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     ~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~


ノクターン(2) ノクターン(2) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
 ここで時間は少々遡る。

「多恵子さん。折り入って頼みたい事があるんですが――」

 七夕宴会の夜、多恵子は夫である宏から、とある相談を持ち掛けられた。
 その聞かされた内容は思いも寄らぬもので、身体が熱くなり、鼓動も速まるのが自分でも判った。

(まぁ! 何て素敵な事なんでしょう♥ これは是が非でも協力しなくては! 否、妻として宏さんを支え、何が何でも成功させなくてはなりません! 正に、妻としての腕の見せ所、正念場、ですわっ!)

 瞬き一回分の時間も掛からぬうちに想いを巡らせ、多恵子は力の籠もった拳で自らの胸を叩いて言い切った。

「万事、お任せ下さいまし! わたくしにとっては造作も無い事。おほほほほっ♪」

 こうして、二週間後に開催される宴会に向けて多恵子は秘かに動き出した。


     ★     ★     ★


「好いですか、みなさん! これは宏さんにとって最も重要な宴会となります。当然、わたくし達には僅かばかりのミスも赦されません。各自、心して掛かって下さいねっ!」

 和装に割烹着姿のまま腰に両手を宛がい、胸を張って息巻くのは屋敷で最年長の多恵子だ。
 七夕宴会を終えるや否や寝入る寸前の夏穂をベッドから引き摺り起こし、寝間着へ着替え中の飛鳥と美優樹を自室に緊急招集して宏から頼まれた内容を伝えている真っ最中だった。

「いきなり胸ぐら掴まれたから何かと思えば……。姉さん、宏クンがドッキリ宴会を催す事は判った。だけど――」

「お母さんは私らに何をさせる気? サプライズだから六人の奥さん達に内緒にするのは、まぁ当然として――」

「お母さん、美優樹達に、いったい何が出来るの?」

 薄蒼のパジャマがはだけた夏穂の眉が寄り、タンクトップにショートパンツ姿の飛鳥が興味深そうに瞳を輝かせ、美優樹は双丘の桃色突起と黒ショーツが透けて見える黒のナイティ姿で戸惑い気味に首を傾げる。
 流石、長年連れ添った(?)三人だけあって言葉を連ねるタイミングは息もピッタリだ。

「疑問はもっともです。細かい指示は宏さんからわたくしに直接届きますから、その都度、わたくしから夏穂ちゃんや飛鳥、美優樹へ内々に伝えます。わたくし達はそれに忠実に従い、着実に準備を整えれば好いのです」

「その言い方だと、何だか……悪の秘密結社の指令系統みたくなってるのは……気のせい?」

「そんで最後に、どっか~ん、と爆発して終わるって言うヤツでしょ? 子供向けテレビの、なんとかレンジャー、とかで見た事ある!」

「夏穂お姉さんとお姉ちゃん……。今回は爆発しちゃマズいでしょっ!」

 嬉々として話す夏穂と飛鳥に、溜息混じりに思いっ切り眉根を寄せる美優樹。
 多恵子も、夏穂と飛鳥の脳天気な態度に一抹の不安を覚えるものの、人手が絶対的に足りない以上、贅沢は言っていられない。
 殊に、今回は若菜と千恵と言う、お屋敷の料理長と副料理長のアシストが絶対に受けられないのだから、ここにいる四人と宏だけで全てをこなさねばならないのだ。

「ともかく! 当日は宏さんとわたくしで大部分の料理とデザートを作りますから、夏穂ちゃん達はその補佐をして貰います。デザートのレシピは若菜さんと千恵さん、晶さんから教えて戴いたものがありますから、それで賄います」

「補佐……つったって、どーするの? 私、不器用だから包丁とか使えないし……お皿洗いなら出来る……かも?」

「そうそう! ウチはホラ、呑み専門、味見専門! だからさ……」

「美優樹も、調理はチョッと……。あ! 出来たお料理を運び、お皿とお箸を並べるのなら出来るよっ」

 同時に視線を逸らし、思いっ切り横を向く三人に多恵子は眉と髪を逆立てた。

「こら~っ! だから日頃から台所仕事を手伝えって言っているでしょうに! んもう~、明日からは自分の為では無く、宏さんの為に台所仕事を覚えなさい! 少しずつで好いからっ」

「「「は~い」」」

 バツが悪そうに首を竦める夏穂に飛鳥と美優樹。
 傍から見れば、夏穂の若々しさも手伝って叔母と姪と言うより、どう見ても三姉妹――もとい、自分を入れて四姉妹にしか見えない。

「って、今はそんな事を言ってる場合ではありませんね。飛鳥と美優樹には学校帰りにデザートの材料を皆さんにバレないように少しずつ買って来て貰い、当日も多少はデザート作りを手伝って貰いますからね。酒飲みの夏穂ちゃんはアルコール類やソフトドリンクの仕入れと保管をして貰いますから、そのつもりでね」

「ま、妥当な線ね。それなら怪しまれる事は無いだろうし」

 顔を綻ばせた夏穂が頷き、飛鳥と美優樹も満面の笑みを浮かべている。
 三人共、苦手な台所仕事を表立ってしなくて助かった、と言う顔だ。

「まったく貴女達と来たら……。それでは、くれぐれも宴会の件は極秘! 他言無用!! ですからね。 ……あ、そうそう。当日着る衣装は、こちらで用意しますから安心してね♪」

