! お豆、何度も突いちゃ、らめぇ! ヌルヌル肌触りが気持ち好くて……すぐイッちゃいま
すぅ!」

(俺もイキそうだよ、飛鳥ちゃん! このまま……射精(だ)すからねっ!)

 飛鳥にバレないように荒くなる鼻息を強引に封じ、ひたすら無毛の割れ目を肉槍で擦り上げる宏。
 そんな宏の動きに飛鳥の腰は小さく震え、徐々に浮いて来る。
 上体は優がパイズリしつつ押さえているので、自然と後方に突き出す格好になって来たのだ。

「はぁん!? 若菜先輩の指使いが急に激しくッ……ダメ! お豆、剥いちゃらめぇ!」

(まるでバックスタイルでエッチしてるみたいだ! くぅ~、熱い割れ目がチンポ扱いて……で、射精す(で)るっ!!)

 パンパンに張り詰めた亀頭と熱く熟したラヴィアの摩擦で射精感が急上昇し、鈴口が完全勃起した秘核を何度か突いた、その瞬間。

 ――どびゅ~~~~~っ!! どびゅびゅびゅびゅびゅっ! どっくんどっくん……びゅるる
るる~~~――。

 亀頭にコリッっとした感覚を受けた瞬間に性電気が脊髄を駆け抜け、奥歯を噛み締めた宏は熱くぬかるんだ膣前庭に亀頭を埋め込んだまま勢い好く射精していた。

(くぅ~~~~っ! き、気持ち好いっ!! 朝から一杯射精(だ)したのに、まだこんなにも出る!)

 午前中に多恵子と夏穂の膣内に散々射精し、昼には美優樹の胎内に複数回注ぎ、そして夕方には飛鳥にも射精(だ)している――。
 宏は射精の恍惚感に漂う中、今日一日の性歴が走馬燈のようにフラッシュバックした。

(あぁ……射精が止まらん! 飛鳥ちゃんのマンコが吸い付いて……興奮が納まらん! しかし、いったい今日だけで何度、射精(だ)したんだろ? 我ながらタフ……と言うか、ドスケベだよなぁ)

 自分に対し驚くやら呆れるやら、愛する奥さんとのラブラブエッチだのに何とも複雑な心境になってしまった。

「あ……あ……あ……はぁ~~~。優先輩のオッパイと若菜先輩の指でイカされちゃいましたぁ~~」

 動きの止まった宏(と優)に、飛鳥も腰を半端に突き出したまま固まっている。
 どうやら飛鳥は最後まで宏だと気付かぬまま、小さなアクメを迎えたらしい。

(――って、俺のチンポ、若姉の指みたく細いってコトかぁっ!? 太さは何倍も違うし……飛鳥ちゃん、なして気付かん?)

 今更ながらに気付き、落ち込む宏だったが、目の前の美少女の陰部に視線が惹き付けられてしまう。
 精液で満たされた淫裂からはフル勃起した陰核がポツンと顔を覗かせ、丸見えとなっている菊座が何度も収縮を繰り返し、ローションとは明らかに違う白っぽい液体が小刻みに震える内腿を伝ってもいる。

(うわっ、濃い桜色のマンコに白濁液がたっぷり塗されて……糸引いてマットに滴ってる! 膣内射精された後みたいで……コレはコレで興奮するっ!!)

 まるで『女性器へのブッカケ』を再現したかのような有様に、宏の肉槍は衰えるどころか逆に滾ってゆく。
 宏はそのまま鉄槍を構えると、物欲しそうに蠢く膣孔目掛けて突進した。
 当然、飛鳥には何も言わぬまま、一気に膣奥(おく)まで挿入する。

「あひゃぁ――――――――っ!? な゛、ナニっ!? ナニか挿(はい)って――って、宏先輩っ!?」

「飛鳥ちゃんの妖艶な肢体に我慢出来無くなったんだ。ここから先は俺もローション塗るの、手伝うからね♥」

 流石に、膣への挿入で宏の存在を思い出したらしく、首を背後に巡らせて目を見張っている。
 宏もまた、飛鳥の浮いた腰を両手で掴むと荒々しく抽挿し始めた。
 ローションと飛鳥の愛液が混じり合い、普段は出来ない激しいピストンが可能になったのだ。
 張り詰めた亀頭で狭い膣洞を強引にこじ開けて膣壁を抉(えぐ)り、腰を回して子宮口を擦ると膣口まで引き抜く。

「せ、先輩、激しい! わ、私のアソコが……壊れます! 膣奥(おく)が……突き破られちゃいますぅ!」

「大丈~夫♪ 滑りが好いから普段とは違う動きが出来るんだよ~。たとえば……こ~んな風に♪」

 宏は両手を飛鳥の胸に回し、背後から揉みしだく形を取る。

「ローションの滑(ぬめ)りで身体とマットの間に簡単に手が入るから~、こうして突っ伏したままオッパイをモミモミ出来るんだよ~♥」

 手の平に膨らみがすっぽりと収まり、その頂点では硬く尖った蕾が手の平の一点を押し返す。

「あぁ! オッパイ、揉んじゃダメェ! ど、どうして……宏先輩の手が……感じ過ぎちゃう!」

「このローションには~、肌が敏感になる成分が入ってるんだよ~。早い話、性感が倍近く高まるん
だ~♪」

「……たかがローション、されどローション♪ 便利な世の中になった。ボクもオッパイ擦れて昇天気
味♪」

 タイミング好く若菜の解説が入るが、優はどこか蕩けた目をして座り込んでいた。
 どうやら飛鳥の背中でパイズリしたまま軽くイッたらしい。

「ど、道理で俺のチンポが飛鳥ちゃんの背中擦った時に過剰反応した訳だ。だったら……♪」

 宏は飛鳥と後背位で繋がったままゆっくりとマットに俯せになり、そこからローションの滑(ぬめ)りを利用して身体を回転させて仰向けになった。
 飛鳥は宏の上で仰向けに繋がった形であり、他人からは結合部や肢体が丸見えの形でもある。
 当然、下にいる宏からは両手が使い放題となり、既に尖った乳首と充血したラヴィアを擦っていた。
 果たして。

「宏ちゃんのおちんちん、飛鳥ちゃんのおまんこズボズボ出入りしてる~♪ すっご~い♪ ピンクのビラビラがくぱぁ、と開いておちんちんの根本まで呑み込んでるぅ~♪ オッパイも張り詰めて乳首もビンビンに勃ってるよ~♪」

「……飛鳥ちゃんのクリトリス、すっかり剥けて完全勃起してる。これは弄り甲斐があると言うもの。フッフッフッ♪」

 若菜にもう片方の乳首を捏ねられ、優に陰核を擦られ、宏からは膣を掘られ陰唇を摘まれれば、セックスに未開発な部分を多数残す飛鳥にはひとたまりも無かった。
 宏に乗ったまま背中を大きく仰け反らせ、一気にアクメへと昇り詰めた。

「だめぇ! イクッ! イクッ!! イック――――――――っ!!」

「くぅ! 膣内(なか)が締まって……ローションあるのに動けない!」

 まるで万力で締められたかのような飛鳥の膣力に、宏は動けぬまま一緒にイキそびれてしまった。

「まぁ、好いか。夕食まで……あと三十分あるから大丈夫♪ 次に行こう♪」

 宏は壁の時計にチラリと目をやり、時間を確認すると若菜と優に目配せする。
 浴室の壁には、プレイに夢中になって時間を忘れないようにと、完全防水のデジタル時計が掛けられているのだ。

「へ? つ、次!? 次ってなんですか~ぁ?」

 アクメの余韻で力が入らないのか、飛鳥が脱力したまま身体の上から尋ねる。
 宏と繋がったままなので、下腹部や尻がピクピクと痙攣してもいる。
 そんな飛鳥に、宏は嬉々として命じた。

「今度は飛鳥ちゃんが俺にしてみて♪」


     ☆     ☆     ☆


「あ~~、飛鳥ちゃんと若姉、優姉のオッパイに挟まれて……幸せ~♥」

 マットで仰向けとなった宏は頬の左右と胸板に感じるなだらかな膨らみに心弾ませる。
 そんな、目尻を下げ鼻の下を思いっ切り伸ばすご当主に、全身ローション塗れの飛鳥が宏の厚い胸板に薄い胸を上下に擦り付けながら尋ねた。

