|
ライトHノベルの部屋
ライトHノベルの部屋
ライトHノベルの部屋
|
|
~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~
|
|
|
|
|
|
ラプソディー(5)
ラプソディー(5)
|
美姉妹といっしょ♪~新婚編
|
|
|
カレンダーが九月に替わり、宏が若くして失職の危機を告げられていた、丁度その頃。
「――以上が、この会社の主たる仕事よ。貴女達は今後、これらフライト業務を支える事務部門に携わってゆくの。ここまでで何か質問は? どんな些細な事でも構わないわよ? 福利厚生や社食のお薦めメニューとか」
「「……………………(フルフル)」」
晶は丸の内オフィスの一角にある応接セットに座り、首を横に振る新入社員二人を前に「あたしが飛行業務部長よ!」とばかり、凛とした態度と表情を見せながら業務内容を告げていた。
――濃紺のタイトスカートから伸びる、黒のストッキングにコーティングされた長い美脚は見る者全てを魅了し、ボン、キュッ、ボンのメリハリのあるボディラインはキャリアウーマンである事を忘れさせるには充分な迫力で見る者全てを圧倒する――。
そんな、スーパーモデル以上の我が儘ボディを今はお堅いビジネススーツにキッチリ押し込み、腰まで届く長い髪もアップに纏めているので一見すると昭和の御局様みたく見えてしまうのは……この際、嫌々目を瞑る。
(こうしないと偉くて賢い部長らしく見えない、って詩織(しおり)ちゃんが何度も念押しするんだもんなー)
自分としてはもう少し楽な格好をしたい――例えば髪を下ろして上着を脱ぎ、ブラウスのボタンを上三つ外してタイトスカートの裾から三十センチ程度までスリットを入れたい――が、周囲の目(特に副部長の詩織ちゃん)がそれを許してくれないのだ(一部女性社員と全男性社員は諸手を挙げて許すだろうが)。 ことに、今日は新人との初顔合わせなので絶対的な印象付け(インプリンティング)が必要なのだそうだ。
(あたしが権力を笠に着て人を動かすのを嫌ってるって知ってるくせに、詩織ちゃんってば何でも形から入るんだから……。そんなの、日々仕事してる内にすぐバレるのにねー)
心の中でブチブチ文句を言うが、それでも副部長の顔を立て、新人に「示し」を付ける意味でも(この点も渋々納得した)、晶は仕方無く偉ぶるしか無かったのだ。 その威光を示す相手は、テーブルを挟んだ対面で広げられた資料(業務内容の説明に社外向パンフレットを使った)を前に畏まっている。 大学を卒業した直後だけあって、汚れや皺の無い新品のリクルートスーツが目に眩しく実に初々しい。
(あたしも、こんな若かりし頃があったのよね~。初めて勤める会社の雰囲気に呑まれて顔が強張ってね~。……つい昨日の事だけど♪)
昔の自分と緊張する目の前の新人が重なり、その穏やかならぬ心中が手に取るように伝わって来る。 もっとも、この新卒二人は部長の晶と三歳しか違わない。 如何に晶がこの三年の間にリニア並み(光速以上?)のスピードで昇進したのかが判るだろう。 それだけ晶のポテンシャルが他を圧倒する程に飛び抜け、社会的にも認めさせている証明にもなるのだ。
(だから偉振るベテランって感じより、歳の近い気さくな先輩の雰囲気で接しないと一線を引かれちゃうわ)
そんな思いもあって、晶は部長職としてでは無く、先輩OLとしてフレンドリーに笑い掛けた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。何も、取って喰うとかしないから。……あ、社内にはソッチ系の女性(ひと)が何人かいたような……いないような?」
口調も柔らかく発したその言葉に、パーティションで仕切られた背後のオフィスから「なんでやねんっ!」「ナンでバレたっ!?」「……ぐへへ♪」など男女入り混じった複数の声が上がるものの(しっかり聞き耳を立てていたようだ)、目の前の新人からは丸っきり応答が無い。
「……………………」
無言でじっと見つめて来るひとりは、中京は名古屋出身の織田信子(おだのぶこ)。 背中まで真っ直ぐ垂らした黒髪を首の後ろで水色のリボンで纏めた、線が細い女の子だ。 瓜実顔で目鼻立ちが整い、黒目がちな瞳とピンク色の薄い唇が相まって日本人形的な美しさを備えている。 スーツから覗く肌がとても白く、学校の図書館に必ずひとりはいそうな(手元の資料では小中高と図書委員とある)、如何にもおとなしい文学少女、と言った印象だ。
「……………………」
そして黙ったまま視線を外さないもうひとりは、東北は仙台出身の伊達政美(だてまさみ)。 濃い栗色の髪を黄色のリボンで長めのポニーテールにした、線がしっかりした感じの女の子。 やや丸顔で目鼻立ちがハッキリとし、やや大きめの瞳とふっくらとした頬が愛らしい、今時の娘(こ)だ。 長らく運動部に属していたらしく(手元の資料では中学から大学まで女子サッカー部在籍とある)、日焼けした褐色の肌とタイトスカートから覗く締まった脚が目を惹き、如何にも健康的なアウトドア少女、と言った印象だ。 印象なのだが。
(おいおいおい、なんなんだ、この、無言の間はっ!?)
晶の背中に冷や汗がひと筋、タラ~リと流れ落ちる。 この二人、極度の緊張にある所為か、初めて顔を合わせた時から表情がずっと硬いままだ。 しかも所属長自らがにこやかな表情でジョークをかましても、眉ひとつ動かさない。
(うっわー、何だか取っ付きにくい新人ねー。お世辞言ったり愛想笑いしたりするでも無く、ニコリともしないなんて)
こめかみを引き攣らせた晶がたじろいでも、それは仕方無いだろう。 そもそも人としての受け答えが全く無く、時折、油の切れたブリキのおもちゃみたくカクカクとしか動かないのだ。 これでは相手をする方も戸惑ってしまう。
(緊張してるのかナンなのか知らないけど、まるで周囲への対応が無さ過ぎじゃない、この娘(こ)達? バイト未経験は仕方無いとしても、委員会や部活はやってたんじゃないの? 学校で先輩後輩教師達にどう接して来た? まさか、小学校からこのまんま、なんてコトは……)
二人の、社会人としてどうかと思う反応に冷や汗がタラタラからつつつ~と流れ、眉根に皺が僅かに寄る晶。 筆記試験と面接をした上で採用したのは上部組織――親会社の人事部なので二人の採用に至った判断までは知りようが無いが(手元にはエントリーシートのコピーがあるだけだ)、これでは本当に有名ブランド大学に現役で入り四年で卒業したのか疑いたくもなる。
(なんで、こーゆー、ひと癖もふた癖ものある人間をあたしに押し付けるかな? これも全て社長が悪いっ!)
晶の怒りの矛先がこの会社の人事も司る社長――この会社の親会社である外資系企業の日本支社の会長で、晶が秘書課課長時代の上司でもある――に向く。
(社長ったら、最初(はな)からあたしの部署(トコ)に配置しようと企んでたに違いないわっ! でないと、こうも手際好く人員が来る訳無いしっ!)
晶は思い出す。 それは、ほんの小一時間前――晶が出勤した直後の事だ。 社長から『今日の午前九時にルーキー二人が行くから宜しくね~♥』と、どこからどう見ても巫山戯ているとしか思えない社内メールが送られて来たのだ。
(まったく……どこの世界に『デフォルメされた可愛いクマさんが画面を所狭しと動き回るテンプレート』を業務連絡で使う上役がいるのよ! しかも吹き出しの中に文章があってハートマークまで付いて……最初、冗談かと思ったわよ!)
当然、速攻で親会社が占める上のフロアに階段三段飛ばしで駆け上がり、奥の社長席までダッシュして鼻息荒く経緯(いきさつ)を問い詰めると、見事なまでに禿げ上がった布袋様似の社長はひとしきり豪快に笑ってから堂々と曰(のたま)った。
「だって、人員が欲しいって言ったの、晶クン自身じゃないか。だから融通を利かせて配属予定日を一週間前倒しして配置してあげたんじゃよ。ま、今日まで内緒にしてたのは、ちょっとしたドッキリだ♪」
「~~~~~!!」
眼光鋭く無言の圧力でお茶目な社長を謝らせたのは、まぁ好いとして(ほんのちょっとだけ溜飲が下がった)。 そこで引き合わされた新人二人を引き連れ、このフロアに戻って現在に至る。
(オマケに、二人に会社説明する前に嬉々とした詩織ちゃんによって昭和の御局様スタイルにさせられたのには閉口したけどねー。詩織ちゃんってば、見た目は今風のキャリアウーマンだのに、思考回路が丸っきり昭和世代なんだもんなー)
今後、ニヤリと笑った後の詩織のコーディネイトは断固拒否しようと硬く心に誓う晶だった。
(それにしても、この二人から新社会人らしい熱意とか意気込みが全く感じられないし……そもそも、ちゃんと学校を真っ当に卒業したのかも怪しいわね)
意識を目の前の二人に戻し、疑いの眼(まなこ)で本人直筆のエントリーシート(のコピー)を見るも、確かに小中高大と順当に過ごしたらしく、今年で二十三歳と記されている。
(ってコトはこの二人、千恵ちゃん若菜ちゃんのいっこ下で、ヒロのいっこ上、飛鳥ちゃんの三つ上で美優樹ちゃんとは六つ上……な筈だけど、どう見てもこの二人の方が幼く見えちゃうわねー)
屋敷に集う同年代、特に現役女子大生の飛鳥と美優樹を想い浮かべると、その差異が歴然としているのが判る。 目の前の二人は社会慣れしていない所為もあるのだろうが、身に纏う雰囲気(オーラ)がまるで中学生なのだ。
(飛鳥ちゃんは見るからに元気溌剌、明朗活発な女子大生だし、美優樹ちゃんはゴスロリ衣装纏って人見知りの気(け)があるけど、それを差し引いても十七歳にして二十代前半並みに大人びて周囲との接し方も万全だし。……あぁもう! 二人の爪の垢を煎じて今すぐ飲ませてやりたいわっ)
この新人二人を見ていると、屋敷の女学生コンビは極めてまともな人間なのだと好~く判る。
(飛鳥ちゃんと美優樹ちゃんは、当時大学一年のあたしと初めて会った時はまだ中学生と小学生だったけど、きちんと挨拶し言葉も交わしてたわよ! だのにコヤツらと来たら、戦国武将みたく一丁前な名前してンのに、何、この覇気の無さはっ!? これじゃ天下は取れんぞっ!)
晶の胸に社長への恨み辛み(?)と二人への物足り無さが見る間に鬱積してゆく。 そして終(つい)には――。
『あんたら少しは返事せいっ! 二人揃って信楽のタヌキさんかっ!!』
(――な~んて、テーブルに片足載せて拳を突き付けたら、どんなにスッキリするコトか!)
流石に、身内のほのかや若菜を相手にするように感情をぶつける訳にもいかず、晶は喉まで出掛かった言葉を寸前で呑み込んでいた(ただ、膝に置いた手が中指を立てた握り拳になっていたので咄嗟に隠した)。
(それにしてもヤバかったわね。もう少しで我を忘れて叫ぶトコだったわ。ま、あたしだって、「怒る」と「叱る」の区別くらい昔から付けられるってコトよ♪ ――なんて自画自賛してる場合じゃ無いわね)
晶を好く知る者(宏や千恵、ほのか)が見たら、鬼のような形相で怒りの感情を必死に押し殺して無理矢理微笑んでいると指摘されそうだが、幸い(?)、目の前にはお地蔵さんのような新卒者が二人、いるだけだ。
(ともかく! どんな人材であれ、ここに来た以上は二人の性質を見極め使いこなすのが上司たるあたしの役目! たとえ能力がコンマゼロゼロイチでも、ゼロやマイナスよか遥かにマシだからね! 第一、清濁併せ呑むのが企業人事の最低モラル! あたしはそれ以上の事を完璧に実践してやるんだからっ!)