「う゛っ!? そ、その怪しげな笑顔が不安だわっ」

 冷や汗を流す娘の――飛鳥の呟きは多恵子によって封印され、こうして宏主催の結婚記念日宴会は多恵子達四人の影ながらの支援を受けて無事に迎えたのだった。


     ☆     ☆     ☆


「え~~、宴もたけなわですが、ここで俺から晶姉達に結婚一周年のプレゼントを贈ります!」

 筆頭妻の晶を始め、優、ほのか、真奈美、千恵、若菜の六人が揃いも揃って結婚記念日を忘れると言う大ポカをやらかし、上を下への大騒ぎとなって暫し。
 どうにかこうにか落ち着きを取り戻した妻達と車座になって宴会を愉しみ、佳境に達した所でグラスを置いた宏は手を挙げ、高らかにそう宣言した。

「ヒロからのプレゼント? ふふ♪ 何かしら、楽しみね♪」

「……ヒロクンからの、心の籠もったプレゼント。ボク、嬉しくて死んじゃいそう♥」

 宏の左隣に腰を据えた晶と右隣に寄り添う優の双子美女姉妹(ふたごしまい)が目元を更に赤く染め、

「宏からのプレゼントなら、どんな物でも何が何でも受け取るさ♥」

「宏君……嬉しい……♥」

 晶の隣に陣取るほのかがサムズアップして破顔し、優の隣に座る真奈美は早くも涙目になって見つめて来る。

「宏……アンタってば、こーゆー所も抜け目無いんだからっ。まったく、あたいには過ぎた旦那様だわっ♥」

「宏ちゃん~、宏ちゃん~♥ 私、嬉しくて踊り出したい気分だよ~」

 ほのかの隣で控えるチビTシャツにミニスカート姿の千恵は腕組みをし胡座を掻いて大きく頷き、真奈美の隣で気勢を上げっ放しの若菜は横座りしたまま膝でステップを踏む。
 六人共、瞳をこれ以上無い位に煌めかせて期待度満々だ。
 もっとも、

(うっわー、晶姉の大きく開いたキャミソールの胸元から柔らかい胸の谷間が丸見えだし、優姉の、ダボダボのタンクトップの脇の下からノーブラの美乳がチラ見えしてるし、ほのかさんはチューブトップにプックリ乳首勃たせてるし、真奈美さんはカラシリスみたいな白ワンピースでピンクのブラとショーツが薄っすら透けて見えてるし、千恵姉は水色と白のストライプショーツが縦筋に食い込んでるし、若姉も膝を上下させる度にフレアのミニスカートが捲れて太腿の奥でベージュのショーツが……って、あれは割れ目!? 若姉、穿いてねぇし!)

 宏は、熱視線を右に左にせわしなく走らせては妻達のお色気をたっぷり吸収してもいたのだった。

(――って、みんな、真っ直ぐ俺を見てる! うぅ……この期待度(プレッシャー)に負けそう……)

 宏は酔いとは別に鼓動が高まり、妙な汗が浮き出て来た。
 なにせ用意したプレゼントは、ともするとその期待を大きく裏切る形になるやもしれないからだ。

「そ、それじゃ、プレゼントを贈るね。えっと、多恵子さん達は、そのまま見届けて欲しいんだ」

 下座で――千恵と若菜の間で頷くメイド服姿の多恵子達四人は宏達の一挙手一投足を見守り、いったいどんなプレゼントが渡されるのか興味津々とばかり固唾を呑んでもいる。

(そ、それにしても、この四人も反則だよなぁ。揃って纏うホワイトプリムと黒の半袖エプロンドレスに白レースのフリルが縁取られてる点は同じでも、多恵子さんはチャイナドレス風に腰までスリットが入ったロングスカートと黒のガーターベルトの妖艶な組合せだし、夏穂先生は生足に股下数センチの超ミニのプリーツスカートで白ショーツのデルタ地帯が常にチラ見え状態だし、飛鳥ちゃんは普段とは真逆に足首まであるロングスカート穿いてシックなアダルトムード満載だし、美優樹ちゃんも黒のオーバーニーソックスとミニのタイトスカートで太腿の絶対領域が強調されて新鮮なお色気満載だし……メイドさん最高~♪)

 多恵子率いるメイド隊に今朝から思いっ切り萌えまくりの宏だった。

(――って、鼻の下、伸ばしてる場合じゃ無かった。多恵子さん達からのプレッシャーもハンパ無いし……俺、用意したプレゼントに自信持て無くなって来た)

 爽やかな微エロ状態が一転、まるで見えない壁に上下から圧されているかのような感覚を受け、宏はゴクリと唾を飲み込み、冷や汗を滝のように流してしまう。
 それでも何とか気を取り直し、今か今かと瞳を煌めかせて(涎を垂らして?)待ち受けている妻達に向き合う。

(う゛っ! こ、ここにいる十人が十人、みんな犬に見えて来た……)