「前から思ってたんですけど、宏先輩って微乳好きなんですか?」

「ん~~、微乳好き、って言うよか、EとかF以上の巨乳が苦手なんだ。だから飛鳥ちゃんや優姉、若姉の大き過ぎない膨らみが色っぽくて大好きなんだ~♪ こうして……手の平にジャストフィットするから堪らんのよ♥ この、硬過ぎず柔らか過ぎない弾力が……手の平の中心にコリコリと当たる突起が……何とも言えんのよ~♥」

 言いつつ左手で飛鳥のAカップ七十四センチを、右手で優のCカップ七十七センチを軽く揉みしだく宏。
 飛鳥と優は屋敷に於ける微乳ランキングのツートップなのだ。
 ランキング三位の若菜は宏の左頬にローションで妖しく光るCカップ七十八センチのオッパイを密着させ、上下に動いている。
 そんなトップスリー美女からオッパイスリスリされ涎を垂らすご当主に。

「……ヒロクン、段々フェチの度合いが進んで行くような気がしてるんだけど……気のせい、かな? 最初はパイパンだけだったのに、黒パンストに白ショーツ、とか、着衣エッチ、とか、絶対領域、とか……多種多様に拡がってる」

 単なる分析なのか進行するフェチ度を心配しているのかは微妙だが、宏は優の言わんとする事が判った。

「それは――」

 宏が自己分析する前に、微笑んだ若菜が代弁してくれた。
 流石、長年連れ添った幼馴染だけあって意思疎通もピッタリだ。

「うふふ♪ 十人もの美女が揃っているから~、それだけの個性が好きになって受け入れた証拠なんだよね~♪ だけど宏ちゃん~。あんまりフェチを前面に押し出すと女の子が引いちゃうよ~。私達以外の女の子に対しては程々にしておいた方が好いよ~」

「……これ以上、他の女の子に手を出してどうする。もうボク達だけで充分」

 二つの意味でイエローカードを示されしおらしく頷く宏と、苦笑する優のツっ込みを余所に、ひとりニヤニヤ、ニコニコしている美少女がいた。

「……そっか。宏先輩、私の天然パイパンとAカップがど真ん中のストライクゾーンだったんだ。そっかそっか♪」

「飛鳥ちゃん?」

 宏の訝かしむ声に飛鳥は顔を上げると優と若菜に視線を向け、最後に宏に戻る。

「えへへ♪ このメンバーなら、私も臆する事無く裸になれるなー、って思って。夏穂姉さんやお母さんみたくDカップを前にすると、まだ意識しちゃって」

 無意識なのだろう、両手でAカップバストをいとも簡単に覆い隠す飛鳥。
 そんな、どこかいじらしい後輩に優が満面の笑みで励ました。

「……焦る事は無い。徐々に慣れれば好いだけの事。……それにボク達がいる限り、飛鳥ちゃんに寂しい思いはさせないから安心して好い。第一、ヒロクンから濃厚な精液注がれオッパイ揉まれていれば、自然と膨らんで来る♪」

「私のオッパイとパイパンおまんこで飛鳥ちゃんの気持ちが収まるなら~、いつでも使って好いよ~。お風呂だって一緒に入って~、エッチもペア組んで好いよ~♪ ね~宏ちゃん。今度からこの『つるぺたーズ』でいつもお風呂とエッチ、一緒しようね~♪」

「はい? つるぺたーズ?」

「……つるぺたーズ?」

 飛鳥と優が同時に谷間の無い慎ましやかな(?)バストと翳りの無い股間に目をやり、首を捻る。
 どうやら、そのネーミング(グループ名?)にどう反応して好いものか迷っているらしい。
 宏もまた、いついかなる時でもポジティブシンキング(脳天気?)な若菜の言葉に、僅かに眉根を寄せる。

「つるぺたーズって、そりゃまた言い得て妙な♪ ……じゃなくてっ! 風呂を一緒にするのは構わんけど、エッチまで毎回一緒、って言うのはどうなんだろ? 俺はともかく、他の面々が黙って無いと思うよ? 特に晶姉とか夏穂先生とか。多恵子さん、千恵姉、ほのかさん、真奈美さん、美優樹ちゃんだって黙って無いだろうし」

 今や、大魔神と隠れ淫魔が二十四時間三百六十五日常駐しているので依怙贔屓は絶対に不可能なのだ。
 晶の双子の妹でもある優もそれは好~~~く判っていると見え、宏にバストを擦り付けつつ大きく頷いて同調する。

「……まぁ、その時その時で判断しメンバーを決めれば好い。……ボクならいつでもオッケー♪」

「あはは♪ さり気なく自己アピールするのは流石、晶姉の妹だね。行動パターンが、クリソツ~♪」

 三人が覆い被さるマットプレイの真っ最中にも係わらず、ニッコリ笑って優にウィンクし人差し指を向ける宏――だったが。

「宏ちゃん~。テレビの業界用語使ったって格好好くないよ~。むしろダサくて頭の悪い軽薄なチャラ男にしか見えないよ~」

「……………………」

 大きな溜息を吐(つ)いて切れ長の瞳と眉をこれ以上無い位に八の字に下げた若菜からダメ出しを喰らってしまった。

「あぁ!? 宏先輩がいつの間に抜け出してる!? って、洗い場の隅で膝を抱えて踞(うずくま)ってる!? ひ、ひぇ~っ! 今度は目の幅涙、流してるっ!」

「……若菜ちゃん、ヒロクンを再三追い込んでどうする。これまでの討ち死に臆する事無く決死の思いで言った言葉なんだから、ここは黙って悦んだ振りして大いにウケるべき。それこそが健気にして賢い妻の役目」

「あ、そっか~。ダメな夫の尻拭いして~、これ見よがしに支えるのが~、好い奥さんの絶対条件だもんね~♪」

「お、お二人共っ! 宏先輩に止(とど)め刺してますっ! 息の根止めてますっ!! 宏先輩、すっかりいじけて湯船の底で小さくなって今にも消えそうですっ!」

「「あ」」

「……ふんっ。どーせ、俺は軽薄短小なダメ夫、ですよーだ。……ぐっすん」

 宏脱落により飛鳥のローション講習はうやむやのまま終わってしまい、宏の軽口も暫く消えたの
だった――。


                                            (つづく)


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恋模様(1) 恋模様(1) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
「………………………………寝られん」

 ベッドに潜ってからどの位、時が経っただろうか。
 何度も寝返りを打った挙げ句、夏穂はベッドからむくりと上体を起こした。

「ん~~~、なんか知らんけど、ちっとも眠くならんわ」

 肩に掛かるセミロングの黒髪が乱れるのも構わずワシャワシャと頭を掻き毟り、サイドテーブルに置かれたデジタル時計に目を向けると丁度、深夜一時を表示していた。

「しぁない。ちょろっと寝酒でもやるか。明日は日曜で部活も休みだから寝坊しても平気だし」

 隣のベッドで安らかな寝息を立てている姉の多恵子を起こさぬよう物音立てず東廊下に出ると、薄蒼のパジャマ姿のままリビングへと向かう。

「このお屋敷の凄いトコは、廊下や階段の足下に淡いオレンジ色を放つLED仕様の常夜灯が要所要所に備わってる点よねー。夜中にトイレに起きた時なんか、いちいち廊下の電気点けなくて済むしー。宏クン、ホント、人と財布に優しい家造りしてるわ♪」

 夏穂は暖簾を潜ってリビングの明かりを点けると、すぐに「お気に入り・その1」ボタンを押す。
 これで照度は通常より六割減光し、色調も白昼色から琥珀色に変化する。
 この屋敷のリビングや各部屋のシーリングライトはLEDを使っている(宏がこの春から導入した)ので、場の雰囲気やその時の気分で好みの明るさや色に変えられるのだ。

「さて、まだ何本か残ってた筈。……おぉ、あるある♪ 夕食で呑んだ分をちゃんと補充しといてくれるなんて、流石、千恵ちゃん。我が教え子だけあるわ♪」

 業務用大型冷蔵庫のドアポケットには缶ビールがひと箱分ちょい――三十本が隙間無くズラリと並んでいた。
 本来、自分で呑んだ分は自分で補充するのが決まりなのだが、夏穂は呑んだら呑みっ放しにするのでいつも千恵が苦笑しつつ補充してくれているのだ。