部下数十人を率いる長(おさ)として、そして人生で初めて新卒者を担当する晶に、沸々と闘志が湧き上がる。 社会人として揉まれる内に鬱積した様々な想いを闘志に変換させるスキルが発動したのだ。 負けず嫌いで常に人の先頭を歩きたがる晶だからこそ修得したスキルとも言えるだろう。
(あたしの下(もと)に来たからにはこのままでは困るし、何より一人前の社会人に仕上げないと気が済まないわっ! こうなったら、業務を通じて徹底的に洗脳し改造し鍛え直してやる!)
ほのかや宏が聞けば管理職としてどうよ、と苦笑いして突っ込んで来るだろうが、表情はあくまでクールで出来た管理職を装い、人となりを示すようフレンドリーに、そして穏やかを通す。 鼻息を荒げ、拳も振り上げジャンヌ・ダルク張りに気勢を上げている内心を悟られぬように。
「ま、初めて尽くしで緊張するなと言う方が無理かもね。当面は無理に仕事を覚え無くて好いわ。この先三ヶ月、年内は習うより慣れろ、よ。あたし達の仕事を色々手伝いつつ自分の適職を探り、同時に職場の雰囲気に馴染み、仕事仲間の顔と名前が一致するようにすれば好いからね♪ OK?」
「「……………………(こくこく)」」
しかし哀しいかな、この二人の新人は、目は決して逸らさないものの一向に言葉を発しない。 むしろ、首の後ろの水色リボンと跳ね上げたポニーテールを縛る黄色リボンの上下動が代弁している有様だ。
(こ、こやつら……『はい』ひとつも言えんのか! あぁ、先が思い遣られる……)
掴み所が微塵も見当たらない新人に頬を引き攣らせ、冷や汗をドバドバ垂らす晶だった――。
☆ ☆ ☆
宏が東京湾に程近い職場で失職の危機を告げられ、晶が丸の内のオフィスで新人相手に悶々としていた頃。 その東京湾を挟んで真向かいに位置する羽田空港の企業向けハンガー(格納庫)に隣接する事務所では、主任(チーフ)パイロットのほのかが隣席の副操縦士(コ・パイ)の肩に手を置き、厳かに告げていた。
「澪(みお)ちゃん。明日(あした)の板付便は全て澪ちゃんが仕切ってくれ。オレはコ・パイとして指示通りに動くから」
「えっ!? わたしが、ですか?」
「そうだ。明日はPIC(Pilot In Command――操縦責任者)役として飛んでみ♪」
「………………」
「なんで目を見開いて絶句する? 今迄、キャプテンシート(左席)でフライトした事、数え切れない位にやったじゃん」
「そ、それは片道だけです! でも、明日は機長役で往復、しかもブリーフィングからとなると……」
「何を躊躇う? これまで何度もやった様に天気図を読み解き、エアルートとダイバード先を決め、燃料計算し、最後に確認するだけじゃん。澪ちゃんにとって目新しい事でも殊更難しい事でも無いだろ? 板付だって何度も飛んで往復のエアルートやルート上の各空港マップを熟知してるんだ。それこそ、寝てても飛ばせるだろ?」
「それは……まぁ、そうですが……」
「なんだ、俯くほどに自信無いのか? それともオレがコ・パイ役だと不満か?」
煮え切らない態度を取り続ける澪を発奮させるべくニヤリと笑うも、眉を大きく八の字に下げた澪は挑発に乗って来ない。 普段の明朗闊達な澪からすると、かなり及び腰なのが判る。
「どうした? 思ってるコトちゃんと言わんと、何も伝わらんぜ?」
ほのかは、今度は優しい口調でニコリと微笑む。
――アップに纏めた金髪が灯りを反射して煌めき、澄んだ碧眼と白い肌、そして彫りの深い美顔が見る者全てを魅了する――
ほのかを知らない者が見たら、かような女神が救いの手を伸ばしたように映るだろうが、それはさておき。 何だか教師が押し黙る児童を指導するかのようなシチュエーションになっているのは――気のせいだろうか。 と、ここで澪が顔を上げ、攻勢(と呼べるのならば)に転じた……ようだ。
「あ、えっと、その……でも、どうして急にPIC役になれと? わたしがキャプテンシートで操縦するのは、コ・パイとして経験を積む為の、単に仕事の一環だと思ってましたが……」
上目遣いで質問を質問で返して来たが、この際、目を瞑る。 無反応よりずっと好いからだ。 ほのかは椅子に座ったまま少し前屈みになり、含み聞かせるよう、ゆっくりと語り出す。
「うん、今迄はそうだったけど、今度は違う。そろそろ澪ちゃんにキャプテン(機長)になる為の経験を本格的に積ませる頃合いだと思ってさ。今後は機会あるごとにPIC役として飛ばそう、って副所長と相談してたんだ。つまり、キャプテン昇格プログラムを正式に受けないか、ってコトだ」
ほのかと澪の机の背後にいる女上司が応援するかのように、澪に向かってにこやかに頷きサムズアップする。
「わたしが……キャプテンに、ですか?」
信じられないのか、瞳を大きく見開く澪。 それでも昂ぶって来ているのだろう、頬がほんのりと紅潮してゆくのが判る。
「そうだ。澪ちゃんは既にコ・パイとしての資質と経験値が完璧に備わってる。主任副操縦士として仲間を統率する人徳もある。オマケに、技量に至ってはオレと同等の、世界中どこでも通用する腕前も持ってる。だから、次の高みへステップアップする絶好のチャンスだと思うんだ」
「世界の……どこでも? 買い被りですよ。それに……スケールが大きくて何だか想像出来ません」
ここに来て、ようやくだが表情を和らげ、小さく笑う澪。
(うんうん♪ やっと笑ってくれた。人を大きく育てるには褒めるに限るよなぁ♪)
どうやって馬に水を飲ませるか――では無いが、次第にこちらの意図する方向へ向いて来た嬉しさから自画自賛するほのか。 それでも、まだ本人の口から直接、『イエス』を引き出してはいない。 キャプテンほのかは手を替え品を替え、押してダメなら引いてみろ――とばかり、徐々に本丸へと迫ってゆく。
「それとも澪ちゃんは一生、コ・パイのまま過ごすのか? キャプテンとして世界中の空を自らの意志で飛び回りたいとは思わんのか?」
「それは……その……そうは思いますけど……」
眉を下げ困ったように言い淀む澪だが瞳は煌めいているので、多少なりともキャプテンと言う立場に魅せられているのは確かなようだ。
(ふむ、どうやら四本線――肩と袖にある金色の線で機長の証しだ――になる事を嫌ってはいないようだ。澪ちゃんはキャプテンと呼ばれて満更じゃない、と)
常にコンビで飛んでいる後輩の好感触に微笑み、先輩パイロットとして優しい目で見つめる。
「けど……なんだ? 思ってる事、全部言っちまいな。オレが全部受け止めるから♪」
寛大なキャプテンらしく両腕を広げニコリと笑うと、目の前の後輩は決心したように小さく頷いた。
「えっとですね。まだ責任パイロットとしての心の準備が全く無くて。それにわたし……」
澪は言葉を句切ると、極僅か目を逸らせてから再びほのかの碧眼を真っ直ぐに捉えた。
「今はほのかさんと一緒にフライトするのが楽しいんです。ほのかさんの隣で紺碧の大空を駆け回るのが嬉しいんです。この先数年はほのかさんのコ・パイとして一緒に飛び続けたいな、って思ってたんです。だから、いきなりキャプテンに、って言われて、正直、戸惑っちゃって」
小さく笑った澪の顔がここで少し俯き、声のトーンも下がる。
「それに……わたしがキャプテンになるって事は、わたしがほのかさんの元から独立し、他のコ・パイさんと組んで飛ぶって事になる訳で、そんなの、想像付かなくて。……あ! だからって他のコ・パイさんが嫌だとか不満だとかって意味じゃ決して無くて! 単に、わたし自身の、ほのかさんと離れたくないって我が儘な気持ちなんです」
一気呵成に語る真摯で熱い瞳に、ほのかは胸の奥が急激に燃え上がったかのように熱くなり、同時に涙腺が少し、緩んでしまった。
「嬉しいコト、言ってくれるねぇ♪ だけど、いちパイロットとしてフライトプラン作成から帰着後のフライトロゴの記入や報告書作成迄、全て自分ひとりでこなせる技量と判断力を備える事も必要だ、ってコトは、判るよな?」
「……はい。キャプテンに何かあった場合、コ・パイのわたしが全てこなさねばなりませんから」
ここで責任の重さ・重大さを痛感しているのだろう、再び澪の表情が硬くなり、視線を下げた。 ほのかはその隙に碧眼に滲んだ雫を両手で素早く拭い、ひと息吐(つ)いてから軽い調子で言葉を続ける。
「な~に、今迄だって同じ事、してるじゃん♪ 普段通りにすれば好いだけだ。それに誰だって『初めて』はあるんだ。生まれついての『ベテラン』とか『プロフェッショナル』など、オレを含めてこの世に誰も存在しない」
そうだろ? と微笑むと、視線を戻した澪もぎこちなくだが大きく頷く。
「だから緊張したり恐れたり、時に間違った判断下すのは恥ずかしい事じゃ無いぜ。むしろ、そうやって様々な場面で色々な経験を積み重ねて行くのが正解なんだ。そして、それらエラーをカバーする為に教官のオレがいるんだからな♪」
安心させるよう胸を張ると、背後から「自信満々ねぇ」とクスクス笑う声が漏れ聞こえて来るが、今は無視する。
「それにオレだって、『初めて』の時は緊張してビビッたし、ナニをどうして好いか判らんかったし心臓がバクバクして我を忘れる程にテンパってたぜ」
いつも自信満々の機長が言う台詞とは思えなかったのか、意外そうな顔をした澪が「そうなんですか?」とばかり、目を丸くした。 ほのかは頷きつつ、ニンマリと笑う。
「でも、今では立派に宏の妻として濃密な夜を過ごしてるぜ? なんたってまだまだ新婚ホヤホヤだし、今ではナニをどうすれば宏を満足させられるのか余裕で判るまでになったしな♥」
と、鼻に掛かった甘い声で意図的に話を少し(かなり?)、ずらした。 当然、食い入るように聞き入っていた澪の眉根に見る間に皺が寄り始めた。
「はい? ナニを言って――って、そっちの『初めて』じゃありませんっ! な゛、何、ご自分の初エッチをこんなトコで暴露してるんですか! わたしは真面目に――」
「いや~、澪ちゃんが余りに引き攣って強張った顔してたから、ちっとばかし緊張を和らげようと恥を忍んでだな――」
ほのかの言う『初めて』がナニを指すのか悟ったらしく顔を真っ赤に染め躍起になる澪と、のらりくらりと突っ込みを躱すほのか。 背後で見守っていた副所長はシリアス&感動話からの急転直下に動きを止めたままポカンとし、事務所に集う面々は美貌の機長の赤裸々なこぼれ話(?)に顔を赤らめたり(全女性陣だ)前屈みになったり(全男性陣だ)して慌てふためいている。 しかし、常日頃からコンビで操縦(フライト)しているお陰か、澪は屈する事無く果敢に突っ込みをかまして来た。
「し、知りません! そーゆーエロい話は家に帰ってからダンナさんに言って下さい!」
「いや~、澪ちゃんが『初めて』の意味をどう捉えるか見て見たかったんだが、すぐ判ったから大したモンだ♪」