 宏の脳内では妻達の頭に犬耳が生え、ふさふさの尻尾を左右にパタパタ振っている画が浮かんでいたのだった。

「それでは、みんな手の平を上に向けててね。……ハイ、これ。つまらない物だけど、どうか収めて欲しい」

 宏は背後から紙袋を引き寄せ、プレゼントを取り出してはひとつひとつ確かめ、ひとりひとり、手の平に載せてゆく。
 そしてあっという間に紙袋は空となり、結婚一周年記念のプレゼント贈呈式はものの一分も掛からず終わりを告げた――のだが。

「「「「「「………………………………」」」」」」

「「「「?」」」」

 晶、優、ほのか、真奈美、千恵、若菜は目を真ん丸に見開いたまま載せられた品を無言でじっと見つめ、多恵子、夏穂、飛鳥、美優樹のメイド隊も口をポカンと開け固まっている。
 受け取った六人が目の高さに掲げ見つめる先には、正面から見て幅はおよそ二十センチ、高さと奥行きは十数センチ程度の、吹けば確実に飛んでしまう、滅茶苦茶軽い金色のモノが載っていた。
 どうやら想定外の品に誰ひとりとして反応出来ず、晶達六人に至っては礼を言う事すら失念しているようだ。

 ――チッ、チッ、チッ、チッ――

 壁時計の秒針が時をひとつひとつ刻む音がリビングに大きく響き、どこからか仔猫の欠伸する微かな息遣いも聞こえて来る。

(うっわ~~~、やっちまった~~~~っ!! 誰も眉一つ動かさねぇし、誰ひとりとして無反応! 何日も考え工夫も凝らしたのに……このプレゼントは大失敗だったかぁ!?)

 宏は妻達の余りの硬化振りに気が遠くなり、目の前が真っ暗になった。
 周りの音や光りが耳と目に届かず、無重力空間に放り込まれたかのような錯覚に陥る――寸前。

「えっと……ヒロ? これは……いったい……」

 どの位の刻が経っていたのだろうか、妻十人中最も早く復活したのは、名実共に筆頭妻となって久しい晶だった。
 個性派揃いの奥方を束ねるだけあって物事を見極める術に長けてはいるが、それでも贈られた金色のプレゼントには切れ長の瞳を何度も瞬かせ、目を眇めては何度も見直しているので半信半疑になっているようだ。
 続いて、頭を強く横に振ったほのかのフリーズが解け、窺うように上目遣いで視線を向けて来た。

「え~~~っと、宏? その……」

 思った事を口にして好いのか判らないらしく、闊達なほのかにしてはストレートに言葉が出て来無い。
 ついさっき、「宏からのプレゼントならどんな物でも何が何でも受け取る」、などと豪語していたのが嘘のようだ。
 ようやく動き出した真奈美、千恵、若菜もほのかと同じらしく、口をパクパクさせたまま手の平に載る小さなプレゼントと宏の顔を何度も見比べている。

「「「「……………………」」」」

 多恵子達四人はプレゼントされた本人達よりももっと驚いたらしく、未だに石像の如く驚愕の表情で固まったまま微動だにしない(夏穂の箸から唐揚げがコロリと落ちてゆく)。
 宏は多恵子達裏方衆にもプレゼントの正体を今の今まで、明かしていなかったのだ。

「あ……っと、みんな、驚いたみたいだね。ってか、驚いて当然だと思う。だから、これから詳しく説明するよ」

(俺も、みんなの余りの無反応さに驚いたわっ)

 宏はパンッ! と大きく手を打ち、自ら活を入れると同時に十人の奥さん達のフリーズを完全に解いた。
 そしてジョッキに注いであったチューハイレモンを一気に呷り、ネタバラしの口火を切った。


     ☆     ☆     ☆


「え~~~っと、みんなは銀婚式や金婚式は知ってるよね?」

「勿論。結婚二十五周年と五十周年を迎えた時に行なう、お祝いの儀式でしょ。……でもまぁ、その二つの殆どは当事者よりも家族や知人が主催する形になってるわね」

 世の中の常識とばかり、したり顔で千恵が速攻で応え、他の面々も大きく頷く。

「そうだね。それじゃ、結婚三周年は何て言う? 五周年や七周年、十五周年や三十周年に行なう結婚記念日の儀式は何て言うか、誰か知ってる?」

 宏が問い掛けた時、真っ先に顔を綻ばせたのは多恵子だ。
 誰もが首を大きく傾げている中でひとり息を呑み、胸の前でパチンと手を合わせ、瞳を煌めかせて、これ以上無い位に破顔している。
 流石、人生経験が誰よりも豊富だけあって、プレゼントの意味に思い至ったらしい。
 宏は多恵子に向かって微笑み、自分の唇に人差し指を当てて「まだ内緒♪」のポーズを取る。

「晶姉は? 秘書だった頃に、そう言った祭典に名代として出席した事、無かった?」

「それは……無いわ。いくら仕事上で付き合いがあっても結婚記念日は別次元、プライベートの領域だからね」

「そっか、晶姉にも判らない事、あるんだね。ムフッ、何だか新鮮~♪」

「フンッ! いくら全知全能のあたしでも、知識外の事までは関知しないわよっ」

 どことなく誇らしげな夫に不満らしく、晶がアカンベーをして拗ねる。

「宏ちゃん~、勿体ぶらないで教えてよ~」

「なぁ、宏? それは日本特有の呼び方なのか? それとも世界共通のものなのか?」

 早々に考える事を放棄した若菜が駄々を捏ね、ほのかは金色のプレゼントを摘み上げると寄り目で見つめたまま尋ねる。

「若姉、もちっと待っててね♪ ほのかさん。地域差年代差はあるみたいだけど、結婚記念日の呼び方は広く世界に浸透してるらしいよ。逆に、日本では馴染みが薄いみたいだね。ほのかさんのご両親の場合はどうだった?」