「まずは一本、いっとくか♪」

 程好く冷えた缶ビール片手にリビングの三人掛けソファーの中央にどっかと腰を据え、プルタブを開ける。

 ――プシュッ!――。

 静まり返った室内に炭酸の抜ける小気味好い音が大きく響き、麦酒特有の芳醇な香りが周囲に漂い出す。

「それじゃ、宏クンとみんなの無病息災、家内安全、健康長寿を願って、かんぱ~い♪」

 缶ビールを持った腕を高々と掲げ、ひとり気勢を上げる夏穂。
 呑む前に酔っ払っているのは流石だ。
 もっとも、夕餉の席で既に何本か空けているので、体内に少なく無いアルコールが残っているのも確かだ。

「んぐ……んぐ……んぐ……んぐ……プッハァ! あ~~~、美味いっ!」

 レギュラー缶の半分を一気に呑み干した夏穂は手の甲で口元を拭う。
 そんな、まるで中年サラリーマンのような豪快な呑みっぷりは、誰が見ても教壇に立つ聖職者とは思わないだろう。

「ん~、あっという間に空いちゃったな。しかも全然呑み足りないし肴も欲しくなっちゃった。冷蔵庫に何かあったかな? 確か……チーズにサラミ……野沢菜漬けもあった筈♪」

 本格的に冷蔵庫を漁ろうと腰を浮かせた、その時。

「やっぱり♪ こんな遅くにどうしたんです?」

 柔らかな、それでいて好く通る澄んだ声に夏穂は反射的に声のする方へ顔を向けた。
 そこには、笑顔の金髪碧眼美女が西廊下側の暖簾を片腕で払って立っていた。


     ☆     ☆     ☆


 ここで時間は少し遡る。

「ふぅ、やっと終わった。今回は細々(こまごま)とした更新が多かったなー。伊丹の改修工事とか板付の企業向けターミナルの移転とか航路のウェイポイントの名称変更とか。毎度の事とは言え、ノータム――航空関係機関が出す、空港や運行に係わる航空情報――をチェックするのも、ひと仕事だぜ」

 机に散らばった何枚もの書類をクリアファイルに仕舞い、必要なデータを打ち込んで保存したデスクトップパソコンもシャットダウンさせたほのかは、椅子に座ったまま両手を頭上に伸ばし、大きく伸びをする。
 すると背中や腰の辺りからポキパキと骨の鳴る音が十畳の和室に大きく響いた。

「くぅ~~~、少し根を詰め過ぎたかな? って、もうこんな時間か。夕食後の団欒を済ませてから始めたから、丸三時間近く経ってたのか。道理で目がしょぼしょぼする訳だ」

 机に置いてある、旧型の高度計を模した三針式アナログ時計(宏から贈られた誕生日プレゼントだ♥)の針は、深夜一時過ぎを刻んでいた。

「ぼちぼち寝るか。夜更かしはお肌の大敵だしな」

 シルクのような金髪が乱れるのも厭わず、ボリボリと頭を掻きながら椅子から立ち上がった、その時。

 ――……シュッ!――。

「ん? 何の音だ? エアが瞬間的に漏れるような……あるいは金属が擦れるような音だったな。廊下……いや、リビングか?」

 まさにこの時、夏穂が缶ビールを開けたのだが、ほのかはその微かな音を無意識に聞き分けていた。
 深夜で他に物音がしない状況とは言え、リビングからここまで十数メートル離れ、しかも廊下とは襖で仕切られているのに恐るべき耳の好さである。
 否、だからこそ若くしてチーフパイロットの要職に就いているのだ。
 そんな身に染みたパイロットの習性で、ほのかの身体は自然と動いていた。

「念の為、確認するか。もしかしたらミケが徘徊して何か引っ掛けたのかもしれんし」

 ミケとは真奈美が助けた仔猫で(ほのかはミケと呼び、屋敷の住人も好き勝手な愛称で呼んでいる)、今日は晶と一緒に寝ている筈だ。

「ま、喉も渇いたし、ビール一本貰うついでだしな。明日はオフで呑んでも平気だし」

 黒のタンクトップに同色のローライズショーツのラフな部屋着のまま西廊下に出ると、リビングから漏れる琥珀色の灯りが飴色に光る廊下の床や壁板を淡く照らし、常夜灯の灯りと溶け合っていた。

「なんだ、誰かいるじゃん。照明が呑み屋モードになってるから……もしかして夏穂さんか?」

 呑み屋モードとは、場末の居酒屋の雰囲気を再現した照明設定の事だ。
 これは呑兵衛(?)たる夏穂やほのかが呑む時に好んで使う設定で、LED照明が導入されるや否や夏穂が真っ先に設定したのだった。
 ほのかが西廊下とリビングを隔てる暖簾を潜ると、果たして。

「やっぱり♪ こんな遅くにどうしたんです?」


     ☆     ☆     ☆


「あら、ほのかちゃん、いらっしゃい♪ いや~、ちょろっと寝酒を嗜(たしな)んでたの。ほのかちゃんは?」

「はい。今さっき仕事のチェックを終えたら何やら空気の抜けるような音がこっちから聞こえたんで、ビール貰うついでに見に来たんです」

「あらら、もしかして邪魔しちゃった? ごめんね~」

 夏穂が井戸端会議のオバチャン風にパタパタと手を振ると、ほのかがプッ、と吹き出す。
 どうやら、見た目は若い夏穂の意外とババ臭い(?)仕草がツボに嵌ったようだ。

「いえいえ、それは大丈夫です。ぼちぼち寝ようかと思ってたトコでしたから」

「そう、なら好かった♪ それにしても、プルタブを開ける音に気付くなんて流石……と言って好いのかしら? 音は小さいし、ほのかちゃんの部屋まで結構、離れてるのに」

「流石、かどうかは判りませんが、耳が自然と聞き分けちゃうんです。ま、一種の職業病ですかね~」

 ほのかが左右の手の平を上に向け、小さく首を傾げながらひょいと肩を竦めると、今度は夏穂がププッ、と笑う。
 海外ドラマや洋画の中で外国人がよくするポーズを目の当たりにし、琴線に触れたのだ。

「あはは! それはご苦労様! それじゃ、一緒に呑もうか。ウチも一本空けたら呑み足んなくなっちゃってさ」

「お供します♪」

 こうして深夜のリビングは急遽、女子会の会場となった。



「それじゃ、かんぱ~い♪ 宏クンにも、かんぱ~い♥ んぐ……んぐ……んぐ……」

「乾杯♪ 宏に乾杯♥ ん……ん……ん……」

 夏穂の音頭で缶同士を軽く合わせ、ほのかは喉を鳴らしてビールを呷る。
 落ち着いた琥珀色の照明に淡く照らされ、差し向かいで杯を交わし合う美女二人。
 ひとりは肩に掛かるストレートセミロングの髪に目鼻立ちの整ったアダルトな美女、もうひとりは腰まで届く波打つ金髪と彫りの深い美顔に、切れ長でどこまでも透き通った碧い瞳が印象的なハーフ美女。
 傍から見れば、雑誌やテレビの広告で使われてもおかしくない、シックな光景だ。

「……プッハァ~! あ~美味い!」

「ん……ハァ-! うん、旨い!」

 二人同時に呑み干すも、年季の違いだろうか、夏穂の口元を腕で拭う仕草が何度見ても画(さま)になっている。
 おまけに夏穂はパジャマの胸元がはだけて深い胸の谷間がよ~く見えるし、胸の先端が丸く突き出てノーブラなのが丸判りなのでセクシーな事、この上無い。

「肴も、冷蔵庫にあったのを並べただけだけど、これで足りる? 飛鳥ちゃんの部屋に行けばポテトチップやポッキーにチョコチップクッキーとかの乾き物があるし、ウチの机にはサキイカや濡れ煎餅もあるけど、持って来ようか?」

 目の前のガラステーブルには北海道産のチーズやスライスされたサラミ、韓国産のキムチに浅漬けのキュウリや野沢菜漬けなどが並び、もはや寝酒とは思えないラインアップとなっている。