「あ、あんなの、誰だってすぐに判りますって! まったくもう……ほのかさんってば、すぐにエッチぃ方向へ話を向けたがるんですから……そーゆーのは会社(ここ)じゃ無く、ご自宅で言って下さい! 少なくとも人前で言う台詞じゃありませんよ、もう……っ」
視線を外し心なしか頬を赤らめ口籠もるのは――内容が内容なだけに年頃の女性では口にしづらい所為だろう。
「あははははっ! やっと、いつもの澪ちゃんに戻ったな。どんな状況であれ、その頭の回転の早さとキレの好さこそが澪ちゃんの澪ちゃんたる所以なんだ。特にそれはフライト中に危機的状況に陥った時に、絶対的な強みになるんだ。だからPIC役になっても、その調子で飛ばし続ければ機長昇進なんてあっという間だぜ♪」
「あ……」
ここで初めて、澪は自分が素の状態に戻っていると知らされたのだった。
「それにな。澪ちゃんはひとつ、思い違いをしてる」
「はい? 思い違い……ですか?」
「そうだ。澪ちゃんは、自分がキャプテンになったらオレとはもう飛べない――そう思ってるようだが?」
その通り、何を今更、と訝かしむ澪に、ほのかは勿体付けるようにひと呼吸置くと力一杯、ニヤリと笑ってから軽い調子で曰(のたま)った。
「澪ちゃんはすっかり忘れてるようだが、航空業界には『ダブルキャプテン』なる言葉があるんだな~♪」
「あっ!!」
機長昇格話よりもこっちの方が余程、青天の霹靂だったのだろう、澪はこれ以上無い位に目を見開き、口も拳が入るのではないかと思う位、あんぐり開けて固まっている(携帯電話で写真を撮っておけば好かったと後々後悔した)。
「判ったようだな。そうだ。『機長の資格を持った二人以上が乗務』する事をダブルキャプテンと言うだろ? だから澪ちゃんがキャプテンに昇格したからと言って、直ちにオレ達が別々で飛ぶ事は無いってコトだ♪ コ・パイ同士ではワンインチ(約三センチ)すら飛べないが、キャプテン同士なら今迄同様、世界中どこへだって飛んで行けるんだぜ♪」
ここでひと息吐(つ)いたほのかは、澪の黒曜石のような澄んだ瞳をじっと見つめてから言い切った。
「それにな。オレの相棒は澪ちゃんだ。キャプテン澪になっても、オレとのコンビは不滅だぜ♪ オレが、シップ(飛行機)を降りない限りはな」
パイロットを引退するまで一緒なのだ、と安心させるよう自分の気持ちを伝え、ガハハと豪快に笑っていると、フリーズの解けた澪から大きな溜息が漏れた。
「ふぅ~~~~。やはり、ほのかさんには全然敵いません。流石、腐ってもキャプテンです。物の考え方や人への接し方など、わたしには到底及ばない、まだまだずっと高みにある女性(ひと)です。だから一緒にフライトするのが楽しいし、勉強にもなるんです♪」
澪の今日一番の満面の笑みに、ほのかの気分も鰻登りの急上昇――。
「ムフフ♪ おだてたってナニも出ないぜ――って、誰が腐ってるってぇ!?」
――する前に、聞き捨てならぬ台詞とキャプテンを敬わないコ・パイには必ず突っ込んでおくほのかだったが……。
「地上にいる時の思考回路がまるで腐女子です。しかも、ご結婚されてから日増しにエッチぃ度合いが進んでます。さっきだってそうですし」
半目で睨まれてしまい、しかも心当たりがおおいにあるだけに(先程の『初めて』談義とか)、たちまち気勢が削がれてしまった。
「オイオイ……、エッチぃ度合い――って、何で『腐女子』って言葉、知ってんだ? もしかして澪ちゃんも――」
「な、内緒ですっ!」
口を押さえ慌てて言い繕う澪に、エッチぃアンテナが即座に反応し(前髪は立たなかったが)、ニンマリ笑うほのか。 何しろ、屋敷には「その手」に精通した面々がチラホラ、いるのだから。
「あはははっ! ま、オレは個人の趣味にまで首を突っ込まないから。それがたとえ、どんな趣味でも、な♪」
「だ、だから違いますってっ! ニヤニヤするほのかさんのその半開きの目、ぜ~~~ったい、誤解してます! わたしは言葉として知ってるだけで、決して、晶さんネコ、ほのかさんタチに萌え~♪ とか考えてませんからっ!」
「……考えてんじゃん。それに、フツーの人ならネコ、タチ、なんて言葉使わんし、そもそも知らないぜ?」
「あ゛」
誰がどう見ても不審に思う程に狼狽え、挙げ句に絶句し固まった澪の完敗となった。
(何たって家(うち)にはレディコミ愛読者、一杯いるからな。特に飛鳥ちゃんとか多恵子さん、とかな)
ミニスカ&黒のオーバーニーソックス姿で毎日元気好く登校するツインテール娘と屋敷の胃袋を預かる小さなお母さん(?)の顔がポワンと頭に浮かぶほのかだった。 その一方で。
「は、初めて? 濃密な夜ぅ!? あ……貴女達は……会社でナニを大声で……」
背後から副所長のナニやら怨念めいた呟きがず~っと聞こえ続けているが、ほのかは知らん振りして話を戻す。 この女上司は三十六歳の独身だけあって(だからこそ?)、エッチぃ話に過剰反応するのだ。
「で? どうする? 澪ちゃんはキャプテン昇格プログラム、受けるかい? それとも一生、コ・パイを通すかい? 選ぶのは澪ちゃんだ。オレ達は澪ちゃんの下した結論に異議は出さないし、会社からのペナルティも下さない。だから澪ちゃんが思うまま自由に決めると好い。今、結論出せないなら、じっくり考えてからでも好いぞ?」
最後の一押しとばかり、ほのかは澪に向かって柔らかな笑みを向けた。
(ここは、澪ちゃん自らの意志で立ち上がって貰わないとな。他から強要され渋々任に就く、と言う形だけは絶対に採らせてはいけないからな)
すると、ほのかの熱い想いが通じたのか、それとも腐女子がバレて自棄に(?)なったのか、澪はすっかり開き直って高らかに宣言した。
「あぁもう! 判りました。判りましたよ! お受け致します! 受ければ好いんですよね、受けてやりますよ! 受けてやろうじゃありませんかっ!」
「……なんで偉そうに言う?」
「――って、ほのかさんが言うよう仕向けたんじゃありませんかっ! ええ、やってやりますともっ! こうなったら、世界でナンバーワンの腕前を持つビジネスジェットのキャプテンになってみせますっ!」
完全に我を忘れ、鼻息荒く拳を振り上げ咆える澪。 この時、事務所中から「お~~」と言う感嘆の声とパチパチパチと拍手の渦が沸き起こったが、それはさておき。
「オレが仕向けたんじゃ無いけど……でもまぁ、言質取ったぞ♪ これで澪ちゃんは晴れてキャプテン候補生だ!」
「ハイッ! よろしくご指導願いますっ!」
思惑通りにコトが運んでホクホク顔のほのかがニコリ(ニヤリ?)と頷き、晴々とした表情の澪がペコリと頭を下げると、待ってましたとばかり背後から声が掛かった。
「さて! 話は無事着いたようだし、早速、教官パイロットには大事なお仕事、して貰いましょうか♪」
ついさっきまで「エッチぃ度合い? どうやって計る!? 猫達って何?」とブツブツ言いながら頭を抱えていた副所長が、ほのかに向かって招き猫みたく左手で手招きする。
「ん? 仕事?」
怪訝そうに席を立ち、副所長の前に進み出るほのかに、アルカイックスマイルで迎える女上司。 しかし、その見覚えのあるニコ目を見た瞬間、ほのかは反射的に二の足を踏むが――時、既に遅し。 何しろ、ほのかの机から副所長の机まで徒歩二歩分の距離しか無いのだから。
「ハイ、これ。明日積むミールの確認、頼むわね♪ 返却するカートは整備(メンテ)の面々が車に積んでくれたわ。好かったわね~、重くて嵩張るカート、自ら積まずに済んで♪ 何たって、今日は二機分八カート、あるからね~」
重みのある分厚いバインダーを目の前にずいっ、と出されたから、つい、反射的に受け取ってもしまった。
「え~~~~~っ! ま、またオレが行くのかよ~。しかも八台だってぇ!? 総重量四百キロじゃん。しかも降ろす時はオレが降ろすんだけど……って、これこそメンテの連中にやらせるか運転だけ総務のお姉さん達に――」
「ごめんねー。今月一杯はどちらも無理! メンテ組は先週までのハードフライトの後始末中だし」
最後まで言わせないとばかり、キッパリ言われてしまった。
「あ゛。……そうだった。二機とも三週近くフル稼働させたから、明日のフライトを除いて今週一杯は点検整備中なんだった」
言葉を詰まらせたほのかが、それではと総務係の集うデスク島(机が二列三人向かい合わせになっている)を見ると……。
「うっわー、相変わらず額に汗浮かべて殺気立ってんな。……ん? チョッと待て。締めは確か……先週で終わったんじゃ無かったのか?」
「今度は通常の月締めよ。先週迄は上半期。今週からは今月の数字に追われてるのよ」
「オイオイ……。ここ七週間、ずっとあの調子じゃんか。残業も連日二時間近くしてるし、身体、壊すぞ? で、こっちに新人(助っ人)はまだ来ないのか? 晶に言ってあるんだろ?」
指サックを嵌めた白く細い指が伝票の束を物凄い速さで捲りソロバンやら電卓を目にも留まらぬ高速で弾く六人のお姉さんに、同情を禁じ得ないほのか。 同じ女として、いつ逢い引きしてるんだろう、などと要らぬお節介を思い描いてしまう。
「彼女達には来月になったら交代で連続十四日間の有給を別枠で与えてあるから大丈夫よ。人員補強に関しても連日、晶さんに言ってはあるわ。そりゃ、私だって同僚の不遇をいつまでも見て見ぬ振りは出来無いもの」
「なら、何とか休めそうだな。好かった好かった♪」
心底、安堵の息を吐(つ)くほのか。 総務の仕事場は地上、自分達パイロットは空の上とまるで違うが、同じ職場仲間として思い遣る心は健在なのだ。 そんなキャプテンの声と心意気が届いたのか、にこやかに手を振り感謝を伝える総務のお姉さん達だった。
「ま、これはこれとして、助っ人だが晶のトコに新卒二人、今朝入ったって聞いたぞ?」
ほのかの眇められた切れ長の瞳――どういう事だ?――が副所長を捉えると、十歳上の副所長はまるで動じる事無く、むしろ目を丸くした。
「あら、耳が早いわね。その通りよ。何でも、人事部イチ押しの二人で社長のお墨付き、なんだって。で、その社長が配属日を前倒しして晶さんのトコに就かせたそうよ」
「ちっ! 晶のヤツ~~~、コネ使って自分のチームに優良物件、引き抜きやがったな~~~っ」
舌打ちし握り拳をプルプル震わせるほのかのおどろおどろしい声が事務所に響くが、副所長が宥めるように言う。
「それがね、そうでも無いみたいよ。晶さんは新卒二人が入る事、今朝まで全く知らなかったそうよ。なんでも、社長恒例のドッキリで今朝まで内緒だったんだって。だから、そうカッカしなさんな。晶さんもある意味、被害者よ」
「あ、あの布袋様……か。そりゃ晶も災難だったなぁ、ご愁傷様――なのか? けどまぁ、アレでよく会長とか社長、務まるよなぁ。現代日本の七不思議だぜ。下にいる者にとっては、とんでもねぇ疫病神じゃね?」
経緯(いきさつ)を知ったほのかは髪が乱れるのも構わず頭をボリボリ掻きつつ脱力し、晶にちょっとだけ同情すると共に社長のバイタリティに思いっ切り苦笑いしてしまった。 副所長も同意見なのか、強くは否定して来ない。