「オレの両親の結婚記念日? ハテ……サテ……どうだったかなぁ。ん~~~~、記憶に無いなぁ。ママはスウェーデン人だけどパパは日本人だから、そーゆー夫婦記念日的な事、オレがいる前では余りしてなかったような……」

 天井を睨んで熟考したものの、最後に白旗を揚げるほのかだった。

「確かに……あたいの周りで結婚ン年を迎えた夫婦で、記念のプレゼント貰ったとかなんとかって言う話、聞いた事無いわね。まぁ、他人様(ひとさま)に進んで話す事でも無いのかもしれないし」

「まだまだ私の知らない世界があるのね。宏君、若いのに凄いわ。世界を視野に入れている証拠ですものね」

 千恵は贈られた金色の物体をまじまじと眺め、真奈美は宏をまじまじと見つめる。

「千恵姉、年毎の結婚記念日の呼び方は、日本では近年になってから徐々に浸透し始めている、って感じみたいだよ。知らない夫婦は全く知らずに過ごし、詳しい夫婦は毎年楽しみにしてるみたいだし。真奈美さん、俺はそんな大層な人間じゃ無いよ。奥さんを愛する、単なるひとりの夫に過ぎないよ」

 肩を竦め謙遜する宏に、潤んだ瞳を向けたのは優だ。

「……ヒロクン、謙虚。だけど、このような席では大いに誇って好い。恥ずかしい事じゃ無いんだから。……でも、ボクは恥ずかしながら結婚記念日のイベントは金・銀以外は判らないし、それ以外に名称がある事すら知らなかった」

 優の言葉に残り八人の妻達は一斉に大きく頷き、これが代表意見となったようだ。
 ただひとり、宏の目論み――意図を理解した多恵子だけは満面の笑みを浮かべ、足取り軽く給仕に勤しんでいる。

「そうだよね~。俺も調べるまではちっとも知らなかったし。それじゃ、贈った品と併せて説明するね」

「結婚記念日の名称、そして贈られた金の折り鶴、か。日本には、まだまだ知らない事がたくさんあるなぁ」

 ほのかが好奇心満々に見つめて来る。
 宏は結婚記念日の贈り物として、該当する六人の奥さんに金色の折り鶴を、それぞれに贈ったのだった。


     ☆     ☆     ☆


「結婚二十五周年で銀婚式、五十周年で金婚式と呼ぶのは好いよね。それじゃ俺達の結婚一周年は何て呼ぶのか、あれこれ調べた結果――」

「ごくりっ!」

 誰かの、唾を呑む音がリビングに大きく響く。

「――って、今は酒、かっ喰らってる場合じゃねぇだろっ!」

「きゃいんっ! だって~、緊張して喉が渇いたんだもん!」

 千恵の鋭い鉄拳が若菜をしばき倒す。
 どうやら唾を呑む音の正体は、若菜が喉を鳴らしてビールを呑んだ音、だったようだ。

「わ、若姉……千恵姉……」

「「「「「「「……………………」」」」」」」

 脱力した宏に、晶、優、ほのか、真奈美、夏穂、飛鳥、美優樹の七人の刺すようなジト目が千恵と若菜の美姉妹(しまい)へ槍の雨の如く降り注ぐ。

「あっ……ご、ごめん! 話の腰、折っちゃった」

 恐縮し首を竦める千恵に、(止せばいいのに)胸を張った若菜がここぞとばかりに上から目線で姉を指差した。

「やーい! 姉さんの、いじめっ子~」

「お、おどれは~~~っ! あとで覚えてろよ~~~っ!!」

 嵩に懸かる若菜と歯軋りして悔しがる千恵の美姉妹コントに、周囲から何とも言えない吐息が漏れる。
 どうやら、興を削がれた事への抗議、若しくは突如始まった毎度お馴染み姉妹コントへの苦笑らしい。
 そんな、場の空気が別の方向へ少々傾き掛けたら。

「おいおい、二人共、今はじゃれ合ってる場合じゃねぇだろ。あとでいくらでも騒いでも好いからさ、今は宏の話をちゃんと聞こうぜ? な、このままじゃ、せっかく貰ったプレゼントが泣くぜ?」

 流石、現役の機長だけあって、ほのかの手際好くトラブルを収め路線修正する術は見事と言う他は無い。
 筆頭妻の晶も鋭い視線を向けて同じ意見だと暗に諭し、他の面々も苦笑いの表情を浮かべている。
 これだけの非難を受け、流石の若菜も己の悪業(?)を悟ったのか、しおらしく頭(こうべ)を垂れた。

「「ご、ごめん(なさい)~」」

 双子らしく、綺麗にユニゾンする千恵と若菜だった。

「あ、ま、まぁ、千恵姉と若姉も、そんなに落ち込まないで! 俺はホレ、平気だからさっ!」

 状況も忘れ、美姉妹コントについ魅入っていた宏が慌ててフォローするも、二人の顔は暫し上に向く事は無かった。
 どうやら場の空気を大いに乱してしまい、自戒の念に囚われているようだ。

(う~ん、流石にこのままじゃ拙いな。……なれば!)