「いえ、これだけでも充分、御馳走ですよ♪ ――って、夏穂さん、机にそんなん仕舞ってるんですか?」

「真夜中専用の非常食よん♪ ベッドから手を伸ばせば届くから便利よ~♪」

「た、確かに……食べる音はしませんし、欠片も散らばりませんしね」

 ほのかはつい、クスリと笑ってしまう。
 夏穂は屋敷に住まう元・教え子達や姪っ子に対して尊大に構える事が多いが、意外と(?)細かい気配りは出来るしバイタリティーも持ち合わせているので、傍から見ていて少しも飽き無いし、接していると楽しいのだ。

(確かにこの先生なら、宏や千恵ちゃん達、そしてあの晶が慕うの、判るかも)

「それで、夏穂さんはこんな夜中にひとりで酒盛りですか?」

 ほのかは爪楊枝で刺したサラミを囓り、夏穂に尋ねた。
 終始笑顔の夏穂は片手でチーズを摘み、もう片手で三本目の缶ビールを呷りながら応えてくれる。

「いや~、ベッドに潜り込んだまでは好かったんだけど、何だか眠れなくってね~。そんで、ちょろっと引っ掛けてから寝ようとしたの」

「そうだったんですか。……あ、そう言えば」

「ん?」

 ピタリと動きを止めたほのかに、夏穂は口に浅漬けのキュウリを咥えたまま僅かに首を傾げる。
 ほのかは、ずいっ、と身を乗り出し、正面でくつろぐ夏穂を見つめながら、手にした缶ビールを小さく振る。

「夏穂さんと、こうして差しで呑むのは初めてですよね。いつもは誰かしら交じって複数で呑んでますから」

「そう言えばそうねぇ。……ふふ♪ また初めての女性(ひと)が増えたわ♪」

「……ナニ、意味不明なコトを。オレの初めては宏に捧げたんですからっ。……って、ナニ言わせるんですか!」

 自分で言っておいて、急に恥ずかしくなるほのか。
 顔が火照り、鼓動がワンテンポ、早くなる。

(夏穂さんと呑むと、つい本音が飛び出しちまうのは……なんでだろ? みんなも結構、赤裸々に言っちゃうコト、あるし。もしかして……真奈美と同じ、リラックスや癒しの効力を持ってるのかも。だとしたら、これも夏穂さんの隠れた魅力のひとつなのかもな。気さくだし冗談も通じる美人だし。……ふふ、なるほど♪ 伊達に教師、張ってる訳じゃ無い、ってコトか。あの気難しい晶や警戒心の強い千恵ちゃんが無条件で慕う筈だわ)

 などと思いつつ、ほのかの中で夏穂の評価がうなぎ登りしていたら。

「あら、それはウチも同じよ♪ ウチの三十年モノの処女膜を宏クンに破って貰ったんだから、ウチ等は竿姉妹よね~♪ それで言ったら、ほのかちゃんがウチのお姉さん、だわね~♪」

 お年頃(?)の女教師だのに、嬉々として思いっ切り下ネタを(しかも露骨に)語る夏穂に、ほのかは呆れてしまう。

「夏穂さんと話してて、だんだんエロくなるのは……気のせいですよね?」

「うんうん♪ 気のせい、気のせい♪」

「とても気のせいとは思えないんですが?」

「そんなコト無いわよぉ。女だけの呑み会で色恋は必須アイテムだしぃ、それが会話の潤滑油よん♪」

「あははは! それもそうですね。同僚達と呑む時も似たようなモンですし」

 深夜のリビングに美女二人の澄んだ笑い声が満ち、ひとしきり笑い合った所で。

「で? ほのかちゃんは寝酒の調達に来たんだっけ?」

「き、急に話が戻りますね……。そうです。缶ビール貰おうとしたらリビングから物音が聞こえたので、ミケがうろついているのかと思って見に来たんです」

「ミー君が? あはははっ! だったら今頃、こうして晶ちゃんの血を舐めてんじゃない?」

「はぁ~~~っ!?」

 ほのかの声が尻上がりに、かつ、裏返ってしまう。
 頬張っていたキムチをビールで流し込んだ夏穂は大口開けてケラケラ笑い、真っ赤に滑(ぬめ)る舌で軽く握った右の拳をチロリと舐めて仔猫の真似をしたのだ。
 そんな、教師とはとても思えないお茶目(?)な夏穂に、

「鍋島の化け猫じゃ無いんだからっ!」

 ほのかの、身を乗り出しての怒濤のツっ込み。
 すると夏穂は五本目の缶ビールを持ったままソファーの背もたれに勢い好く背中を預け、目を丸くした。

「あら、ほのかちゃん、鍋島藩の化け猫騒動、知ってるんだ?」

「それ位は知ってます。大学の図書館で日本の歴史を辿ってたら載ってました。江戸の昔っから有名な話だそうで」

「偉いわねぇ。今や『鍋島の化け猫』つったって、生徒はおろか教員でさえ知らないのに……ホント、偉いわ~」

 教師としての血が騒いだのか、生徒と接しているかのように瞳を細めて盛んに褒め称えて来る。

「えへへ、お褒めに与り恐縮です♪」

 ほのかも高校時代に戻ったかのような錯覚に陥り、破顔すると小さな会釈を夏穂に返した。
 たとえ何歳(いくつ)になっても、現役教師から褒められれば嬉しいし照れもする。
 ほのかは褒められて伸びるタイプなのだ。

「宏と出逢ってから、オレは――」

 ソファーにゆっくりと寄り掛かり、ビールをひと口飲んだほのかは若かりし頃の宏を懐かしむように語り出す。
 この時、ほんのりと心が温かくなったのは……きっと缶ビール三本目にして酔いが少し回って来た所為だろう。

「好きな男性(ひと)が暮らす、この国の歴史に俄然、興味が湧きまして。そんである時、図書館やネットで広重や北斎、歌舞伎など江戸の文化を調べてたら鍋島藩の化け猫騒動に辿り着いたんです」

「あはは! あるある! ネットで調べると次から次へと関連リンクを辿っちゃうのよね~。そしたら出発点が――」

「「判らなくなる!」」

 同時に身を起こし、顔を見合わせ綺麗にハモる、美女二人。
 ひとしきり笑い合うと、夏穂が満面の笑顔を向けて来た。

「ウチら、息が合うわね~♪」

「ホントに! 一緒に住み始めてまだ半年経つか経たないかなのに……不思議です」

 ほのかが眉根を寄せて首を傾げると、それがまた高笑いの材料となり、リビングにひとしきり華やかな声が響く。

「……っと、今は真夜中だった。あんまし騒ぐと、ただでさえ恐~いお局様が額から角、生やしてやって来ちゃう!」

「あはははっ! 晶のヤツ、寝てるトコ起こすと超機嫌、悪いんですよねー」

 夏穂が両人差し指で角を生やす真似をすると、ほのかも大きく頷いて同調する。
 でも、今度は声を忍ばせクスクス笑い。

「ほのかちゃんが宏クンと出逢ったのって、学生の頃よね? いつだったか、そう聞いた覚えがあるわ」

「そうです。オレが大学三年の秋に出逢ったんです。……そっか、宏と出逢ってから丸四年半、経っているのかぁ」

 懐かしそうに微笑み、愛しみの表情を浮かべるほのか。
 鏡を見たら、これ以上無い位に優しい瞳になっている事、請け合いだ。
 そんな、頬を紅(あか)く染め恋する乙女状態のほのかに、夏穂は手で摘んだサラミを囓ってから尋ねた。

「ねぇ? 宏クンとの馴れ初め、聞かせて貰っても好い?」

「はい、構いません。あれは……」

 興味津々とばかり身を乗り出す夏穂に、ほのかは四本目の缶ビールをひと口呷ると天井で淡く光るライトを見つめ、当時へトリップする。

「あれは……何やら落ち込んでる真奈美を励まそう、ってんで、サークル仲間で紅葉狩りに行ったんです。当初はオレ、晶、優、真奈美の四人で行く筈だったんですが、晶の代わりに宏が来たんです。それがオレと宏のファーストコンタクトでした」

