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ライトHノベルの部屋
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~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~
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恋仲(1)
恋仲(1)
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美姉妹といっしょ♪~新婚編
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宏の就職問題が全て解決し、十一人が住まう屋敷に普段の落ち着きが戻った頃。 主婦組の多恵子、優、真奈美、千恵、若菜の五人は人数分の朝食やプラスアルファの食事を用意すべく朝早くからキッチンに立ち、休む間も無く手を動かしていた。
「フンフンフン~♪ ルンララ~♪」
十畳程の広さを誇るダイニングキッチンでは包丁とまな板が奏でる小気味好い音が一定のリズムを刻み、そこへベーコンが焼ける香ばしい音と香り、そして煮物が鍋の中で踊る優しい音が混然一体となってキッチンから溢れ出し、長い廊下を伝って屋敷中へと拡がってゆく。 同時に、軽やかで明るい千恵の鼻歌も低く流れていた。
「ふふ♪ 姉さん、今朝もご機嫌だね~」
「ん~、なんで?」
背後にいる妹から笑いを噛み殺したような声を掛けられた千恵は振り返りもせず、しかし半分聞き流しつつも律儀に応えた。
(若菜ったら、ナニを言っとるんだ? あたいはいつも通り、至って自然体なのに)
手元に視線を落としたまま、千恵は菜箸を持つ手を決して止めはしない。 なにせ、今は愛する男性(ひと)の食事を用意している真っ最中なのだから。
(今は若菜の戯れ事よか、早くこの弁当を早く仕上げて宏を起こしに行かなきゃ。そんで飛鳥ちゃんと美優樹ちゃんがまだ起きてなきゃ起こしてあげないと大学(がっこう)遅刻しちゃうし。その後は起きて来た人からご飯を用意して――)
屋敷には社会人組四人――夏穂、晶、ほのか、宏と学生二人がいるので朝の時間帯は一分一秒が惜しいのだ。 千恵が今後の段取りを脳内シミュレートしていると、語尾を伸ばす特徴的な喋り方をする若菜が今度は大きく笑いながら曰(のたま)った。
「だって~、鼻歌交じりに宏ちゃんのお弁当詰めてりゃ、誰だってそう思うよ~」
「へ? 何だって? あたい、鼻歌なんて歌ってた?」
意識していなかった部分を指摘され、軽い驚きを持って千恵は初めて背後に顔を向けた。 そこでは、双子の妹の若菜が笑みを湛えたままフライパン片手に人数分のベーコンエッグを次々と量産していた。 一方、その隣のコンロでは、お玉を動かす手は休めず含み笑いしている小柄な美女が。
「おほほ♪ 愛妻弁当ですもの。作る方も無意識に楽しくなるものですわ」
お屋敷最年長妻の多恵子だ。 流石、未亡人歴が長かっただけあって白い割烹着姿がすっかりと板に付いている。 もっとも、お屋敷のご当主たる宏が初めてその姿を目にした折りは「何だか小学校の給食の時間を思い出しました」などと口を滑らせ、「わたくし、そこまで幼くはありません!」と多恵子のご機嫌を少々(かなり?)損ねたのはご愛敬だったが。
「た、多恵子さん! いつからそこにっ!?」
「姉さん……。姉さんの後ろでお味噌汁、作ってたの忘れたの~」
「あ……そうだった」
少々(かなり?)、宏の弁当に気を取られ過ぎていたようだ。 そんな千恵の焦りを見て取ったのか、クスクスと鈴を転がすような澄んだ声の笑い声が聞こえて来た。
「うふふ♪ 千恵ちゃんは再び宏君のお弁当を作る事になって嬉しいのよね」
パリパリと小気味好い音を立てながらレタスを手で千切っている真奈美だ。 真奈美の前には新鮮な完熟トマトやキュウリ、グリーンアスパラなどが並び、朝のサラダを仕上げている真っ最中なのだ。 多恵子に同調するよう、瞳を細めて微笑んでいる。
「ま、真奈美さんまで!?」
何やら、みんなからかわれているような気がしてならない。 しかも、普段からクールな姿勢を崩さない優からもニコ目で、
「……千恵さん、気付いて無かった? ヒロクンが勤め始め、再びお弁当を持ってくようになってから毎朝そんな調子。以前には無い浮かれ振り」
などと揶揄されれば、いやでも自覚せざるを得ない。 「う、浮かれ振りって……あたい、ちっとも気付かんかった」
主婦組全員からの冷やかしに首から上を真っ赤に染め、羞恥に俯く千恵。 それでも弁当箱におかずを詰める手を休めないのは流石だ。
「何だかんだ言われても姉さん嬉しそう~。宏ちゃんも果報者だねぇ~」
改めてそう言われれば、宏の弁当作りは実際に嬉しいし楽しいのだから否定はしない。 否、むしろ誇らしいとも思う。 なにせ幼馴染から妻へと昇格した実感がひしひしと、しかも毎朝感じられるのだから。
「ま、あたい手ずからお弁当詰めてるからね。それにいつでも美味しく食べて欲しいじゃない。だから冷めても美味しいおかずをチョイスするのが腕の見せ所なのよね♪」