 瞬間的に閃いた宏は、迷わず言葉を紡いだ。

「えっと……どこまで話したっけ? 晶姉のおねしょが高学年になっても治らない話、だったっけ?」

「――って、誰がおねしょしたってぇっ!? ソレはオドレの話だろうがっ」

 ボケるご当主に、瞳を吊り上げ口から炎を噴く晶。
 これには全員が虚を衝かれ、一瞬後には爆笑して傾き掛けた場の空気を完全に払拭し、元の明るく楽しく温かな空気に戻る。

(千恵姉と若姉の二人だけを悪者には出来無いもんね~。……って、晶姉も笑ってウィンクしてるし、バレてたか)

 わざとボケに走った宏と、それを瞬時に察し、物の見事に突っ込んだ晶による、隠されたファインプレーだった。

「え~~~、本題に戻るね。俺達の結婚一周年を迎えるに当たって、結婚記念日について調べたんだ。そしたら出るわ出るわ、それこそ結婚一周年から十五周年までは毎年、以降五年毎に六十周年までと七十五周年にそれぞれ呼び方があって、その名に因んだ贈り物をするんだって」

「それじゃ、宏先輩。結婚一周年は『折り鶴婚』、とでも言うんですか?」

 今回の当事者では無いものの、同じ妻として興味があるのだろう、メイド姿の飛鳥が給仕しつつ答えを求めた。

「惜しいっ! 正解は『紙婚式』。結婚一周年は『紙婚式』って言うんだって」

「かみこんしき? 初耳ね。どんな字を書くの? 神様の神?」

 すっかり立ち直った千恵が尋ね、他の面々も熱い視線を向けて来る。

「答えはみんなの手の上に載ってるよ。そう、折り紙の『紙』の字を充てるんだ」

 宏がまだ折られていない真っさらな折り紙を翳して見せると、口々に「なるほど」と言う言葉が漏れ出る。

「紙婚式、かぁ。それで、宏はどうして折り鶴にしたんだ?」

「紙に因んだ贈り物、って事で、悩んだんだ。何を贈ろうかな、って」

 ほのかの疑問に、宏は折り紙を見つめながら応える。

「世間ではアルバムとかノート、手帳、日記帳とかの紙製品を贈るらしいんだ。で、俺なりに考えに考えたのが、折り紙を使っての鶴なんだ」

「確かに、折り紙も立派な紙、だものね。で、金色にも何か意味が?」

 宏は、今度は晶に顔を向けて応える。

「折り鶴の謂われに関しては諸説あるけど、俺は縁起物の『鶴は千年、亀は万年』の説を採って鶴を折り、金は魔を払うとか厄除けとか、ありとあらゆる禍(わざわい)を払うって謂われてるから金色の折り紙を使ったんだ。つまり、最低でも千年は禍を防ぎ、その間ずっと夫婦で飛翔していられるように、って想いを込めて、ね♪」

「それで……金色の鶴、なのか。くっそー、この折り鶴、オレには眩し過ぎて好く見えないぜ」

 いつの間にか、碧眼から涙を滂沱と溢れさせているのはほのかだ。
 情に厚い性格がもろに反映されているらしく、しきりに腕で目元を拭っている。

「だけど、余りにチープ過ぎてどうかな、とも思ったんだ。かと言ってアルバムや手帳をこの時期に贈っても……ねぇ。だから開き直って、紙製品で一番安い折り紙にしたんだ。それに、結婚記念日に贈る品は年々高価な物へとランクアップして行くから、六十周年はダイヤモンド婚、七十五周年はプラチナ婚、と呼ばれてるんだって。だから、高価なモノはその時……ってコトで」

「ヒロ……♥」

「「「「……………………♥」」」」

 晶も言葉を詰まらせ、真奈美、千恵、若菜、優も瞳を潤ませ唇を噛み締めている。
 夏穂、飛鳥、美優樹のメイド隊も感心したかのように(羨ましそうに?)目を見張り、最初に折り紙の意味を当てた多恵子は胸の前で小さく拍手して称えてくれる。

(はぁ~~~好かったぁ~~~。みんな俺のプレゼント、気に入ってくれたみたいだ。いゃ~、好かった好かった♪ ここに来るまで長かったのなんのって! 一時はどうなるかと肝を冷やしたわっ)

 サプライズ紙婚式が成功し、プレゼントも好評を得る事が(辛うじて!?)出来、ひとり安堵の息を盛大に吐(つ)くご当主・宏だった。

「宏はホント、女心、くすぐるのが巧いよなぁ。オレ達の結婚式や新婚旅行しかり、今回もしかり………………ん?」

 と、ここで流れ落ちる涙を止めようとしていたのか、折り鶴を見つめたままずっと上を向いていたほのかが、何やら首を傾げ始めた。
 折り鶴の尻尾を持つ手を何度も返しつつ上下左右から眺め、続いてリビングのシーリングライトに翳し、やがて碧眼が僅かばかり見開いた。

「この折り鶴、中に……何かあるぜ?」

(ぎくっ!)