「落ち込んだ真奈美ちゃん? どうかしたの?」

「うろ覚えで好ければ、話しましょうか?」

 頷く夏穂に、ほのかはビールで口を湿らせる。

「発端は、真奈美が困ってたら見も知らぬ男に助けられた、とか。そんで、礼を言いそびれた真奈美が半年近く男を捜し続けたけど結局見つからず、それで落ち込んでたんです。礼も言えず見つけられなかった自分が情け無い、って。で、見かねたオレらが気分転換を兼ねた励ましで紅葉狩りに引っ張り出したら宏が現われ、それが何と真奈美の探し求めてた男だった、ってオチです」

「何だか……見るに堪えない日本のドラマや映画よか、ずっと好く出来た話ね。その時、宏クンは高校の――」

「二年です。オレとは学年で四つ下になります。もっとも、宏と出逢う迄は晶や優、千恵ちゃんや若菜ちゃんから宏の話を耳にタコが出来る程、散々聞かされてました。だからか、初めて出逢った時は初対面、って気が全くしなくて、聞いた話とは逆に線の細い可愛い男の子、って感じでした。でも……」

 ほのかの目元がほんのりと紅(あか)く、色付く。
 そんなほのかに、八本目の缶ビールを呑み干した夏穂は瞳を細めた。

「見た目の優男(やさおとこ)とは裏腹に芯のある侠気(おとこぎ)に惚れた、って感じかしら?」

 目の前に座る美女から放たれた言葉に、ほのかは切れ長の碧眼を丸くした。

「に、日本の教師って、サトリの術を修得してるんですか? なんで判ったんです!? 全く以てその通りです」

「うふふ♪ じ・つ・は~、ウチも同じなの。見てくれは愛嬌のある表情と線の細い身体(ボディ)なのに、実際は誰よりも心が広く芯の強い、筋肉質な男の子……男子生徒だったの。それで、ウチも惚れちゃったクチなの♥」

 九本目の缶ビールを開け、瞳を細める夏穂に、ほのかも大きく首を縦に振る。

「そうなんです。宏は金髪碧眼で男言葉を話すオレを少しも珍しがらず、普通の女性同様に扱ってくれたんです。田舎町で外国人が異様に目立ち特別扱いされる環境でも、オレの事を特別視しないで晶達と同じくひとりの女性として接してくれた、唯一の男性(ひと)だったんです!」

 手にした五本目の缶ビールがペキョッ、と音を立てて少しへこむ。
 若干、力が入ったようだ。
 そんな力説するほのかに、夏穂も切れ長の瞳を細めたまま何度も頷く。

「うんうん、大いに共感出来るわ~。だってホラ、飛鳥ちゃんが中学に入った時の茶髪事件があったし」

 夏穂は十一本目の缶ビールを呷り、どこか遠くを見た。

「その時の騒動もそうだったけど、宏クンって、外見で女を見ないのよね~。ちゃんとひとりの人間として、ひとりの女性としてウチ等を見て接してくれるのよね~」

 夏穂は宏と出逢った当時に心が飛んでいるのか、頬と目元が紅(あか)く染まり、目尻が下がる。

「宏クンって、自己主張は強く無いけど、決して消極的でもヘタレでも無いのよね~。ここぞって時はリーダーシップ発揮して即断即決、指揮指導出来る能力持ってるし、部活仲間を庇って怪我しちゃう侠気(おとこぎ)もあるし♪」

「他人(ひと)を庇って怪我? それは初耳だし穏やかじゃありませんね。詳しく聞かせて貰っても好いですか?」

 念の為、お窺いを立てるほのか。
 当人がいない場所で当人以外の人から聞く事は気が引けるが、宏の事ならどんな事でも知っておきたい。
 まして、それが担任として関わりの深かった人物から直接聞けるのなら、尚更だ。

「好いわよ~、好~く覚えてるから♪ あれは宏クンが高校に入学し、ウチが担任となってすぐの頃よ。放課後の部活中に、野球部の打球が宏クンと併走していたランナーに当たりそうになったの。それで宏クンが身を挺して庇ったまでは好かったんだけど、その代償として利き足の左足首を酷く痛めちゃったの。……そう、高校デビューする春の大会の、数週間前の事よ」

「そ、それでっ!? 宏はっ――」

 泡喰って身を乗り出すほのか(呑みかけのビールがむせた)を片手でやんわりと制し、十三本目の缶ビールをひと口呷った夏穂は安心させるようニコリと笑う。

「大丈夫♪ 大会にはちゃんと出られたし走れたわ。しかも六位入賞、自己新のおまけ付きで♪」

「そ、そうだったのか。好かったぁ~」

「宏クンの凄い所は、まだ痛みが残ってておかしくない状態なのに自己新を出した事……だけじゃ無いの。ボールを打った野球部の三年生や庇ったランナーを決して悪く言わないトコなの。むしろ、身の躱し方が下手だから怪我をしたんだ、自分のミスだ、って言って、人を責めたり練習環境の所為にしたりしなかった事なの」

「宏……♥」

 缶ビールを両手で握り締め、ほのかの中で宏への熱い恋心が更に膨らむ。

「他の生徒は野球部と陸上部、ラグビー部やサッカー部が同じグラウンドで練習する状況を呪ったり文句言ったりするのが当たり前だったけど、宏クンは違った。……これ、中学を出たばかりの十六歳、高校一年生の取る態度じゃ無いわ」

「宏、すっげ~。その頃から漢(おとこ)、張ってたんだ~」

「ウチはその時、教職四年目の二十六歳だったけど、そんな広い心と度量の大きい生徒――ううん、男性(ひと)は生まれて初めてだった。だからこそ、心に強く印象付けられたの。そして……そんな宏クンの深くて清い心意気を担任として直に感じ続けて、いつしか惚れちゃったのよね~♥」

「オレと夏穂さん、ホント気が合いますね。オレもそうでした。宏と接するうちにどんどん好きになってく自分がいて……気付いたら宏しか見てませんでした」

「うふふ♪ 竿姉妹だけあって、想いは一緒ね♪ ……違う、想いが先ね。宏クンと出逢って想いが積み重なったからこそ、こうしてウチら十人もの女が出逢えて、深い絆で結ばれたんだから!」

「夏穂さん……」

 ほのかは高校卒業までスェーデンで過ごしたので夏穂から直接教わってはいないが、こうして宏を介する事で夏穂に対する親近感をより強く感じていた。
 片や、宏との回想に耽っているのか、夏穂はうっとりと瞳を潤ませ頬を染めていたのだが……。

「惚れたからこそ、担任の地位を利用して何度も濃密なスキンシップ謀ったのに、宏クンったら、その度にのらりくらりと躱すんだもん。逃げるんだモン! そんな時だけ消極的で意気地無しのヘタレになるんだから、おかしいわよっ!」

「ち、地位を利用!? それって、一般的に職権乱用とかパワハラとか言うんじゃぁ……」

「そんなの関係無いわ。しかもその時、宏クンは晶ちゃん達や千恵ちゃん達、二組の双子姉妹と既にイイ関係だったみたいだけど、ウチはそれでも構わなかった。好きになったんだから仕方無いじゃない。ねぇ♥」

 十五本目の缶ビールを呷る夏穂の熱弁が、にわかに妖しい方向へ転換したのを感じ取るほのか。
 しかも、現役教師の口から次々と耳を疑う言葉が溢れ出て来る。

「好きな異性にアタックするの、昔も今も当たり前でしょ? それに美人女教師がお気に入りの男子生徒に色目使うの、世の中のデフォルトだし女教師の嗜(たしな)みだから! 授業中に宏クンの肩にオッパイ載せたりタイトスカート捲って内腿チラ見せしたりするの、ウチだけの特権だもん!」

「あ、いや、そんなデフォルト無いですし嗜みでもありませんって! それに、授業中にそんなエロいコトしてたんですかぁ? それじゃぁ良識派でシャイな宏なら逃げるわなー」

 年頃の女教師とは思えない(だからこその?)行動に呆れつつ、当然のように宏を庇うも。

「あんっ!? あんだってぇ~? 生徒に色目使うの、悪いってかぁ!? んぐ……んぐ……んぐ……プハァ~!」

「あのぅ、夏穂、さん? もしかして酔ってます? なんだか理性、無くしてるようにしか見えませんが……」

 それまでの穏やかな態度が一変、語気を強め、くだを巻き始めた夏穂に、嫌~な予感に身を震わせるほのか。

(おいおいおい! コレって……まさか……もしかしてっ!)