「あ……あはは……。自分トコの社長掴まえてその言い方はどうかと思うけど。でもまぁ、ドッキリ仕掛けられた晶さんは戸惑ってるかもしれないけど、人員補充と言う点では向こうも人手不足でピーピー言ってたから渡りに船ね。社長も、先ずは地盤固めから――って感じで配置したんじゃないかしら?」
「そう言われると反論のしようも無いが……それでも、他に何人か新人採ったんだろ? だったら人員不足の現場(こっち)に一人でも回すのが筋じゃねぇのか?」
「ほのかちゃんのお怒りはごもっとも、なんだけどねぇ。でも知っての通り、ウチの会社は共同出資先が四つもあるから、それぞれ親会社の人事がある程度絡んで一筋縄ではいかないみたいなのよ。だから、いくら現場で怒ったり愚痴ったり声高に要求しても、なかなか……ね」
申し訳無さそうに眉を下げる副所長に、ほのかは小さな溜息を吐(つ)く。
「有能な新人の奪い合いになってる、ってか。そーゆートコは融通が利かないんだな、日本の企業は。ま、所詮、外資系企業と言えど、中身は私利私欲に走るコテコテのジャパニーズ、ってコトか。いっそ、プロ野球のドラフトみたく本人の希望をガン無視してクジで配置先、決めちまえば?」
揶揄するほのかの碧眼がチラリと事務所奥で陣取る大黒様似の所長に向く。 ここ羽田にいる大黒様は、丸の内に詰める布袋様と同期の間柄なのだ。
「そ、そんなジト目で見られても……ワシは聞いとらんぞ! 社長(アヤツ)からここに新人が来る話など聞いとらんぞ! それにワシからも連日、人員補強を訴えておるんじゃ! だからそんな冷たい目で見ないでくれぇ!」
「ま、好いけどさ。でも、本気(マジ)で人的増強、考えないと後々響くぜ? 『国家百年の計、企業十年の計』って言うじゃん。優秀な人材を見つけ、安定確保し、次世代に繋げるようノウハウを持った人間として大切に育て上げるのも企業の重大な責任だぜ? でないと、ゆくゆくの利益と繁栄に繋がらないし、企業や産業そのものが先細りしてく一方だからな」
「判ってるわよ、その位は。実際、幾つもの一部上場の大手企業が慢心していつの間にか外資や同業者に吸収され(乗っ取られ)たりCEOに適任者がいなくて自滅消滅したりしてるもの。判ってはいるんだけど……ねぇ」
諦めたように肩を竦める副所長と机に額を押し付けんばかりに平伏し頭上で両手を合わせる所長に、ほのかも思わず笑ってしまう。
「だったら、ウチらだけの権限で人員募集、掛けたら好いじゃん。『国籍、年齢、性別、学歴、各不問。求む即戦力! 来たれ地球人! 高給待遇! 委細面談♪』って、会社のホームページにアップしたり新聞の折り込みチラシ作ったりして広く周知したらどうだ? 案外、磨けば光る宝石、その辺に転がってたり埋まってたりするかもよ?」
「あ、あのね~、いかがわしいお店の募集じゃ無いんだから――」
「ま、今は無いモノねだりしても仕方無いか。んじゃ、ちょっくら行って来るわ。澪ちゃん、明日の準備、宜しく♪ 昼メシまでには帰って来るわ」
募集文句に思いっ切り脱力したらしく、上司から突っ込まれる前に素早く身を翻したほのかは、澪に顔を向けつつ車が停めてあるハンガーへ足早に向かう。
「へ? あ、は、はい! 了解しました。いってらっしゃい!」
上司同士の漫談(?)を食い入るように魅入っていたらしく、澪は慌てて返答した。
「さて、空港の反対側まで気ままなドライブしますかねぇ。そんで試作品のミール、また食わせて貰おうっと。運が好けりゃファーストクラスのミール、テイスター(味見役)としてありつけるからな♪」
文字通り、ミールカート返却に味を占めつつあるほのかは、澪をキャプテンにするべく教官パイロットとして日々を過ごす事となった――。
☆ ☆ ☆
宏がバイト先から自由契約を喰らい、晶が新人二人に苦心惨憺し、ほのかがファーストクラス用メインディッシュの試作品――仔牛のフィレステーキ~フォアグラ添え――を自分だけ味わって職場の面々から総スカンを喰らっていた頃。
「え~~っと、次はトラックの連中か」
首から下げたストップウォッチ二つを豪快に左右に揺らしつつ、グランドを小走りで移動する夏穂。 最近は夕方になると涼しい風が吹くので長袖長ズボンのジャージを纏っているが、今は暑くて堪らない。 腕捲りをしているものの片手に記録用のバインダーを持っている事も手伝って次第に息が荒く乱れ、太腿も上がらなくなって来る。
「まったく、ウチが想定した順番なんて、あって無いような状態になってるし! あっちこっちで引っ張りだこになって……ホント、人気者は辛いわ♪」
夏穂は当初、部活開始直後は十人近い新入生部員に陸上のイロハ(基本フォームや用語など)を教え、次にフィールド競技(ロングジャンプとハイジャンプだ)の部員達を指導し、最後にトラック競技(短距離と中距離だ)の部員達の相手をしようと考えていた。 しかし。
「夏穂センセ~、ちょっと教えて~♪」
「夏穂先生、コーナーリングの走りについてお尋ねしたいのですが?」
「あ、あの、基本フォームで判らない点があるのですが……」
従来の三年生は最後の大会を控えた所為か真剣に手を振り、二年生部員はそんな上級生の邪魔にならぬよう顧問に教えを請い、新入生も真摯に取り組んでくれている――。 そんな生徒達から常に声を掛けられ縋るような瞳で頼りにされれば、当初考えた順番が無意味となるのは必至だった。 現に、
「夏穂先生、四百メートルのタイム計測で人手が足りないので至急手伝って下さい!」
との要請を受け、ロングジャンプの指導を一時中断し(要所のみ教えてあとは自分達で考えさせた)、グランドの反対側にあるスタート地点へ向かっている最中だった。 見ると、既にマネージャー二人と部員十数人がウォーミングアップしつつ顧問の到着を今か今かと待っている。
「あ~~~、ホント、もうひとりウチが欲しいわ! これじゃ教え方も半端になっちゃう!」
夏穂は夏休み直前に顧問に就任してから、四十数名いる部員達の指導に猫の手も借りたい程、忙殺されていた。 何しろ、教える生徒達は高校に入ってから陸上を始めた素人ばかりなので、上級生と言えど、下級生に教える技術までは持ち合わせていなかった。 結果、顧問である夏穂に全て皺寄せが来る形になってしまうのだ。
(こりゃ、陸上経験豊富な宏クンにコーチ、本気(マジ)でやって欲しいわっ! こ、このままじゃ、ウチが持たなくなっちゃう!)
生徒達から呼ばれる度に、一周四百メートルの八レーントラック(しかも全天候タイプで障害レース用の堀まである)が優に納まるグランドを小走り(本人は全力疾走)で向かうので、その度に身体が悲鳴を上げるのだ。 夏穂は胸を揺らし(八十四センチのDカップが重たそうに上下している)、ゼイゼイと荒い呼吸のままスタート地点で待っていた生徒達の元へ(やっと!)辿り着いた。
「夏穂先生、おそ~い! 待ちくたびれちゃいましたよ~」
「し、仕方無いでしょ! ぐ、グランドの……端から端まで……だ、ダッシュする、ウチの身にもなってよね!」
両膝に手を付き、息は切れ切れ、心臓はバクバク、脚もガクガク、滴り落ちる大量の汗がダラダラ――そんな情け無い姿のまま不平不満をぶちまける夏穂。 首の後ろで纏めたセミロングの髪は所々ほつれ、大汗掻いていつまでも荒い息を吐(つ)く姿は、とても陸上部顧問には見えない。
「夏穂センセ、相変わらず豪快にオッパイ揺らしまくってたわね~♪ あたしらと違ってジャージごとブルンブルン上下に揺れてるの遠目からでも判るんだモン。そんなお宝、一度で好いから思いっきし揉んでみてぇ~♪」
「ちっ! 胸なんてただの脂肪の塊だぁ! 凹んじまえ~萎んじまえ~」
もはや息が完全に切れ、生徒の羨む視線と一部の呪詛(?)に反応出来無い程にへばってしまった。
「夏穂先生、完全に運動不足ですって。せめて毎日、私達と一緒にアップとストレッチすれば、かなり違いますよ?」
見かねた心優しい部員数人がタオルを渡しつつ慰めるように言えば、ませた生徒も多数いる訳で。
「夏穂センセ、新婚生活に忙しくて運動どころじゃ無いのかもしれませんね~。あっ♪ ひょっとして『夜の運動』――」
生徒達は半年前に夏穂の左手薬指にプラチナリングが嵌められたのを漏れ無く知っているので殊更、ニコニコ、ニヤニヤしているのだ。
「う、う、五月蠅い! こ、高校生らしからぬコト言ってないで、さ、さっさとタイム、計るわよっ!」
最後まで言わせず、夏穂は赤ら顔を誤魔化すように(でも内心は新婚と言われヘニャリと相好を崩した)、手にしたタオルを振り回す。
(まったくもう! 夜の運動なんて、見た目以上にハードなんだから! 特に宏クンの上に跨った場合はウェスト細くなってイイけど……って、イカンイカン! 今はそんなエロっぽいコト、考えてる場合じゃ無かった)
つい、頭の中がピンク色に染まり掛けたがこれでも教師の端くれ、何とか目の前の生徒に集中する。
「それじゃ、四百のスプリント、三組に分けて四人ずつ計るわよ! 一番遅いタイムを出した組は四百のサーキット、ワンセットやって貰うからね!」
するとたちまち、「え~~~っ!」とか「権力者の横暴だぁ!」などブー垂れる声が上がるが、そこは長年教師を務めた経験で、一瞬で文句を封じ込める。
「但し、ビリ組の中の最も速いタイムがトップ組のビリより速かったら免除してア・ゲ・ル♪」
こうして、生徒達の活気ある雄叫びが日々放課後のグランドに木霊してゆくのだった――。
☆ ☆ ☆
宏達社会人組がそれぞれ未曾有の危機や新たな展開に直面し奮闘していた頃。
「ふぅ~~~、ようやく完成したわ」
女子大工学部の研究棟にあるとある一室では、縦横が二メートル近い大きさの机に向かって黒のゴスロリドレスを纏った長身の美少女が安堵の息を吐(つ)いていた。
「これまで培った知識の集大成! とまでは自惚れて無いけど、まずは上出来ね。あとはこれを加藤教授と柳田教授、木村准教授に見せて――」
机の横幅一杯に広げた一枚の紙面を前に、栗色の長い髪をツインテールに結った美少女は満足気に微笑んだ――。
(つづく)
 ↑↑ 「面白かった♪・良かった♪・エロかった♥」と思われた方はクリックをお願いします♪ (ランキングサイトに投票され、作者が悦びます♪)
|
|
|
|
|
|
|
|
|
ラプソディー(6)
ラプソディー(6)
|
美姉妹といっしょ♪~新婚編
|
|
|
カレンダーの日付が十月に迫り、宏達を取り巻く環境が徐々に変わり始めた水曜日の夜。
「それじゃ、今日はお先に失礼するね。みんな、おやすみ」
リビングに集う面々に片手を挙げてそうひと声掛けると、宏は早々に二階の自室へ引き上げた。 その軽やかな足取りは普段と変わらないようにも映るが、後に残された十人の妻達は一斉に顔を見合わせた――。