 ほのかの発したひと言に一瞬で顔が強張り、心臓が大きく脈打つ宏。

(ま、拙い! こ、こんなに早くバレるとはっ! 少なくとも来年まではバレない予定だったのにっ!)

 流石、現役パイロットだけあって目敏い――などと褒めている場合では無い。

「何か? 何かって、ナニ~?」

「ホラ、こうして……灯りに鶴を透かすと、だな……おっ♪」

(ぎくぎくっ!)

 潤んだ瞳を光らせた若菜がすかさず首を突っ込み、再び何かを感じ取ったのか笑みを浮かべて速攻で応えるほのか。
 大学時代からの長い付き合いだけあって阿吽の呼吸(?)の域に達している二人に、宏は今日何度目かの冷や汗を流し身体を強ばらせてしまう。
 今日一日で、かなり体重が減った――のは気の所為では無いだろう。

「あ! ホントだ~! でもコレ、何かな~? 表からじゃ判んないよ~」

「どれどれ、ちょっと開けてみようぜ♪ 折り紙なんだし、また折り戻せば好いしな♪」

 眩しそうに折り鶴を翳していたほのかが、とうとう宏のもうひとつの仕掛けを見破ってしまった。

(あぁ……完全に見つかっちまった……もう、お終いだぁ)

 ひとり顔を真っ赤にし、頭を抱え小さく踞(うずくま)る宏。
 そんな、見るからに怪しげな態度に――ナニかありますと自白したも同然のご当主に、妻達は一斉に嬉々として金色に光り輝く折り鶴を丁寧に、そして慎重に開き始めた。

「何が出るかな、ナニが出るかな~♪」

 誰かの鼻歌がリビングに流れる中、折り鶴を開いた妻達の目に飛び込んで来たのは――。


                                            (つづく)


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ノクターン(3) ノクターン(3) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
 結婚一周年――紙婚式を迎えた晶、優、ほのか、真奈美、千恵、若菜の六人が宏から贈られた金色の折り鶴を嬉々として開くと、折り紙の裏面には夫である宏から自筆の手紙がしたためられていた。


     ☆     ☆     ☆


『晶姉へ。

 晶姉と俺が正式に結婚し、人前結婚式を挙げて今日で一年経ったね。
 長いようで凄く短い一年だったと思う。

 晶姉、結婚一周年、ありがとう!

 この間、まだまだ社会経験が浅く、人間的にも成熟度の浅い俺を常に支えてくれてありがとう。
 俺の至らない部分で他の奥さん達をフォローしてくれてありがとう。

 いつもは言葉で感謝の気持ちを述べたり態度で示したりするけど、こうして文字に残すと何だか照れるね。
 でも、手紙だからこそ、言える事もあるよね。

 晶姉、俺の従姉でいてくれてありがとう。
 俺が生まれてから今日(こんにち)まで、いつも傍にいてくれてありがとう。
 そして……俺の奥さんになってくれて、本当にありがとう。

 俺、晶姉と夫婦になれて本当に嬉しいし、今でもすっごい幸せだよ。
 晶姉がいてくれたからこそ、今の俺があるのだと感謝してる。
 この気持ちは恐らく……いや、一生、変わらないよ。

 晶姉。
 これからも――そして共に老衰で死んでからも、俺の隣で一緒に歩いてくれると嬉しいな♪

                             晶姉を心から愛する宏より』

 瞳を潤ませ、読み終えた晶の手紙を持つ手に力が籠もり、ほんの僅か、折り紙に皺が寄った――。


     ☆     ☆     ☆


『優姉へ。

 優姉と夫婦になって、今日で一年経ったね。

 優姉、結婚一周年、ありがとう!

 優姉がいるから、優姉の愛情があるからこそ、俺は俺でいられるんだと思う。
 優姉、ありがとう。

 また。
 いつも屋敷の財産を管理してくれてありがとう。
 俺は昔から数学が苦手だったら、本当に感謝してる。
 同時に、他の奥さん達への、利益の分配、ありがとう。
 みんなと俺が金銭面で何の憂いも無く過ごせるのは、全て優姉のお陰だよ。

 本当にありがとう。

 優姉が、俺の従姉でいてくれて嬉しかった。
 優姉が、俺の奥さんになってくれて、本当に嬉しかった。
 優姉と出逢えて、俺は本当に幸せ者だよ。

 優姉。
 これからも俺の隣にいてくれると、もっと嬉しいし幸せだな♪

                             優姉を心から愛する宏より』

 涙でぼやけつつ何とか読み終えた優は、そのまま手紙を胸に抱き締め、そっと目を閉じた――。


     ☆     ☆     ☆


『ほのかさんへ。

 ほのかさんと晴れて夫婦になって一年。

 ほのかさん、結婚一周年、ありがとう!