 リビングの心地好い環境と、心温まる宏との想い出。
 そこに旨い酒がどんどん加われば、好きな男性(ひと)への恋心が種火となって大炎上するのは、ある意味当然の結果……なのかもしれない。

(みんなが恐れ回避する状況に近付いてるっ!?)

 ほのかは思い出す。
 最初こそ、みんなで和気あいあいと呑んではいるが、夏穂の酒量が増え口調が怪しくなるにつれて苦笑とも恐れとも取れる顔でひとり減り二人去って行ったコトを。

(そんで最後は……誰がどーしてたっけ? オレ、知らんぞっ! もしかして……オレ様ピンチ? 絶体絶命!?)

 思い起こせば、夏穂と最後まで呑んだ記憶は無く、いつだったか宏が巻き込まれた惨事を遠くで笑いながら見ていたような……。
 ほのかの額と背中に嫌な汗がたら~りと流れ落ち、今迄呑んだアルコールが全て吹っ飛んでゆく。
 六本目の缶ビールを手にしたまま固まり、みるみる青ざめてゆく間にも、夏穂は十六本目のビールに手を伸ばし、豪快に呷ってゆく。
 そして十七本目のプルタブを開ける小気味好い音で、ほのかは我に返った。

「あの、夏穂さん! もうお開きにして休みましょう! 時間も遅いですし――」

 早急に事態の収拾を図るほのかは夏穂の隣に腰を下ろし、肩に手を置いて促すも――既に時遅し。

「独身女教師と男子生徒がエッチして、ナ~ニが悪い! 相思相愛を邪魔するヤツぁ、馬に喰われっちまえっ!! ウチと宏クンはなぁ、ラブラブな恋人同士で夫婦で愛人関係なんだぞぅ♥ あ~~~はっはっはっはっはっ!!」

「うっわーっ! 完全に大虎(オオトラ)に化けてる! 誰か助けてくれぇ! オレじゃ手に負えん!」

 真夜中だのに口角泡を飛ばし、赤ら顔でくだを巻く夏穂は、もはや質(たち)の悪い酔っ払いだ。
 おまけに、絡み酒と来たもんだ。
 十八本目の缶ビール片手に宏に対する越権行為の数々を自慢気に暴露し高笑いし、その勢い(と呑む勢い)は止(とど)まる所を知らない。
 しかも、国語を教える立場だのに、言い間違い(ホントに言い間違いか?)まで。
 元より人の好いほのかは己の窮状(HPはゼロに近い!)も忘れ、泥酔女教師の言い間違いを訂正してしまう。

「馬に喰われて、じゃ無くて『蹴られて』、ですよ……じゃ無くってっ! し――――っ!! 夏穂さん声が大きい! 今は真夜中! みんな寝てますってばっ! お願いだから静かにしてぇっ!!」

 腰を浮かせ両手で必死に制するも、完全に逝った(?)夏穂には全く通じない。
 オマケに、昨年秋から部活指導に就いてグラウンドで声を張り、加えてこの春からクラス担任としてホームルームを毎日こなし各学年で授業を受け持っているだけあって夏穂の濁りの無い清く澄んだ声が、これまた好く通るのだ。

「宏クンはどこ~~~っ? 宏クンを呼んで来~~~~~いっ!」

 その声量は宥(なだ)め賺(すか)すほのかの声をいとも簡単に覆い隠し、寝静まった屋敷全体にも響く訳で……。


     ☆     ☆     ☆


「何やら一階が騒がしいと思ったら、夏穂先生にほのかさん! いったい、どうしたんです?」

「ひ、宏ぃっ!」

「ひ、宏クンっ!?」

 突如、降って湧いた声に、ほのかと夏穂の声が重なり、裏返る。

 ――西廊下から宏が現われた! ほのかのHPが回復した!――。

 か、どうかは不明だが、ツーサイズオーバーのロングTシャツにトランクス姿の宏を目の前にした途端、それまでの喧騒が嘘のようにピタリと止み、リビング(つまりは屋敷全体)に静寂が戻る。
 夫の力は絶大だ。

「こんな真夜中にどうした……のかは、そのお姿とテーブル見れば大方の見当は付きます。夏穂先生はパジャマのままだし、ほのかさんも部屋着のまま。テーブルには酒の肴と飲みかけの缶ビールやまだ開けてない缶ビールが乱立し、周囲には多数の空き缶が散乱して――」

「宏ぃ! た、助かったぁ~~~!! もうダメだと思ったんだぁ~」

「宏クン、ウチに逢いに来てくれたのねっ♥ なぁ~~んてワケ無いかぁ。あははははっ!」

 苦笑いする夫の言葉を遮り、喜色満面、しかも薄っすら涙を浮かべて縋り付くほのかに、悪びれる様子が微塵も窺えず、座ったまま胸を反らして高笑いする夏穂。
 どうやら、ほのかは六歳年上でもある夏穂の扱いに心底困り果てていたらしいが、酒乱の気がある夏穂は……。
 そんな対照的な二人に、宏はつい声を上げて笑ってしまう。

「明日が日曜で好かったですね。平日ならとっくに晶姉の雷が落ちてるトコでしたよ。それにしても今夜は珍しい組合せで呑んでますね。もしかして……初顔合わせ?」

「大相撲の取り組みじゃねぇよっ! ……ってか、それはそうだけど、ともかく夜中に騒いで悪かった。スマン。今、お開きにしようと夏穂さんに説得を試みたんだけど……さ」

 ほのかは額に汗を浮かべて引き攣った(?)顔から明らかにホッとした表情になっている。
 その様子だと、酔いの回った夏穂相手に随分と四苦八苦していたようだ。

(そっか。ほのかさん、酒乱と化した夏穂先生の最終処分、未経験だったっけ。それじゃ泣きたくもなるよなぁ。俺も散々、手ぇ焼いたし。ま、大魔神と化した晶姉が出現する前に撤収させるか。……大虎と大魔神の決戦は傍から見てるとメチャ面白いけど、最後は俺に火の粉が全部降り掛かるからなー。それに夜も遅いし)

 リビングの電波式掛け時計は、深夜二時をとうに過ぎた時刻を指していた。
 宏は自身の安泰の為に、そして夏穂の健康の為にも「お開き」を進言しようとした、その時。

「で~、宏クン。なんでここにいるのぉ? もしかしてウチがいなくて寂しくなったぁ? んじゃ、一緒に呑もうっ! ウチが口移しで呑ませてあ・げ・る♥ な~んちって! んがはははははっ! ほら! ほのかちゃんも呑もうっ!」

 撤収に向きかけた宏とほのかの思惑をあっさりと打ち砕く、酔っ払い女教師のバカ笑い。
 ほのかはソファーに深く沈むと片手で顔面を覆って天を仰ぎ、言われた宏も立ち尽くしたまま唖然としてしまう。

(こ、この呑んだくれ女教師は~~~っ! このままじゃ本気(マジ)で晶姉の雷、俺を直撃するじゃん!)

 とばっちりを何が何でも受けたくない宏は出来るだけ声を潜めて――でも語気を強めて恩師に限り無くレッドカードに近いイエローカードを突き付けた。

「だから! 真夜中なのにリビングが騒がしいから来たんです! 二階の廊下にまで声、響いてたんですから! いくら呑んでも構わないけど節度を持って欲しいな、って話ですっ! 今夜は存分に語り呑まれたようですし、時間も遅いからこれでお終いに――」

「な~んだぁ。そんなコト、言われなくても判ってるわよぉ~~♪ きゃははははっ♪」

 夫の言葉を最後まで聞かず、呂律も怪しく完全に出来上がっている夏穂に、宏は諦めとも取れる溜息を吐(つ)く。
 こうなったら、いつも通りに実力行使する以外に場を収める方法は無さそうだ。

「夏穂先生、もう寝ましょう! 旨い酒も過ぎると身体に毒ですよ。ベッドまで送りますからっ」

 極力、優しく肩を揺らして起立&撤収を促す宏だったが……。

「だったらぁ~、宏クンとここで寝るぅ♥」

「「あっ!?」」

 宏とほのかの声が綺麗に重なる。
 夏穂は肩に置かれた宏の手を握ると、ソファーに倒れ込みながら強く手前に引いたのだ。
 当然、不意を突かれた宏はバランスを崩し、夏穂の上に覆い被さる形となった。