☆ ☆ ☆
「ふぅ。何だか逃げるような形になっちゃったけど、大丈夫だよな? 今夜はひとりで寝るって夕食の時に言っておいたし、今もみんな楽しそうに談笑してたから俺ひとり抜けても大差無いだろうし」
大人五人は余裕で寝られる特大ベッドの端にストンと腰を下ろし、ひと息吐(つ)く宏。 リビングに残して来た十人の奥さん達の様子が気になるものの、今は心に重くのし掛かる現実問題に夜の営みどころでは無いのも確かだ。
「昨日、一昨日とガンバってみたけど、今日は流石に……ねぇ。さて。念の為、今夜も検索してみるか」
独りごちた宏は机に向かうとパソコンを立ち上げ、移転先倉庫のある行政のホームページと地図サイトを呼び出す。
「う~ん、何度見ても同じかぁ。コミュニティバスは倉庫とは程遠いルート通って使いようが無いし、駅から倉庫までの近道も見当たら無いから徒歩三十分が確定……か。こりゃ、通勤に関しては八方塞がりだな」
椅子の背もたれに大きく寄り掛かり、肩を落とす宏。 二駅隣にあるバイト先の倉庫が吸収合併(M&A)で消滅が決まり、統合先の倉庫が埼玉の内陸部にある為にその通勤ルートを一昨日から模索していたのだが、完全に行き詰まってしまった。
「片道三時間、か。倉庫に八時半過ぎに着くにはここを朝の五時半迄には出ないとダメ、帰りも十七時の定時に上がっても屋敷に着くのは二十時前後、二時間残業すれば二十二時……か。こりゃ、完全に『痛勤』だな。今迄の片道三十分とは雲泥の差だ」
今更ながらに、ニュースや新聞で時々目にしたM&Aと痛勤が自身の身に降り掛かった事を実感する宏。
「そんで、やっとこさ帰って風呂入ってメシ食うと、あっという間に二十二時とか二十四時を過ぎちまうもんなー。こりゃ、いよいよ諦めるしかないかなぁ」
職場の移転が決定した直後からバイトを続ける意志と辞めざるを得ない気持ちが拮抗していたが、どうシミュレートしても『痛勤』が確定された以上、心の中の天秤が辞める側に大きく傾いてゆく。 宏は椅子に深く寄り掛かったまま頭を上向け、指折り数え始める。
「二十三時に寝ても起きるのは五時前だから睡眠時間は最大六時間程度、残業した夜は四時間半あるか無いか、か。朝メシや弁当作ってくれる千恵姉達はいったい何時起きになるんだ? 四時前……ん? 待てよ?」
主婦組の負担に心を痛めていると、ここでハタと気付いた。
「これって、エッチ無しの場合だよな? ってコトは、いつもみたくエッチに二時間以上掛けたらお互いの睡眠時間は……主婦組は三~四時間程度!? 俺は俺で昼間はハードな肉体労働して夜は三~四人相手に精力振り絞る……のか!?」
主婦組と自分の置かれた通勤事情に『性活』環境を加えて想像した瞬間、背中に冷や汗がドバドバ流れ落ちた。
「そんな状態が続いたら身が持たんわっ! 疲労困ぱいで仕事どころか、ナニすら勃たなくなっちまう! 睡眠時間は最低でも六時間は確保しないと! でもそうすると奥さんとのエッチが疎かになっちまうし、だからと言ってエッチすると睡眠時間が削られ、いずれは……」
若くしてEDに陥り、性力の有り余る十人の奥方から白い目で責められる自分の哀れな姿がリアルに浮かぶ。
「だったら、『疲れマラ』利用して風呂入ってる時やメシ食ってる最中とか、寝るまでの間に誰かしらとずっとエッチしてれば――って、んなコト出来る訳無いしっ!」
盛りの付いた猫じゃあるまいし、連日連夜、帰宅早々、美人妻達を手当たり次第抱くなど無節操も甚だしいし、第一、痛勤だけで一日のエネルギーの大半を消費しているのに、いくらナイスボディ揃いの奥さんが相手と言えど、そこまでスル気力など残ってはいないだろう。
「このまま埼玉の倉庫に通ったら、みんなとのスキンシップがまるで取れなくなっちまう! オマケに主婦組にも相当な負担を掛けちまうっ! これじゃ、夫として失格だし結婚した意味すら無くなっちまう。……いや、失格どころか社畜扱いされて、みんなに会わせる顔が無いや」
宏の脳裏に、家庭を顧みない社畜――会社の家畜――となって仕事に明け暮れ、家族や周囲からは人間失格の烙印を押され、果てはその会社から使い捨てにされ行き所すら無くなる現代サラリーマンの哀れな――しかし自業自得な姿が自分に重なってしまった。
「やっぱ何度どう考えても、今のバイトは辞めざるを得ないな。いくら何でも通勤に時間が掛かり過ぎだ。職は失っても平気だけど、大事な奥さん達をひとりとして失う訳には絶対にいかないからな」
宏は十人の妻達ひとりひとりの笑顔を思い出してゆく。
「負担を掛けた上にスキンシップが減って、みんなを悲しませたり泣かせたりする訳には絶対にいかんもんな。よし! バイトは辞める事に決定! ふぅ~、何だか辞める辞めないで悶々としてたのがバカみたいだ。こんなんだったら、さっさと決めれば好かったかも。……でもなぁ」
自分で考え自分で決断したので少しは気が晴れたが、依然として幾つか問題が残されている。
「みんなには俺が自由契約になったとは言いづらいなぁ。ご当主が無職だなんて格好付かんし……倉庫が完全に閉鎖される迄に次のバイト先、決めないと拙いなぁ。それも早急に」
男として、そして主(あるじ)としてのプライドも多少は持ち合わせているので、堂々と失職を触れ回りたくは無い。 第一、奥さん達に打ち明けたは好いが、事ある毎に腫れ物に触れられるような扱いをされてしまうと歳上が大多数を占めるだけに、余計に肩身が狭く惨めに感じてしまうだろう。
「だけど、いくら首都圏にいるからって早々に次のバイト先が見つかるとも思えないし……やっぱ、辞めるのを止めようかなぁ。次のバイト先が見つからんうちに辞めたら完全にヒモ状態になっちまうし、ここは片道三時間掛けても仕事続けた方が好いのかなぁ。あるいは次のバイト先が見つかるまで痛勤を続けるか? でもそうすると主婦組の朝の負担やエッチの時間……がなぁ。あー、こりゃ堂々巡りだ。……ん?」
そんな、まだまだ先の見通せない五里霧中状態にも拘わらず、股間のイチモツがジャージのズボンを突き破らんばかりに大きく膨らんでいた。
「お主も現金よのぅ。今夜は休姦日なのにビンビンに勃ってるし。ま、進退の結論は先送りにするとして、今夜はゆっくり眠って明日の一戦に備えるか。どのみち明日のエッチ無しは許してくれないだろうし、そうなると今夜の分のおねだりを当然されるんだろうし」
いきり勃つ節操の無い愚息に思いっ切り苦笑いを浮かべつつ、宏は寝る前にもうひと仕事とばかり、一昨日から密かにブックマークしておいた幾つもの求人サイトの新着情報をチェックし始めた。
☆ ☆ ☆
ここで時間は少し遡る。
「ねぇ、みんな~。今週に入ってから宏ちゃんの様子がおかしいと思わない~? 明らかにエッチ濃度が下がってるし、今夜は誰ともエッチ無しだなんて……どうしちゃったのかなぁ~。このままじゃ私が欲求不満になっちゃうよ~」
宏がそそくさと自室へ引き上げた直後。 ダイニングテーブルの端に座って夫の去り行く後ろ姿をじ~~~っと横目で追っていた若菜が開口一番、思案気に一同を見回した。 普段は笑顔を絶やさない若菜だが、どうやら幼馴染であり夫でもある宏の変わり様に心を痛めているらしい。 その証拠に眉根は大きく寄り、切れ長の瞳は哀しそうに濡れてリビングの灯りを淡く光らせている。 すると、対面に座っていた若菜の双子の姉である千恵も大きく頷いた。
「オマエの欲求はどーでも好い! でも、宏の様子が変なのは確かね。何となく笑顔がぎこちないし、今日お風呂で背中を流している時も生返事ばかりで心ここに在らずだったし。……もしかして、何か心配事でもあるのかしら?」
妹同様に憂い顔で二階を見上げると、腰まで届くポニーテールがホットパンツに包まれた尻を撫で、そのまま動かなくなる。 こちらも、夫の変化に戸惑っているようだ。 そんな双子姉妹の指摘に、人数分のお茶を淹れ直していた多恵子も小さく頷くと表情を曇らせた。
「わたくしも二日前の帰宅直後からそう感じてましたわ。ですから、昨夜の睦事(むつみごと)では宏さんに悦んで貰おうと夏穂ちゃんを椅子に縛り付けておいたのですが……意に叶いませんでしたわ」
「い、椅子に縛って……って、いったいどんなプレイを――」
「こらこら。今はソコに喰い付く場合じゃねぇって。宏の様子がおかしいって話だろ? オレも、どことなく遠くを見てる宏が気になってたんだ。でもあからさまに聞く訳にもいかんだろ? だからずっと黙ってたんだが……そろそろオレ達から何かしらのアクション、起こした方が好いのかもしれんな」
涎を啜った真奈美が瞳を爛々と煌めかせソファーから上体を前のめりにして尋ねるも、隣に座る切れ長の碧眼を吊り上げたほのかに口調鋭く窘められる。 もっとも、ほのかも夫を気遣いつつもプレイの内容が気になったのか、縛られた当人をチラリと見た。
「あ~、先日、姉さんそっちのけでウチと宏クンが夜中にイチャイチャしてたのが気にくわないってんで、パンツ一枚姿で後ろ手に縛られM字開脚で椅子に張り付けられただけよ。だけど、肝心要の宏クンが全く乗り気にならなかったから不発に終わったけどねー」
「えぇっ!? ひ、宏ちゃんがソフトSMに無反応っ!? ってコトは、本気(マジ)でヤバい?」
ほのかの呑み友でもある夏穂が笑顔のまま臆面も無く暴露し、若菜が見るからに無理矢理おちゃらけると、その場の雰囲気が一瞬だけ温かなピンク色に染まる。 しかし、誰がどんな明るい話を振っても宏の不調が確定的だと判ると、空気は途端に重くなってしまう。
「そう言われれば……月曜夜に私と美優樹、優先輩と若菜先輩の『つるぺたーズ』で一緒した時も、宏先輩が真っ先に寝ちゃったもんね。いつもは先輩が最後まで起きてるのに。……やっぱその時から調子、悪かったのかな?」
「美優樹もそう思います。四人相手なら最低二回は抱いて貰えるのに、その時は一回きり、しかも各自早々に終わっちゃって……。今迄と全然違う夜だったから変だなとは思っていたの。……もしかしたら、美優樹達の相手をするのがしんどい程、お仕事がキツいのかしら?」
姉の飛鳥同様、腰まで届く栗色のツインテールを小さく揺らした美優樹も心配気に眉を寄せると、リビングに暫し無言の時間が流れる。 そんな静寂を、筆頭妻の晶を補佐し、お屋敷の実質ナンバーツーの地位にいる優が破った。
「……ボクもヒロクンの状態が心配。だけど、お姉ちゃんだけはヒロクンの不調に気付いてなかったみたいだね。今のボク達の話を初耳とばかり、ポカンとして聞いていたのが何よりの証拠。内心、今、焦ってるんじゃない?」
物言いたげに、瞳を眇めて双子の姉をじ~~~っと見る優。 当然、他の奥方達の冷たい視線が集中砲火となって晶を直撃する。
「う゛っ!? ゲホゲホッ、ゲホゲホッ!」
普段は尊大に構えている晶も、そんな視線の圧力に怯み、しかも心中をズバリ言い当てられて焦ったのか飲みかけのお茶で盛大に咽せてしまう。