夫の胃袋を握っている自意識からか、つい自慢気に胸を張ってしまった。 そこへ、ダイニングテーブルに箸や茶碗を並べていた優からもお声が掛かった。
「……ほのかの情報では、ヒロクン達の職場には電子レンジがあるから弁当を温める事が出来るらしい」
「優さん、それも見越しておかずを選んでますから大丈夫です!」
そこは抜かりが無いとばかり、出来る妻を殊更強調してしまう千恵。 当然、みんなからの笑いを誘い、今度は声に出して笑う多恵子からも言われてしまった。
「流石、千恵さんですわね♪ すっかり若奥様振りが板に付いてますわ。おほほほほ♪
「~♪」
愛する男性(ひと)の奥さんと言われ、嬉しく無い筈は無い。 胸の奥底が温かくなり、勢い、鼻歌のひとつやふたつ、自然と漏れ出てしまっても不思議ではないだろう。 そんなニコニコ顔の千恵に、用済みとなったフライパンをシンクに置いた若菜が小さく肩を竦め、揶揄した。
「姉さん、多恵子さんに褒められて照れてる~」
「う、うっさい! あんたもさっさと朝食、作っちゃいなさいよっ」
誰かしらからからかわれ、その度に千恵が顔を赤く染めるのでキッチンは朝から笑い声が途絶える事は無かった。
☆ ☆ ☆
若菜は上機嫌で弁当を仕上げる姉を横目で見つつ、フライパンを洗いながらふと思った事を口に出していた。
「私も~、宏ちゃんが作ったお弁当、食べてみたいな~」
するとキッチンに立つ四人が同時に反応した。
「お弁当はともかく、宏は時々、土曜のお昼にペペロンチーノ風のパスタを振る舞ってくれるじゃない。あたいはそれだけで充分よ」
真っ先に反対の意向を示したのは意外にも姉の千恵だった。
(あらら。姉さん謙虚。まぁ、宏ちゃんのお弁当作りを一手に引き受けてるから当然か~)
姉の、宏への想いの強さは昔から知っているだけに、さもありなんと思う。 そんな千恵の言葉に、新鮮サラダを用意し終え、今度はフレッシュフルーツを用意し始めた真奈美が何度も頷く。
「あ~、あれね! ベーコンとピーマン、スライスしたマッシュルームとタマネギをオリーブオイルで炒めて塩、胡椒のみで味付けした絶品パスタ!」
少々垂れ目がちな真奈美の瞳が更に下がり、夢心地な表情となっている。 どうやら味を思い出し、手元も疎かにトリップしているようだ。
「そうですわね♪ あれはシンプルですが、物凄く美味しかったですわ♪ わたくしも月一回は食べないと禁断症状が出て困ってますの。おほほほほ♪」
味噌汁を作り終え、出来上がった料理をダイニングテーブルに並べ始めた多恵子だ。 多恵子も宏の手料理の虜になりつつあるようだ。
「……ヒロクンは、ひとり暮らししてた二年間は自炊してたから、ある程度料理は出来る。あの時出されたご飯はとても美味しかった。ボクは今でも覚えてるし、一生忘れない」
優も、従弟の手料理を思い出しているのか、遠い目になっている。 優はこの屋敷に移る直前、当時宏が住んでいたアパートで宏と二人きりになった時期があったのだ。
「だったら~、今度、宏ちゃんに私達のお昼用のお弁当、作って貰おうよ~♪ そんで宏ちゃんを想いながら食べるの~♥」
自分としては至極当然(?)の事を言ったつもりだったのだが……。
「若菜さん? 宏さんは連日お勤めでお疲れの身。早朝からわたくし達の為に働かせる訳には参りませんわ」
「若菜ちゃん、想いは判るけど、私達の欲望で旦那様に負担を掛けるのはどうかと思うわよ?」
「……ヒロクンが作るパスタや料理は、ヒロクンの休日に、それもたまに食べるから価値がある。……まぁ、連日食べても価値は下がらないけど、それでもお弁当は無理だと思う」
眉を寄せた多恵子、眉を下げた真奈美、首を横に振る優から一斉に猛反対を喰らってしまった。
「え~~~? ダメなの~? なんで~?」
妙案に浮かれていたが、雲行きが怪しくなって来た。 しかも止(とど)めには、
「なんでって、これから勤めに出ようって人間に幾つも弁当作らせる気か、おのれはっ! 脳ミソ無くても己の立場をわきまえろっ!」
――コーーーーン――
鐘を打ち鳴らしたような、何とも抜けの好い金属音が屋敷に鳴り響く。 同時に、若菜は頭を抱えてその場で踞(うずくま)っていた。
「きゃいんっ! いった~い! 姉さん~、お玉で頭、叩かないでよ~。それって意外と硬くて叩かれるとダメージ大きいんだから~っ」
見る間に目を三角にし、額から角を生やした姉から思いっ切りド突かれてしまった。
「あらあら♪ 千恵さん、洗ったばかりの調理器具で『おいた』してはいけませんわよ? せめてフライパンにしておかないと、お玉が曲がってしまいます」
「た、多恵子さんまで~」
涙目になって抗議する若菜の声は誰にも届かない。 バイタリティ溢れる面々が揃うだけに、朝のキッチンは連日姦しくなってしまうのだ。
「…………」
そんな、いつまでも新妻の雰囲気を漂わせる和気あいあいな千恵達に、リビングの壁にヤモリの如くへばり付き、目だけを出して様子を窺う者がいた――。
(つづく)
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