 刻(とき)が経つのは、本当に速いね。
 ほのかさんと出逢い、何度か交流し、そして結婚。
 他のみんなとは違って結婚するまでの期間が短かったけど、その分、ほのかさんとは濃密な付き合いが出来ていたと思う。
 だからこそ絆を深め合い、結果、こうして結婚出来て本当に好かったし嬉しいよ。
 
 ほのかさん、俺と結婚してくれてありがとう。

 たとえ出逢いは偶然でも、夫婦になったのは必然だったと、俺は今でも思ってる。
 それ位、俺はほのかさんに惹かれたんだから。

 これからも、みんなに負けない位に絆と愛を深め合って行こうね。
 
 あ、それから。
 ほのかさんが仕事で何処かの国の遥か高空を飛んで俺とは何千マイル離れていても、俺の心の中には常にほのかさんがいる事を忘れないでくれると……嬉しいな♪

                             ほのかさんを心から愛する宏より』

 読み終える頃には、ほのかの澄んだ碧眼からは涙が滝のように溢れ、折り紙をしとどに濡らしていた――。


     ☆     ☆     ☆


『真奈美さんへ。

 真奈美さんと結婚し、今日で一年経ったね。

 真奈美さん、結婚一周年、ありがとう!

 また、俺が仕事で屋敷を空けている間、掃除や洗濯の家事に精を出してくれてありがとう。
 俺が帰る家に真奈美さんがいてくれて、本当に嬉しいよ。

 俺と真奈美さんが出逢ってからの歴史は晶姉達と比べるとずっと短いけど、その分、これまで以上に密にしていこうね♪

 真奈美さん、俺と結婚してくれて本当にありがとう。

 俺は真奈美さんと出逢えて好かったと、心底思ってる。
 これからも、俺と一緒に喜怒哀楽を共にしてくれると嬉しいな♪

 そして。
 真奈美さんがいるから、俺達の暮らす家が常に優しい空気に包まれているとも思う。
 本当にありがとう。
 ……真奈美さんがいてくれるから、俺はいつも笑顔でいられるんだよ。

 これからも、俺と一緒に人生を歩いて行こうね♪

                             真奈美さんを心から愛する宏より』

 読み終えるや、小さくしゃくり上げる真奈美は唇をきつく噛み締め、暫く顔を上げられなかった――。


     ☆     ☆     ☆


『千恵姉へ。

 俺と千恵姉が結婚して一年。

 千恵姉、結婚一周年、ありがとう!

 俺が安心して暮らせるのは、全て千恵姉のお陰だよ。
 千恵姉が屋敷を維持管理してくれるから、俺は安心して働きに行けるんだ。
 千恵姉が食事や生活環境に気を遣ってくれるから、俺は健康でいられるんだ。

 千恵姉、本当にありがとう。

 俺、千恵姉と結婚出来て本当に嬉しいよ。
 千恵姉と幼馴染で好かった。
 幼い頃から常に傍にいてくれて、ありがとう。
 傍にいてくれるから、どんなに心強かった事か……本当に感謝してる。

 千恵姉、俺と結婚してくれてありがとう。

 これからも俺達の愛の巣を維持管理し、いつも俺と一緒に過ごしてくれると嬉しいな♪
 最後に。
 俺達の生活を支えてくれて、本当にありがとう。
 俺の心の中には、いつも千恵姉がいるからね♪

                             千恵姉を心から愛する宏より』

 読み終えた千恵は、膝に手紙を載せたまま両手で顔を覆ってしまった――。


     ☆     ☆     ☆


『若姉へ。

 今日で結婚して一年経ったね。

 若姉、結婚一周年、ありがとう!

 幼馴染から奥さんになってくれて、俺はすっごく嬉しいよ。
 本当に感謝してる。

 そして、いつも美味しい料理を作ってくれてありがとう。
 若姉の作ってくれるご飯のお陰で、より健康体になれたしね♪

 朝から晩、そして翌朝まで明るく楽しく過ごせるのは、全て若姉のお陰だよ。
 また、みんなとの『性活』が充実しているのも、若姉の尽力の賜物だよ。

 若姉が俺の奥さんで、本当に好かった。
 大声で、「俺の奥さんは、こんなにも素晴らしい女性(ひと)なんだ!」って地球全体に自慢したい位だよ。

 若姉、俺と結婚してくれて本当にありがとう。

 これからも、常に俺と一緒に笑ってくれると嬉しいな♪

                             若姉を心から愛する宏より』

 読み終えた若菜は脱兎の如く宏の背後に縋り付き、両肩を掴みながら広く温かい背中に額を押し付けていつまでも咽び泣いた――。


     ☆     ☆     ☆


「………………………………」

 いったい、どの位の刻(とき)が過ぎただろうか。
 ほんの数秒かもしれないし、たっぷりと数分経ったかもしれない――そんな、誰もが刻の推移を忘れ掛けた頃。

「……ふぅ」

「……ほぅ」

 図らずも手紙を読んでしまった多恵子と夏穂の吐(つ)いた深い吐息が、静まり返っていた場の空気を動かした。
 若菜の手から舞い落ちた手紙を隣にいた多恵子が、千恵の膝から滑り落ちた手紙を夏穂が咄嗟に受け止めていたのだ。

「な、なんて素敵な……そして心の籠もったお手紙なんでしょう! こんなにも心に染み入るお手紙は初めてですわ。これでは、貰った側は一溜まりもありませんわね。若菜さんが感極まって滂沱と涙するのも、ごもっともですわ」