「し、仕方無いでしょ! あたしだって会社で厄介事抱えて、それどころじゃ無かったんだから!」
速攻で引き抜いたティッシュ数枚を口元に当ててひとしきり咳込んだ後、晶は必死な形相で言い訳に走る。 しかしその言葉は優の指摘が事実だと知らしめ、晶自身も認めてしまう事となった。 そんな慌てまくる晶に、同い年で大学の同級生でもあるほのかが猛然と突っ込んだ。
「おい、『それどころ』って何だよ! それでも筆頭妻か! 夫の変調に気付かぬ妻に、妻たる資格すらねぇぞ!」
三人掛けソファーから勢い好く立ち上がり、一歩踏み出しつつひとり掛けソファー(普段は宏専用の席だ)に座る晶に人差し指を突き付けたのだ。 腰まで届く波打つ金髪を逆立て碧眼も吊り上げたハーフ美女の鬼のような形相に、対面に座っていた飛鳥と美優樹は瞬時に抱き合って震え上がる。
「面目無いわ。その通りね。家庭に仕事を持ち込んだあたしが悪かった。ゴメン。けど、あたしだってひと癖もふた癖もある新人二人抱えてのっぴきならない状態に置かれてたんだから、しょうがないじゃない! それにアンタだって人を責める前に自分だって見てただけ――」
「ゴメンで済むなら警察は要らねぇよっ! だいたい、会社の厄介事ってなんだよ! それは夫よりも優先される事なのか――」
それまでの穏やかな表情が一変、ソファーから立ち上がるや険しい顔付きになって言葉尻がキツくなる晶と鼻息荒いほのかの間にバチバチと火花が散り始めた。 鼻っ先を突き合わせ、互いに相手を指差しながら言い分を遮り、攻撃(口撃!)の激しさを募らせてゆく。 当然、リビングを包む空気もより重く、より暗くなって他の面々を陰鬱な気分に落ち込ませてゆく。
「あ、あの! 晶さん、ほのかさん、少しは落ち着いて――」
久々に見る晶とほのかの本気モードの電撃戦と険悪な空気に堪え切れなくなったのか、千恵が慌てて腰を浮かせた、その時。
「まぁまぁ、お茶のお代わりは如何ですか?」
絶妙のタイミングで笑顔の多恵子が二人の間に身体ごと割って入った。 ティーンエイジ並みの若々しい(ある意味、幼い)容姿にも拘わらず、一触即発の危機を身を以て回避させるなど、流石、お屋敷最年長の三十八歳、亀の甲より年の功だけはある。
「晶さん、ほのかさん。頭に血が昇ったままでは冷静にお話しも出来ませんわ。まずはお座りになってひと息、入れて下さいまし」
「「……………………」」
二人は出鼻を挫かれた形となり、多恵子と相手を交互に見つめ口をパクパクさせたまま言葉を呑み込んでいる。 やがて晶はひとり掛けソファーにドスンと腰を落としティーカップを持ったものの、依然としてほのかを睨んだまま顔付きは険しいままだ。 ほのかも我を取り戻したのか、バツの悪そうな表情でそっと座り直し、多恵子の淹れたお茶に視線を落としたまま一気に呷る。
「ご協力、感謝ですわ♪」
見た目はアレでボディサイズもお屋敷最小と言えど二児の母であり、伊達に経験値を重ねている訳でも無いのだ。 ニコリと微笑み、怒れる大魔神二柱(ふたはしら)を見事宥めた多恵子は、続けてぐるりと一同を見渡した。
「それで、どなたか心当たりは無いのですか? 宏さんが不調となった原因を?」
「……………………」
再び訪れる静寂は、そのまま答えとなって一同を思い煩わせる結果となった。 たっぷりと秒針がひと回りしただろうか、何とも重苦しい雰囲気を優が再び動かした。
「……ヒロクン本人がボク達に何も言わないって事は、ヒロクンの中で何か考えている部分がある証拠だと思う。だったらボク達はヒロクンの邪魔をせず普段通りに振る舞い、ヒロクンから言い出すのを待っていた方が好いと思う」
冷静な視線で夫を見る優に、何人かは「それもそうね」と小さく頷くも。
「でも、それで手遅れになったりとかしない? 宏ってば、自分の中に溜め込んで最後に自爆する事、たまにあるし」
宏と幼馴染歴二十二年になる千恵の憂い顔に、同じ年数付き合って来た若菜も眉根を寄せたまま口を開く。
「そんな事、昔あったね~。確か宏ちゃんが中学三年の時、後輩に対する部活の指導で悩んで悩んで悩みまくって、最後は自分のお腹の調子崩してダウン寸前まで行っちゃったもんね~」
千恵がその事だと首を縦に振ると、心当たりがあるのか飛鳥がサッと手を挙げた。
「中学三年? ……あ、それ、私も覚えてます。陸上部の部長をしてた宏先輩が何度注意しても部活をサボる一年生に頭、抱えてたんです。『何度言っても聞きやしねぇ』って。宏先輩、ご自分の指導力不足をずっと嘆いてたんです。私、哀しそうに話す先輩が見てらんなくて、ある日、その同級生に注意したんです。『やる気が無いなら辞めなさいよ!』って。そしたら次の日には辞めてましたけどね、そいつ」
当時を思い出して腹を立てたのか、飛鳥は語尾を荒げ、眉を逆立てて若菜の言葉を補足した。 そこへ、癒しの真奈美が通り名に恥じない発言をかまし、夫を擁護する。
「部員がサボるのは宏君の責任じゃ無いわ。でも、部の責任者として自分の責任にしてしまうのは責任感の強い宏君だからこそ、なんでしょうね。適当にあしらわないだけ立派だわ♪」
夫の侠気(おとこぎ)に触れた所為か、真奈美の目元と頬がほんのり赤く色付く。
「あ~、そんなコトもあったわね。あたしも覚えてる。ヒロの青白い顔を見た時は、何事が起きたのかと思ったもの」
ひと息入れてやっと落ち着いたのか、晶はティーカップを傾けながら懐かしそうに眼を細めて当時を振り返り、話に加わって来た。
「で、話を聞いたあたしはヒロに言ってやったのよ。『そんな輩は放っておけば好い』って。ま、結局は飛鳥ちゃんが言ったようになって、やっと体調が戻ったのよね。まぁ、ストレスの原因が消滅してホッとしたんでしょうね」
晶の言葉に、ソファーの端の席に座った多恵子が納得したように頷いた。
「なるほど。今週に入ってから宏さんの食事の量がいつもより少なかったのは、何かしらの悩みを抱えている明らかな証拠でしたのね」
「確かに、悩み事や心配事を抱えていると『喉も通らない』、って言うもんな」
心配気に眉を寄せる多恵子と晶に、同じ表情をしたほのかが腕組みをしながら何度も首肯する。 晶とほのかはさっきまでの口喧嘩など綺麗さっぱり忘れたかのように振る舞っている。 元より人の好い二人だけに、いつまでも引き摺る喧嘩など出来はしないのだ。
「……で、お姉ちゃんはどうする? ヒロクンが体調を崩す前に無理矢理口を割らせて悩みを聞き出す? それともヒロクンの意に沿ってこのまま様子見する?」
それまでみんなの話を黙って聞いていた優の提案に、尋ねられた晶よりも先にその場にいる面々が一斉に喋り出した。
「優先輩が言った通り、宏君は色々と迷ってるんだと思う。だから私達にまだ何も言えないのかもしれないわ。だったら今は邪魔をしない方が好いと思うわ」
大学時代は晶や優、ほのかの一年後輩だった真奈美が様子見に一票を投じ、
「そうですわね……いつまでも悩むのは体調に悪いですし、ここは多少強引でも聞き出し、その後は妻として全力で支えれば宜しいかと」
普段の穏やかな性格にしては珍しく、暫し考えてから強行案に一票を投じた多恵子が拳を握り締める。
「私は……宏先輩の思うがまま、が好いと思う」
「美優樹も、宏さんの意思を尊重します」
飛鳥と美優樹は消極的意見ながらも様子見に一票を投じ、
「宏クンも食が細くなる程に悩むコト、未だにあるのね~。まぁ、その方が人間らしくてよっぽど好いけどね♪ ん? ウチの意見? そうねぇ……………………悩むだけ悩んでみるのもアリかな? その方が成長率は高いし」
「私は様子見も無理矢理も嫌だよ~! 宏ちゃんには今すぐ元に戻って欲しいよぅ~! ……もしかして私達に飽きちゃったのかな~。外に他の女、出来たのかな~。ぐっすん」
宏の高校時代に担任として三年間務めた夏穂も妙な所で褒めつつ様子見に一票入れ、早々に棄権票を投じた若菜は瞳を潤ませ言葉も詰まらせる。
「あたいは……宏にいつまでも悩んで欲しく無い! だから夏穂先生、そんな暢気なコト言ってる場合じゃないでしょうに! 宏にとっては一大事かもしれないんですよ? あたいは宏の妻として一緒に悩み考えたいです! それにアンタも! バカなコト言ってんじゃないっ! 寝言は寝てから言いやがれっ!!」
強行案に投じた千恵はいつになく恩師を諫め、続けて瞳を三角にし拳を突き付けて猛然と妹を叱る。
「オレは……宏が未だオレ達に悩みを打ち明けない気持ちを考えたら、このまま知らん振りした方がベターだと思うぜ。宏だってオレ達に要らん心配掛けたく無いから黙ってるんだろうし。で、どうにもならなくなったら宏から助言を求めて来るだろうからな」
様子見を提案するほのかの言葉に、強行派から反対意見が出る。
「ほのかさん、それで宏の悩みが泥沼化、深刻化したら――」
「まぁ聞け。だからベターだと言ったんだ。それにだ。宏の心身の見極めも出来ぬまま放置し、千恵ちゃんが案ずるように悪化させるのもどうかと思う。だからオレは……」
ほのかは言葉を句切り、一同を見回してから言葉を続けた。
「今回は多少強引でも、宏から悩みを聞き出すのが好いと思うぜ。なにせこっちには十人の強力な後ろ盾がいるんだ。宏では出せなかった答えが、こっち側にあるやもしれねぇだろ?」
強行案に一票を投じたほのかは、自信あり気にニヤリと笑うと握り拳の親指を立てたサムズアップで応えた。
「……みんな、こんなにもヒロクンを心配してる。ここまでを集計すると、様子見はボクを含めて五票、口を割らせる強行案は三票、棄権がひとつ。で、筆頭妻としてお姉ちゃんは最後の一票、どうする?」
優の視線を含めた十八の瞳が一斉に晶に向く。 その真摯に見つめる瞳は、ご当主復活への道標(みちしるべ)を期待しているのかもしれない。
「う゛っ!? そ、そんな煌めく瞳で期待満々に見られても困るんだけど。……まぁ、確かに、強引に口を割らせた方が問題解決には手っ取り早いわね。ほのかの言った通り、こっちにはあたしを筆頭に史上最強のブレーンが揃ってるんだから、大概の悩みなんてあっという間に解決間違い無しだし♪」
自信満々に口角を上げた晶に、場の空気が大きくどよめく。 その多くは「やはり晶さんらしいわね」「短気だもんね~」などと言う納得(?)の声だ。 一方、「無理矢理は……」「余計にこじれない?」「周りに左右される宏クンじゃ無いでしょ」などと反対意見も混じっている。
「だけど!」
そんな賛否渦巻くどよめきを、筆頭妻の強い口調が一瞬で封じる。
「今は無理に聞き出さずとも、あたしらはいつでも聞く用意がある、ヒロにはあたしら味方がいるんだ、ってコトをさり気無く言っとけば好いわ。悩みを抱えた人間を追い詰めるのが一番好くないからね。だから暫くは様子見、しましょ」