「うふふ♪ 宏クン、ゲット~~♥ さ、呑もう♪ いや、ウチが宏クンの濃厚ミルク、呑みたぁい♥ 呑ませてぇ♥」

 仰向けとなった夏穂の両手は宏の首に回され、両足も蟹挟みでしっかりと腰をロックする。
 哀れにも、お屋敷のご当主様は完全に囚われの身となってしまった。
 しかも、明らかな下ネタをビシバシと至近距離から遠慮無く撃ち込まれてもいる。

「夏穂先生! ダメですってば! 寝るならご自分の部屋で――」

「いやん♥ 寝るだなんて、宏クンのエッチ♥ んもぅ、時場所状況を選ばないで、す~ぐ抱きたがるんだからぁ♥」

「む゛ぐぐぐっ……!」

 恩師の深い胸の谷間に顔が半分埋まる、宏。
 夏穂が馬鹿力を発揮して、はだけていた胸元に引き寄せたのだ。

「あんっ♥ 宏クンの熱い息が胸元に拡がってるぅん♥ 宏クンの愛がウチを灼き尽くすぅん♥」

 胸を揺すりながら甘い声で戯れ言を曰(のたま)う恩師に、宏は窒息寸前に何とか顔を上げる事に成功した。
 もっとも、夏穂から立ち昇る甘い匂いと温かく弾力のある双丘に未練が残ったのは……今は内緒だ。

「時場所状況選ばず昔と今もちょっかい出してんのは先生ですっ!! ……ったく、今日は一段と出来上がって始末に負えませんっ」

「怒っちゃいやん♥」

 高校時代から変わらぬ(否、夫婦となってからは格段にパワーアップした)セクハラに怒濤のツっ込みをかますも、無邪気な顔で甘える(喉を鳴らしニコ目でスリスリして来る)恩師に、つい頬が緩んでしまう。
 この恩師は昔から何をしても、どこか憎めないのだ。

「ほら、夏穂先生。手足解いてくれないと、何も出来ませんよ。とにかく、一旦、放して下さい」

 あやすように優しく言ったお陰か、はたまた酔っぱらいの単なる気紛れか。

「んもう、仕方無いわねぇ。それじゃ、一緒に呑んでくれたら大人しく寝てあげる~♪」

 酔っているのに素早い動きで宏の唇に吸い付き、存分に舌を絡ませから夏穂は素直に縛めを解いた。
 この時、固唾を呑んで見守っていたほのかが、「おぉ、流石、宏! あの夏穂さんを一発で調教した……のか?」と最後は疑問形で呟いたのは、さておき。

「ふぅ、やっと動けた。ほら、夏穂先生、一本だけ付き合いますから、そしたら一緒に部屋に戻りましょうね」

「うんっ♪」

 しおらしく頷く夏穂の左隣に腰を下ろし、一緒に缶ビールを呷る宏。

(さっさと呑んで、とっとと寝かせよう。でないと本気(マジ)で大魔神が降臨すっからなー。第一、俺の部屋に奥さん達、残したまんまだし!)

 夏穂に向ける笑顔とは裏腹に、焦り捲りの宏。
 このまま下手に騒ぎが長引けば、「オドレは妻の管理も出来んのかぁ!」と握り拳の中指を立てた筆頭妻からの苛烈な叱責や「トイレに行ったまま放置プレイとはイイ御身分ねっ!」と目を三角にし角を生やした千恵達からの激烈な吊るし上げが目に見えている。

(普段は旨い筈のビールが、最初からホロ苦く感じるのは……絶対、気のせいじゃ無いよなぁ)

 さっさと呑み干すべく、左手に持った缶ビールをグビグビ呷る宏に、夏穂は瞳をニンマリ細めて擦り寄って来た。
 しかも無言で宏の右腕を取ると左腕で胸に抱え込み、宏の手首を己の股間に挟み込んだのだ。
 そして残った右手で宏の太腿を愛撫するかの如く、指先で撫でさすり始めた。

「お客さん、緊張してるの? この店は初めて? なら一生忘れられない、う~んと濃ゆいサービス、してあ・げ・る♥」

 挟んだ手を股間に押し付けるように太腿を捩らせ、耳元に熱い吐息を吹き掛けても来る。

「夏穂先生……どんな小芝居ですか。もう部屋に戻りましょう! ホラ、俺のビール空きましたから!」

 一旦は脱力したものの、宏は手にした缶ビールを逆さにしてアピールし、身を捩って何とか事態を打破しようと藻掻くも、ニコニコ顔の夏穂の力は少しも緩まない。
 それどころか、

「あら、ウチのビール、まだまだた~~~ぷり、残ってるも~ん♪」

 などと、チャプチャプ音のする缶ビールをこれ見よがしに揺らし、難癖を付ける始末だ。

「夏穂先生~~~っ。さっきっから全然呑んで無いじゃないですかっ! 今迄のハイペースはどこ行ったんですっ!」

 夏穂と密着し、組んず解れつする宏に、黄色い歓声ではしゃぐ夏穂。
 そんな二人を、ジト目でみつめる人物が……。

「む゛~~っ! 夏穂さん、さっきから自分だけ宏に密着してる! 宏も夏穂さんの胸に溺れ股間に手ぇ突っ込んで鼻の下伸ばしてるし!」

 さっきから蚊帳の外状態となったほのかの眉間に皺が寄り始め、顔付きも徐々に険しくなってゆく。
 宏の必死の脱出工作(?)を余所に、やがてほのかの中で何かが弾けた……らしい。
 それまでの中立的な態度を一変させ、手にした缶ビールを一気に呷ると宏の左隣にドスンと腰を下ろした。

「お、新たな『お客』だな♪ よ・ろ・し・く・な♥ オレのサービス、受けてくれよ! 『飛んだ』気分になれるぜ♪」

 パイロットだからこその『言い回し』で、ほのかは宏の左頬にキスを贈るとまだ持っていた空き缶を奪い取り、その空いた左腕を夏穂同様に右腕で胸に抱き締め、宏の左手をショーツ一枚の己の股間に挟み込んだ。

「な゛、なんでこうなる! ほのかさん、しっかりして! 正気に戻ってっ! 夏穂先生もオッパイ出して挑発しないで! 手に押し付けた股間を動かさないで! ――って、ほのかさんも鼻息荒くして対抗しないっ! クロッチ捲(めく)らなくてイイですからっ! 割れ目拡げちゃダメェ!!」

 ――三人掛けソファーの中心に宏が両腕を広げて陣取り、その腕は左右に侍(はべ)らせた美女の胸の谷間を通って股間に達している――。

 しかも、一方は胸元が大きくはだけたパジャマ姿、もう一方はタンクトップにローライズショーツだけの姿。
 加えて、ノーブラの証でもある尖らせた乳首を、これでもか! と二人して見せ付けてもいる。
 傍から見れば羨ましいのひと言に尽きるが、宏にとっては、それどころでは無い。

「ひ・ろ・し・ク~ン♥ はむっ♥ あむっ♥」

「宏ぃ♥ ココ、棒状に膨らんでるゾ♥ ホラホラホラ、だんだん太く長く成長してくゾ♥」

「二人共、同時に耳元で喋らないで! 息、吹き掛けないで! せめて交互に静かに話して……じゃ無い! 腕を放して! あひゃん♥ 耳たぶ噛んじゃダメ! うはぁあっ!? 股間で手筒動かすなぁっ!」

 両手両腕両足に股間まで左右からがっちりと掴まれ、耳元で別々のエロトークを同時に話し掛けてくるので、宏としては、もはや対応の仕様が無い。
 たとえどんな状況であれ、力尽くで振り払うと言う選択肢など、宏の中には微塵も無いのだ。

「お願いだからもっと静かに! 抱き付いても好いから静かにして! ……えぇい、こうなったらっ!!」

 宏はヤケクソ(?)で、唯一動かせる首を目一杯伸ばし、声高に話す夏穂の口に己の唇で封をした。
 つまり、キスひとつで第一原因となった禍(わざわい)を封印したのだ。
 そして金輪際、再稼働しないよう何度も唇を貪り、甘噛みし、舌を吸い扱き、口内の隅々に舌を伸ばして蹂躙する。