「宏クンの国語の成績は三年間ずっと八十五点を下回ったこと無かったけど……千恵ちゃんに宛てたこの手紙には特上プラス、かつ花丸上げても足りない位だわ。ウチだったら、すぐに国語の教科書に採用するわね」

 興奮気味の多恵子に、高校時代と少しも変わらぬ、教え子の几帳面な文字を追っていた現役国語教師の夏穂も何度も頷き、心からの賛辞を漏らす。
 もっとも、二人して潤んだ瞳で宏と六人の奥さん達をみつめているのは一緒だ。

「宏さんが夜な夜な手紙をしたためてはいましたが、それがこの様な形になるとは……」

「ウチ、全っ然! 判んなかった。今にして思えば、便箋にしてはヤケに小さいなぁ、とは思ってたけど、それが……ねぇ。感心する以外に言葉が出て来ないわ」

 多恵子と夏穂は、宏が何やら書かれた紙を見つつ正方形の紙に真剣な目付きで手紙をしたためていた事は知っていた。
 サプライズと言う性質上、他の奥さん達には内密にする必要があるので自室を宏が手紙を書く場所として提供していたからだ。
 二人はてっきり、当日の宴会中に晶達の部屋にでもそっと置くか、若しくは宴会中に堂々と読み上げるものばかりだと思っていた。
 それが、よもやその紙が折り紙で、しかも折り鶴に変身するとは思いも寄らなかったのだ。

「このお手紙は晶さん達にとって一生の宝物、ですわね。それこそ、額に飾っても好い位ですわ♪」

「た、確かに。CDやDVD、或いはICレコーダーなどのデジタル媒体に音声や画像を残しても、ものの数年で使えなくなったりデータが消えたりするけど、単純だけど折り紙みたく片面を色紙で裏打ちされてある程度強度のある紙を使えば、この先五十年……否、百年、二百年、五百年経っても宏クンの想いは目に見える形として永遠に残るわ。それこそ、平安時代の絵巻物が現代まで鮮明に残っているように、ね」

「そうですわね。宏さんがそう言う風に考えたのかまでは判りませんが、ご自分のお気持ちを自らしたため、お伝えしたのは大正解ですわ。贈られた側も、いつでも宏さんのお気持ちに触れる事が出来るのですから。……もしもわたくしが同じ手紙を受け取ったら、余りの嬉しさと感激で卒倒するでしょうね」

 瞳を細め、細い人差し指で目尻をそっと拭う多恵子に、手の平で顔をゴシゴシと乱暴に拭った夏穂も同調する。

「そうね、ウチも腰が抜けるかも。宏クンってば、ここ数年で恐ろしく成長したわね。元・担任として鼻が高いわ。でも、それが女性キラーにまでなっているとは……想定外だわ」

 メイド姿の多恵子と夏穂は給仕する事も忘れ、夫となってくれた宏を誇りに思うのだった。
 一方、多恵子と夏穂のやり取りや手紙を背後で見て聞いていた飛鳥と美優樹もまた、潤ませた瞳で宏をいつまでも見つめていたのだった。


     ☆     ☆     ☆


 暫しリビングに幾人かの啜り泣く声が流れ、やがて静まった頃。

「さ、みんな。少しは落ち着いたかな? ホラ、若姉。いつまでも背中に引っ付いていると俺が涙で溺れちゃうよ?」

「うふふ♪」

「あはははっ!」

 宏が軽いジョークを飛ばして笑いを誘い、リビングにようやく元の喧騒(?)が戻って来た。
 筆頭妻の晶も、細く白い指先で瞳の涙を拭うと、ようやく笑みを零した。

「さて。ヒロの想いも充分堪能した事だし、鶴に戻して宴会を続けましょうか♪」

「あっ! 鶴を飾るディスプレイケース、人数分用意しなきゃ! 大きさは三十センチ四方で好いわよねっ? それとも開いたまま額に飾る? みんな、どうするっ!?」

「あ、いや、そこまで厳重にしなくても……」

 目元を紅(あか)く染めた晶に、涙を腕で拭った千恵が慌てて展示ケースや額縁を探そうと通販カタログを引っ張り出し、そんな千恵に宏は苦笑いする。

「こうして……鶴を折ると子供の頃を思い出すわ」

「そうだね~♪ 子供の頃は、いっつも折り紙で遊んでたけど、いつの間にかしなくなってたもんね~」

 瞳がまだ赤い真奈美が感慨深げに金色の紙を丁寧に折り戻し、すっかり元の笑顔に戻った若菜は折り上げた鶴を大事そうに翳し、瞳を細める。
 と、ここで。
 各自、すぐに折り鶴に戻せたのだが、ほのかだけが頭を抱え、涙目で雄叫び(雌叫び?)を上げた。

「そ、そう言えばオレ、鶴の折り方、知らなかったんだ! だ、誰か、助けてくれぇ!」

「……ほのか、大ボケ。いっそ、自分が首を伸ばし両腕を拡げて鶴の格好になっていれば好い。……同じ金色の髪(紙)、なんだし♪」

 優のお茶目なツっ込みが、みんなの笑いを大いに誘った。


                                            (つづく)


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