筆頭妻の出した結論に、再びどよめきが起きる。 もっとも、「あの晶さんが丸くなった!」「まともなコト言ってる!」「いつもなら強引に口をこじ開けてでも吐かせるのにね~」などの呟きを耳にした晶がチョッとだけキレてヘコんだのは……さておき。
「……となると、お姉ちゃんは様子見に一票、合計六票で過半数を超えた事になる。それじゃ、ヒロクンに対しては暫く様子を見る、と言う事で――」
民主主義らしく多数決で今後の方針を決めた優に、強行案を推した多恵子、千恵、ほのかもそれ以上の主張をせず素直に頷いている。 しかし、それでもひと言、ふた言、言わずにはいられないのが晶だった。
「あ~、言っとくけどみんな。多数決で決まったからと言って、それが正解じゃ無いからね。そこんトコ、みんな思い違いしないように」
妹の言葉を最後まで聞かず、ドヤ顔で胸を張る晶に、みんなポカンと口を開け、一斉に首を傾げる。 どうやら筆頭妻が何を言いたいのか判りかねているらしい。
「だ・か・ら! 多数イコール正解とは限らないし、少数にこそ正解や本質がある場合も多々あるって事! 今回の場合では様子見が正しい処置とは限らないし、口を割らせた方が好い結果を得られるかもしれないって事! 元々、物事の正解なんて数では計れないものよ。それに、多数決なんて裏を返せば単に数の暴力に他ならないわ。だから多数決を絶対視してはいけない、って事だけは覚えておいてね」
いち企業で部長職を張り、多種多様な現場や人物と接して来た晶だからこその指摘に、他の面々は顔を見合わせ押し黙ってしまう。
「あの~、晶さん? せっかく、みんなの総意として纏まったのに、それを突き崩す正論をここで言ってどーするんです? 今は宏の悩みをどうするかで話し合ってたのに……それじゃ堂々巡りじゃないですか?」
「あ、いや、だからあたしが言いたいのは多数意見を否定するつもりは無く、単に多数決の真実をみんなに知って貰いたい――」
千恵や一同の戸惑った表情に、晶も「何で判らないの?」とばかり応えていると――。
「あはははは! 晶ちゃんの指摘は大正解。でも、限られた範囲内での多数意見も、これまた無視出来無いから正解。なればどうするか? 方法は違えど宏クンを助けたい! って気持ちは全員一致でしょ?」
このメンバーの中では一番、数多(あまた)もの多数決を見て来たであろう立場にいる夏穂が助け船を出した。 大きく(一部は何度も)頷く面々に、得意気にウィンクした夏穂が言い切った。
「だったら今回の場合は、先ずは全員一致の部分から始めるのが正解。ほのかちゃんや晶ちゃんがさっき言ったように、宏クンには十人の援軍がいるんだ、ってコトだけ知らせれば好いのよ。そうすれば宏クンだって嬉しいだろうし、何かしらアクション返してくれるわ。強引に口を割らせるとか様子見するとかしなくてもね♪」
なるほど、とざわめく一同の様子にプルン、と揺らしたDカップの胸を張る夏穂。 そんな鼻を高くした夏穂に、姉である多恵子がニコリと笑う。
「確かに、味方となる人や応援する人が常に傍にいる事が判るだけでも、悩みを抱える人にとっては気持ちが楽になるものね。流石、夏穂ちゃん。まるで先生みたいな台詞ですわ。おほほほほ♪」
「そうでしょう♪ ――って、ウチは現役の教師だ!」
満面の笑顔で褒め称える多恵子に、長く伸びた鼻を根本からポッキリ折られた夏穂が泣き顔で突っ込む。
「ま、熟年姉妹コントも見られた事だし、ともあれヒロに対しては、明日の朝にでもあたしがさり気無く言っとくわ。ヒロには何者にも代え難い強力な味方が十人もいるんだ、ってね」
十人の妻を率いる晶はそう高らかに宣言し、今度こそ場をひとつに(熟年姉妹と呼ばれた多恵子と夏穂は大いにヘソを曲げていたが)纏め上げたのだった。 纏めたのだが――。
☆ ☆ ☆
翌、木曜日の夜。
「ヒロ! アンタは誰と何の為に結婚したの!」
筆頭妻である晶の鋭い声が屋敷をビリビリと震わせた。
「ウジウジひとりで悩み苦しむ位なら、あたしらに打ち明ければ好いでしょ! こちとら妻なんだから味方するし幾らでも話を聞く、アドバイスだって十人いるんだから十通りは出来るって、今朝言ったでしょ! だのに何で未だに隠し立てしてんのよっ!」
昨夜の「今は無理に聞き出さずとも云々」を綺麗さっぱり忘れ、額に青筋を立てた晶が夫の宏に詰め寄っていた。 帰宅してからもどこかよそよそしい態度を取り続ける夫に、晶の(超短い)導火線に火が点いた結果だった。 他の面々も怒り心頭の晶を制するよりも、今はご当主の返答を待ち望んでいるとばかり固唾を呑んでいる。
「アンタが心の底から笑わんから、みんな心配してんのよ! 曲がりなりにもあたしらの夫なら不安気な顔を一切見せず堂々と構えてなさい! それが出来んなら、とっとと悩んでる中身を吐きやがれっ!」
腰まで届く緩いウェーブの掛かった黒髪をヘビのように蠢かせ、切れ長の瞳も吊り上げた晶は更にドンッ! と大きく一歩、詰め寄った。 もっとも、宏はリビングのひとり掛けソファーに座り、その右斜め前に座る晶は三人掛けソファーの端にいるので晶が一方的に前のめりになっているだけなのだが。
「アンタが一切合切吐くまで、ここを一歩たりとも動かないからねっ!!」
フンッ! と鼻息荒く、晶は従弟の顔を睨め付けた。
☆ ☆ ☆
「晶姉……」
一方、夕食後に「チョイと顔(ツラ)、貸しな」と半ば強引に腕を取られ、リビングのソファー座らされるや即座に責め(攻め?)られた宏は泣き笑いの顔になる。
「そっか、みんな心配してくれてたんだ」
宏としては、ありがたい気持ちで発したひと言だったのだが、目の前の筆頭妻は別の意味で捉えたらしい。
「あ゛ぁっ!? あ、あ、あ、当っっったり前じゃない! 何考えてんのっ! このおバカっ!! あたしらが心配してるのを、さも意外そうに言うんじゃないっ!!」
何やら晶の怒りの炎にガソリンを大量に注いでしまい、目の前に座る女性は完全に般若と化してしまった。 角を生やした額には血管を幾つも浮き立たせ、赤ら顔で眉と瞳をこれ以上無い位に吊り上げ、眉根に何本も縦皺を走らせ口から炎を噴く姿は壮絶のひと言に尽きる。
(でも、流石に生まれた時から傍にいるだけあって晶姉には誤魔化し切れんかったか。みんなにも普段通り振る舞っていたつもりだったけど、表情や仕草に出ちゃってたかな? だとしたら俺も詰めが甘いな)
激昂した顔すら見惚れる程に見目麗しい従姉ではあるが、今は隠し立てした後ろめたさも手伝って顔をまともに見られず、宏はつい、と視線を逸らした。 しかし、晶と反対側へ顔を背けた先がリビング側だったので、今度は妻九人の視線をまともに受けてしまった。
「「宏……」」
「宏ちゃん~」
「宏クン」
「「宏さん……」」
「宏君……」
「宏先輩……」
「……ヒロクン」
それぞれから真っ直ぐな瞳で見つめられ、宏は完全に言葉に詰まってしまった。
(みんな、ホントに心配してくれてたんだ……。何だか今の俺、完璧なヘタレになってんなー。奥さん達を不安にさせて……これじゃダンナ失格だな)
何かひと言、それこそ「ありがとう」のひと言だけでも言えれば好かったのだろうが、今週月曜から今後の身の振り方で悩みまくっている自覚が多いにあるだけに今更何をどう言ったら好いのかがまるで判らず、無言の時間だけが過ぎてゆく。 そんな、筆頭妻(メデューサ晶)に睨まれ固まるご当主を哀れに思ったのか、リビングのあちこちから援軍の狼煙が上がった。
「オイオイ……『追い詰めるのは一番好くない』とか言ってたのは、どこの誰だったっけ? 宏も固まる位なら、コイツに合わせて無理に言わんで好いぞ」
晶の対面に座り、呆れたように筆頭妻の晶を見るのはほのかだ。 小さく溜息を吐(つ)き、肩を竦めて何度も首を横に振っている。 しかし、この程度のお小言(?)に動じない晶は、怒りの矛先をほのかへ向ける。
「うっさい! ひと晩経っても夫の悩みを聞かされない妻としては放っておけないでしょ! アンタは黙ってて!」
ひと言、物申してから再び夫を見据えた。
「さぁヒロ! 観念して悩んでるコトを言え! とっとと吐いて楽になれっ! それとも、あたしらじゃ役に立たないってかっ!?」
「「こ、こっちの美女も怒ると恐いっ!!」」
般若と化し、夫に猛然と迫る晶に、飛鳥と美優樹の二人はソファーの隅で抱き合ったまま震えている。 どうやら昨日の、ほのかの怒りの形相と重なって見えているらしい。
「あの、晶さん? 無理矢理聞き出すのはどうかと……。だけど、宏も出来るなら打ち明けて欲しいな。夫の悩みは妻の悩みでもあるんだからさ。あたしらだって宏の力になりたいし。ね?」
「夫と妻は一心同体なんだよ~。宏ちゃんが苦しんでると、それを見てる私達はもっと苦しくなっちゃうんだから~」
宏と晶の間の床に座っている千恵が座布団から腰を浮かせて仲裁に入り、その隣に座って切れ長の瞳を潤ませた若菜も宏の座るソファーに縋り付く。
「千恵姉……若姉……みんなも」
リビングのそこかしこに座る多恵子、夏穂、飛鳥、美優樹、優、ほのか、真奈美、千恵、若菜、そして晶の視線が寸分の狂いもなくこちらを捉えていた。
「そう……だね。俺ひとり考えてたって、物事は動かないもんね」
諦めたように大きくひと息吐(つ)いた宏は真奈美の淹れてくれたお茶をひと口啜ると、ここ数日胸の中で重しとなっていたモノを全て打ち明けた。
「実は、俺のバイト先が――」
※ ※ ※
今週月曜からの顛末を事細かく説明し終えると、脱力したのか晶はソファーの背もたれに深く寄り掛かりつつ口を開いた。
「な~んだ、職場が消滅しただけじゃない。あー好かった! ったく、どんな悪い話かと思って心配したじゃない!」
そんな高笑いする晶に、何人かが大いにずっこけた。
「あ、晶さん~、夫の勤め先が潰れて喜ぶ人がいますか! 少しは宏の身になって下さい!」
ずっこけたまま苦笑いする千恵に突っ込まれた晶は、笑いながら手をパタパタ振る。
「あはは! 悪い悪い。つい、ね。で、話を戻すわね。片道三時間掛けて通うか辞めるかで今迄ず――――っと悩んでた、って事ね」
「うん。埼玉迄通うとなると家にいられる時間が極端に減って、みんなと接する時間が殆ど取れなくなっちゃうんだ」
「で、仕事辞めて無職になったら今度は主(あるじ)としての面子が立たない、と?」
「うん……やっぱ夫として何かしらの職に就かないと、とは思うけど。でも、最近は求人が減ってたり職種自体が消滅してたりする訳で……」
「なるほど。色々調べてはいるけど、近場での次の仕事先がまだ見つからん、と」
その通りとばかり大きく頷く宏に、千恵が眉を下げつつ遠慮がちに声を掛けた。
「でも……だからと言って今の仕事続ける為に通勤に時間を取られ、それだけあたい達との時間が削られるのって、正直嫌だわ。それに、宏の体も心配だし」
千恵の懸念はみんなの懸念でもあったのだろう、同調する声が一斉に上がる。