「はぅん♥ はぁ~~~~~♥ ウチ、このまま死んでもイイ~~~♥ 幸せ~~~♥」

 元より泥酔状態の夏穂は、宏からのディープキスにより、あっという間に墜ちてしまう。
 どうやらアルコールの酔いに加えて宏にも酔いしれて前後不覚に陥ったらしい。

「よし! 次はほのかさんだ!」

 ぐるりん、と首を巡らせた宏は、目の前で蠢くハーフ美女の形好い唇に吸い付いた。
 こちらは最後まで夏穂を留(とど)めてくれたので、ご褒美の意味も込めて愛情たっぷりなキスを贈る。

「ほのかさん、大好きだよ♥」

「いやん♥ 宏に襲われるぅ~ん♥」

 ある程度酔っていたほのかは、ノリノリでキスを受け入れる。
 鼻を鳴らし宏の頭を掻き毟りながら濃厚なキスを繰り返すと、やがてクタリと崩れ落ちた。

「や――――っと静かになった。最初(はな)っからこうすりゃ好かった。……夏穂先生、かなり呑んだみたいだな。散乱する空き缶の数が半端ねぇし。いくら酒が強くても、これじゃ泥酔し悪酔いするわなー」

 単純計算で六リットル強、呑んだ事になるので、既に爆睡の域に達している。

「ほのかさんは単に眠くなった、って感じだな。普段通りの酔い加減だったから、夏穂先生相手に疲れたのかも」

 リビングには、美女二人の軽やかな寝息だけが静かに流れ始めた。

「やれやれ。平和的解決に至って好かった♪ これで俺も平穏無事に寝られ……ないぞっ!?」

 ここで宏は気付いた。
 両隣には、頭を宏の肩に預けて爆睡している美女二人。
 それだけなら電車の車内みたく微笑ましいで済むのだが、その二人は半身となって宏に密着し覆い被さっている。
 それも、宏の腕を胸に抱き締め、股間に手を挟んだままの姿で、だ。

「俺、微動だに出来んぞ!? しかも、この柔らかく張りのある温かな感触は……手の甲に腿が載ってる!? いったい二人共、どんな挟み方、してんだか。……って、これじゃ、俺が悶々としちゃうじゃん!」

 宏の二の腕は胸の深い谷間に挟まり、手首は女の無毛の縦筋に(両者共、薄布越しだけど)密着しているのだ。
 しかも、小さく身じろぎする度に、胸に刻まれた深い谷間がプルルンと揺れて二の腕に微妙な柔らかさと弾力を伝えて来るし、手首は縦筋に半ば埋まり、部分的な熱や小さな突起まで感じてしまう。

「しかも、ほのかさんの太腿に俺の手が直に接してるし、首筋には二人の温かな吐息がステレオで掛かってるし! 生殺し? これって生殺しって言わね?」

 柔らかく温かな女体と立ち昇る二人からの匂いに、宏の股間に、それはそれは立派なオベリスクが建立された。
 しかも、先端部には透明で小さな雫がトランクス越しに浮き出すオマケまで。

「身動き出来無いんじゃ仕方無い。このまま寝ちまおう。朝になれば自然と離れるだろうし。……それに、こんなに可愛い寝顔見られるなら、ずっとこのままが好いや♪」

 左右の肩に掛かる、程好い頭の重みと身体の温もりに、宏はそれまでの喧噪を綺麗に忘れた。
 二人の顔を見下ろす形にはなるが、長い睫毛や真っ直ぐ通る鼻筋、染み皺の無い肌理の細かい肌が手に取るように判るし、腕を通じて微かな鼓動までもが伝わって来る。

「おやすみ、夏穂先生。愛してます♥」

「おやすみ、ほのかさん。愛してるよ♥」

 首を伸ばすと無理矢理捩り、それぞれのおでこに、そっとキス。
 この時、二人が小さく身じろぎし薄く微笑んだのは……気のせいだろうか。

「静かになったら、俺も一気に眠気が……うわっ! もう三時過ぎてんじゃん! おやすみ~」

 宏は左右から美女に抱き付かれた(オマケに勃起させた)まま、ソファーで心温まる一夜を明かしたのだった――。


     ☆     ☆     ☆


 翌朝。

「まぁ! これはこれは……」

 ――フローリングの床には多数の空き缶が散乱しキムチと野沢菜漬けがコラボしてオブジェとなり、ガラステーブルには呑みかけの缶ビールや肴が放置され、ソファーにはあられもない姿で折り重なっている男女三人――。

 リビングの惨状は朝食の準備に現われた多恵子によって発見され、直ちに通報された。
 それは、誰も知らぬ間に一緒に呑んだ宏の依怙贔屓(みんなにはそう映った)に対する批難が浴びせられる合図(ゴング)でもあった。

「ひ~ろ~し~~~っ! お~の~れ~は~~~~~っっ!!」

 殊に、エッチの真っ最中に宏から置き去りにされた千恵や飛鳥、若菜と真奈美からの突き上げは目を覆う程に凄まじく、筆頭妻の晶が本気(マジ)で仲裁に入る程だった(流石に見ていられなくなったらしい)。
 また、筆頭妻でありながら宏への注意、勧告、警告を全く行なわなかった晶にも批難の視線が一時向いたものの。

「あ、あたし!? あたしは……ホレ、その、なんだ、仕方無いじゃない! だって猫がさ~……」

 本人が語った所によると、リビングの騒ぎに最初から気付いてはいたが、猫(晶は仔猫をそう呼ぶ)が胸の上で熟睡していたので起きるに起きられなかった、との由。
 そのお陰で騒動のイライラと仔猫の寝顔の癒しに一晩中、悶々としていたのだとか。

「そう言う事情なら仕方ありませんわねぇ。おほほほほっ♪」

 お屋敷最年長である多恵子の苦笑いと仔猫が振り捲く愛嬌のお陰で、晶は辛うじて難(とばっちり)を免れた。

「……ボク? 部屋にいたけど知らない」

「美優樹ですか? ずっと自室にいましたけど、何かあったんですか? 宏さん、えらく憔悴しきってますが?」

 当時、住人の中でリビングから一番近い場所にいた優と二階最東端に位置する部屋(リビングから一番遠い場所だ)で寝ていた美優樹は、騒ぎに全く気付かなかったそうだ。
 二人共、「一度寝たら布団に火が点いても起きない」熟睡度なのだ。
 そして。
 騒ぎの首謀者(酒謀者?)として被告席に座った夏穂、ほのか、宏の三人は……。

「ウチ? 単に寝酒をやってただけよん♪ 起きてからちゃんと片付けたし掃除もしたから、もう好いわよね♪」

 夏穂はいけしゃあしゃあと曰(のたま)い、教え子達や姪からの批難や禁酒一ヶ月の刑を全て撥ね除け、その逞しさ(図太さ!)を見せ付けた。

「確かに夏穂さんと一緒に寝酒やったさ! でも途中から必死こいて撤収させようとしてたんだ! けど……なぁ」

 ほのかは詳細な事情聴取の末、初犯かつ「あの」夏穂相手に奮闘した努力が認められ、トイレ掃除一ヶ月(平日は仕事があるので土日祝のみ)の刑となった。
 そして宏は……。

「今日は誰と誰とで呑むんだっけ? あ゛ぁ、ベッドで寝たい。……でも、結構楽しいな。……ん? これって――」

 宏は毎週末(金曜夜から土曜の朝と土曜夜から日曜の朝にかけて)、それぞれ二人の奥さんと呑み明かし語り合う刑に処された。
 しかも、奥さん達はセクシーなランジェリー姿で、だ(但し、まだ呑めない美優樹は課題を抱えている事情も考慮しソフトドリンクでのフリータイム参加となった)。

「これって……家庭内ランパブ、じゃね?」

 罰なのかご褒美なのか。
 後者だと強引に解釈した宏は酒宴に主演し続け、一ヶ月に亘る刑を嬉々として全うするのだった。


 その一方で。

「夏穂さん。ポン酒に合う旨い肴、フライト先の千歳で仕入れたんです。今夜辺り、オレの部屋で一杯どうです?」

「今回は日本酒ね。悦んでお供するわ♪ それじゃ、実家から送って来たノドグロで乾杯しましょ♪」

 この一件以降、ほのかと夏穂は比類無き「呑み友」となり、絆もより一層深まったと云う――。


                                            (つづく)

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