「そうだな。家族の為に遠距離通勤したものの結果的に家族を蔑ろにしてしまう――。本末転倒だな。ま、これこそ平気で遠距離通勤や単身赴任を強要する日本企業の悪い所だ。こんなの、れっきとしたパワハラなんだけどなぁ」
憤然としたほのかが眉根を大いに寄せると、妻達の口から「そうよね~」と納得の声(一部、諦めの声)が上がる。 海外での勤務経験があるほのかの言葉は、日本企業に対する世界の共通認識だと、みんな判っているのだ。
「そんで、ヒロは結局どうしたいの?」
場のざわつきを収める為か、それとも夫を奮起させる為か、晶は少しだけ声を張り上げると悩める子羊に結論を迫った。
「へ? どうしたい……って?」
「だ・か・ら! 『どうすべきか』、なんて建て前論じゃ無く、ヒロ自身の本音で『どうしたいか』が肝心なの!」
「どうしたいか? そりゃ……俺は……」
ゴクリと息を呑む妻達。 夫の言葉を聞き漏らすまいと、みんな前のめりになり耳を大きくして(数人は両手を当てて)待っている。
(そんなの、決まってるよ。俺は……)
宏の脳裏に、娶った十人の笑顔が次々と浮かび上がる。 その笑顔に後押しされ、ここ数日の迷いを振り切るよう大きく息を吸いながら一同を見渡し、高らかに宣言した。
「俺はみんなとの時間を削ってまで今のバイトを続けたくは無い! だから今勤めてるバイトは辞めて、新たな仕事先、探すよ!」
すると、妻達から一斉に安堵の息が漏れた。
「な~んだ。ヒロの中では答えがとっくに出てたんじゃない。今迄何を悩んでたのよ?」
「だって、この歳でヒモだなんて……みんなに顔向け出来んって。それに当主としての威厳も無くなりそうで……」
バツが悪そうに現役部長職の晶から顔を背けると、
「威厳? んなモン、ずっと前からあって無い様なモンじゃんか。あははははっ♪」
ほのかからの、きつ~い横槍が(でも瞳は優しく微笑んでいた)。 しかし、他の奥さんからはきちんとフォローが付いて来た。
「でも威厳があろうが無かろうが私にはどうでも好いわ。私には宏君が健康でさえいてくれれば、それだけで充分幸せなんだから♥」
「真奈美さん……♥」
向けてくれた満面の笑顔に、宏の心は大いに癒される。
(やっぱ、真奈美さんは素敵だ♪ だのにその笑顔を曇らせてたなんて……俺は何て罰当たりなんだろう)
軽い自己嫌悪に陥り、本気でヘコんでしまう宏だった。 そんな落ち込むご当主を励ますよう、擦り寄る者がいた。
「仕事を辞めた後どうするかは色々考える所はあるんだろうけど、あたいはいつだって宏をサポートするからね!」
面倒見の好い御姐様の血が騒ぐのか、胸をドンと叩いた千恵が微笑み、
「そ、そうだったんですか……。でも、私は宏先輩の応援しますから!」
「あ、あの……美優樹に何が出来るのか判りませんが、何でも仰って下さい!」
この秋に大学二年となり、まだまだ一般社会とは程遠い位置にいる飛鳥と美優樹はどう応えて好いのか判らないらしくも、しっかりと後ろ盾に付いてくれた。 その一方で楽観的な面々も。
「浮気とかじゃ無くて好かった~♪ それにお仕事なら何とかなるよ~。そこだけがお仕事の全てじゃないし~」
若菜は持ち前の明るさで笑い飛ばし(肩をバシバシ叩かれた)、
「まったく何を悩んでるかと思えば……。あのね、ヒロ。M&Aなんて今の世の中、当たり前だのクラッカーよ! 第一、日本だけで一日何件のM&Aが起こってると思ってんのっ。それにヒロひとり位、従姉であるあたしが! 一生面倒見るわよっ!」
「当たり前だのクラッカーって……オマエいつの生まれだよ」
従弟の世話をして当然とばかり胸を張る晶に、ほのかが苦笑いしつつ突っ込む。
「昨晩はヒロの事を考え続けてなかなか寝付けなかったのは、いったい何だったのかしら!? ひとり悶々としてたあたしがバカみたいじゃない」
オマケに、ソファーでやれやれと踏ん反り返り、ほのかをガン無視する晶だった。 そんな、晶の『面倒みるわよ』発言に触発されたのか、収入源のある社会人組が同時に身を乗り出した。
「まぁ、人生いろいろ、会社もいろいろだ。今ならオレの給料で食わせてやるよ♪ だから宏も気にするな」
満面の笑みを浮かべたほのかに手を握られ、
「ま、これも好い経験よ。ウチの稼ぎでずっと囲ってあ・げ・る♥ ドンマイ♪ あっ! そうだ! ねぇ宏クン」
と、ここで何を思ったのか急に瞳をニコ目にした夏穂が招き猫みたく手招きした。
「職に困ってるんだったらウチの部のコーチになってくれない? 宏クンは中高と陸上経験六年あるから的確なコーチングが出来るわ! そ・れ・に♪ 今なら若くてピッチピチの女子高生のスパッツ姿に囲まれてウハウハよ♪」
わざわざダイニングテーブルから離れ、背中をバンバン叩いて励ます恩師に、
(ピッチピチの女子高生? ウハウハ? ……好いかも♥)
思わず想像し鼻の下を伸ばし、つい引き受けてしまいそうになる宏だった。
「あらまぁ、それはそれは……」
そして、歳若い夫の身に起きた一大事に目を丸くし絶句していた多恵子だが、それでも続けて、
「でしたら、わたくしの家賃収入で生涯養って差し上げます♥」
などと、ニコニコ顔で言われてしまった。
「みんな……ありがとう! そう言って貰えて心が楽になったよ」
(けど、みんなの反応が前に想像した通りになったのは……ご愛敬かなぁ)
宏に、ようやく笑みが戻った瞬間だった。 もっとも、みんな舌舐めずりして自分の手元に引き摺り込もうと虎視眈々狙ってる気配がするのは……単なる気のせいだろうか。 と、ここで夫の失職を間接的に言い当てた優が重そうに口を開いた。
「……ボクの予想した通りになって残念。この哀しい現実をどう受け止めるかはヒロクン次第。だけど、ボク達はヒロクンの味方。敵はひとりとしていない、って事だけは、この先もずっと肝に銘じて欲しい」
暗に、将来に亘っての忠誠を誓い、続けて大蔵大臣らしく、こう言った。
「……資金面は、みんなの口座に少なくない額があるし、ヒロクンの預金利息で今の生活を維持出来るから問題無い。それに、これからはボクがネットトレードやFX、外貨預金などでもっともっと稼ぎまくるから安心して欲しい。これで、やっとボクの本領が遺憾無く発揮出来る♪」
今や完全にそっち方面のプロである優が瞳を輝かせて宏の肩に手を置く。 どうやら、今迄の裏家業(?)が正式に日の目を見る事になるかもしれないと昂ぶっているようだ。 みんなも屋敷の稼ぎ頭である優の存在と各自が持つ預金残高――億単位が無意識にある所為か、夫の無収入に対する不満や不安を口にしないのが救いだ。
(これもみんな、優姉様々だな。これ迄に俺やみんなの為に稼いでくれたお陰だ)
宏が心から従姉に感謝していたら、何を閃いたのか満面の笑みを零したほのかが手をポンと打った。
「あ! そうだ宏! 仕事するならオレのトコに来なよ! 今、オレんトコも深刻な人手不足なんだ。晶に言ってもちっとも人員よこしてくれんし、宏なら大概の仕事はこなせるだろ? 晶もそれで好いだろ? 宏なら身元は確かで空港施設の出入りに支障は無いし♪ うん、そうしなよ!」
まるでもう決まったかのようにウハウハ顔で言う金髪碧眼娘に、同じ会社に勤める事務(フロント)責任者の晶が大人しく首を縦に振る――訳が無かった。
「あら、だったら、あたしのトコに来て事務仕事手伝って貰うわ! こっちだって人手不足なのは一緒だし、ヒロの能力ならあたしが一番好く理解してるから百パーセント……否、百二十パーセント活かしてみせるわ!」
そうはさせじと口を挟みジロリと睨む晶だったが、
「オマエんトコには新卒が二人も入っただろ! 先ずはそっちを優先しろ!」
「う゛っ!」
ほのかに速攻で言い返され、しかも痛い所(正論とも言う)を突かれ思わず視線を逸らし黙り込んでしまう。 新人二人に手を焼いている晶にとって、宏は喉から手が出る程欲しい人材として映っていたのだ。 当然、そんなスカウト合戦(?)に加わらない面々では無かった。
「ちょっと二人共! ウチが最初にオファーしたんだから、ウチに優先交渉権があるでしょっ!」
二人には渡さないとばかり宏の腕を胸に抱き抱えた夏穂が咆え、
「だったら主夫だって好いじゃん~。毎日一緒にお買い物しようよ~♪ 毎日一緒に過ごそうよ~♪」
ルンルン気分で浮かれた若菜が宏の背後から抱き締め、破顔した主婦組が同時に頷く。 どうやら一緒に家事をするイメージを浮かべているらしい。
「確かに宏君が家(うち)にいると安心するわ。それに……♥」
真奈美の緩んだ顔付きにピンッ、と来たのか、こちらも小さく笑った優がポツリと零した。
「……毎日がパラダイス♪」
目元を朱(あか)く染めた優の言葉を、千恵が笑いながら混ぜっ返した。
「毎日一緒だと……所構わずエッチしちゃいそうね。特にアンタが」
「当然だよ~♪」
妹を見た千恵が苦笑いし、薄い胸(七十八センチのCカップだ)を張る若菜に晶が猛然と突っ込んだ。
「あんたら……人が外で働いてる時にイチャイチャすんじゃ無いわよ! 優! アンタが先陣切ってデレてどうする!」
額に血管を浮かべた晶を余所に、ひとり悦に浸る者がいた。
「まぁまぁ♪ これが……夢にまで見た、『甲斐性の無い無職の亭主を甲斐甲斐しく面倒を見る健気な妻』のシチュエーションなのですね!」
両手を胸の前で組んで瞳を煌めかせる多恵子に、ダメ亭主のレッテルを貼られた宏が黙って見過ごす筈は無かった。 思いっ切り苦笑しつつ、夢見る乙女(?)と化した小柄な女性に目を向ける。
「多恵子さん……。そんな台詞、いったいドコで――って、大体想像は付きますが」
「はい♪ 飛鳥の読んでいるレディコミの今月号に載っておりましたの♪」
「――ってお母さん! また私の本を勝手に読んで!」
「あら、机の上に出しっ放しにしてあったのは誰でしょうねぇ。しかもページが開きっ放しで――」
「わぁ――――――――っ!! ご、ごめんなさい。私が悪うゴザイマシタ」
「お姉ちゃんってば、相変わらずなんだから。そんなんだから成績がいつまで経ってもDランクなのよ」
「「「あははははっ!」」」
多恵子と飛鳥――母と長女の漫談に、次女美優樹の容赦無い突っ込み。 リビングに笑いの花が咲き、それは今週に入って初めての笑いの渦となった。
「あはは! 多恵子さんも飛鳥ちゃんも相変わらずで楽しいなぁ。……そうだよ。こんな楽しい空間、自ら手放しちゃダメだ! 何が何でも守らないと!」
「ニャンッ!」
その通りとばかり、宏の足下に仔猫が擦り寄ってひと声、啼いた。
「よし! 明日からいつもの調子でみんなと過ごそう! そして今迄不安にさせていた分を取り戻すんだ!」
屋敷を包む笑い声は宏の迷いを完全に吹き飛ばす渦となり、この屋敷に温かな明るい笑い声が舞い戻る呼び水となった――。
(つづく)
 ↑↑ 「面白かった♪・良かった♪・エロかった♥」と思われた方はクリックをお願いします♪ (ランキングサイトに投票され、作者が悦びます♪)
|
|
|
|
|
|
|