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ライトHノベルの部屋
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~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~
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ララバイ(2)
ララバイ(2)
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美姉妹といっしょ♪~新婚編
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「それでは新たな命の誕生を祝し、多恵子さんの安産を祈って、乾杯~っ!」
「「「「「「「「「かんぱーいっ!」」」」」」」」」
ほのかの高らかな音頭がリビングに響き、赤面し俯く多恵子を除く面々の唱和する声が屋敷に響き亘る――。 ご当主たる宏による『多恵子のおめでた発表』後、リビングは急遽、祝宴会場となった。 フローリングの床に座布団を並べ、車座になっての宴会と化したのだ。
(みんなお祭り好きだからなぁ。特に誕生日とか何たら記念日とかに目が無いし)
妻達はずっと照れっぱなしの多恵子を上座に据え、飽きる事無く乾杯を繰り返している。 宏は視線を右に向け、多恵子、若菜、千恵、真奈美、美優樹と順に辿り、続けて飛鳥、夏穂、ほのか、優、晶と視線を一周させる。 つまり、宏の左隣は従姉であり筆頭妻である晶が座している事になる。
「多恵子さんのご懐妊を祝って、かんぱ~いっ!」
「乾杯っ」
屋敷には唱和の度に黄色い歓声と笑い声、そして満面の笑顔が満ち溢れ、暖かく優しい場の空気が冬の冷たさを一掃してゆく。
(今夜はみんなにとって旨い酒になる……んだろうな。……だったら好いな)
グラスに注がれたビールをチビチビと傾けつつ、宏はもう一度、笑顔の妻達ひとりひとりを目で追った――。
☆ ☆ ☆
(多恵子さんのおめでたは嬉しいし喜ばしい限りだけど、晶姉さんはどう思ってるのかな~? 奥さん達の中で唯一、この場でお祝い、言ってないし~)
夕食の余った食材や残り物から宴会料理の幾つかを手早く作り上げた若菜は、夫である宏の隣でひとり静かにグラスを傾けている晶にチラリと視線を向ける。 そこには、しかめっ面では無いものの、他の奥さん達みたく弾けるような笑顔でも無い筆頭妻の姿があった。
(晶姉さんってば、敢えて淡々と過ごしてるみたい~)
若菜は誰かと談笑しつつも、晶の動向が気になって仕方が無かった。
(晶姉さんは昔から負けず嫌いで、何事も宏ちゃんの一番にならないと気が済まない性格、してたからな~。実際、宏ちゃんの童貞、半ば強引に貰い受けた前科があるし、筆頭妻の立場だって。でもって、ご懐妊一番手が多恵子さんだもん。晶姉さんの心中、ホントは悔しさで満ちてる……のかな~?)
表立って顔には出さないが心の中で探りを入れ、眉を顰める若菜。 宏とは生家が隣同士と言う事もあり、幼い宏の許へ度々逢いに訪れていた晶の存在は知っていた。 やがて宏を介して遊び合う間柄となり、年齢が近い事もあって親密になるのに時間は必要無かった。 以来、晶の性格を知り尽くしているだけに、この静けさが逆に気に掛かるのだ。
(宏ちゃんも晶姉さんの性格、私以上に判ってる筈だけどな~。けど、今以て何も言わないトコ見ると、裏でナニか密約でも交わした……のかな~? 宏ちゃんはドッキリ仕掛けるの得意だし晶姉さんも腹黒いトコ、あるし~)
晶に聞かれたら瞬殺されそうな事を思いつつ、若菜はひとり静かにグラスを傾けている筆頭妻へ視線をチラチラと向けた――。
☆ ☆ ☆
(そっか……宏もいよいよパパさんになる日が来るのか)
多恵子のおめでたは純粋に嬉しいし同じ女として愛する男性(ひと)の子を宿す幸せは、いかばかりかとも思うが、それ以上に幼馴染だった歳下の男の子がいつの間にか一児の父親となるのかと思うと感慨深いものがある。
(宏が生まれてから二十二年間、ずっと傍にいて見て来たんだもん。その宏が……ねぇ)
自分と双子の妹である若菜、そして宏の三人で夕方遅くまで泥んこになって遊んだ幼き頃の記憶が走馬灯のように浮かんで来る。
(でもそれって、その分、あたいも歳食ったってコトよねっ!? 宏とはたった二歳しか違わないのにっ!?)
二十四歳、千恵の頬がピクリと引き攣り、高く結い上げたポニーテールが小さく揺れる。 お目出度い席ではあるが、己の年齢を再認識させられ変に凹む千恵。 しかも、宏がどんどんと大人になってゆく(今はまだ青年と呼ぶのが相応しい)後ろ姿を、自分はただ呆然と眺めているかのようで。
(寂しさ……とはちょっと違うけど、何だか、お姉ちゃん役だったあたいがいつの間に弟に追い越され、置いて行かれるみたいだわ。強いて言えば……焦り、かな?)
いつも隣にいた男性(ひと)が知らぬ間に一歩前を歩いている状況に、千恵の胸が小さく痛む。
(でも、今はそれはそれで好いとして……)
片手にホットウーロンハイのグラスを持ち、イカゲソを口に咥えたまま僅かに眉を顰め、宏の隣に座る筆頭妻を横目でチラリと覗う。
(晶さんは多恵子さんのおめでた、どう思ってるのかな? 先を越された悔しさ……みたいなモノ、無いのかしら? 晶さん、妙なトコで意地張ったり見栄張ったりして騒ぎになるし)
この後の展開に不安を覚えた千恵は、ひとり静かにグラスを傾けている筆頭妻へ視線を真っ直ぐに向けた――。
☆ ☆ ☆
(多恵子さんがママ、そんで宏がパパ……か。宏も立派になったもんだなぁ。流石、オレが選んだ男だけあるぜ♪)
上座で並ぶ二人を微笑ましく眺めつつ、ほのかは夫である宏を熱い目で見つめる。
(オレと宏が初めて出逢ったのは宏が高校二年生の時だもんな。そん時は、十七にしては落ち着いた高校生だと思ってたけど、あれからたった五年間でオレを含めて十人の妻を娶り、名実共に一家の主として君臨するまでになったんだからなぁ)
宏にとって、そして自分にとっても人生のターニングポイントだけに、四歳下の夫と出逢ってから今日までをしみじみと回想してしまう。
(ん? 待てよ? 多恵子さんが『多恵子ママ』になるなら、オレは『ほのかママ』、とでも呼ばれたりして♪ にゃはははは! 今度、宏にそう呼ばせてみようっと♪)
ハーフ娘の目尻がデレッと下がり、グフグフと笑う姿に一部の妻達から怪訝な目が向けられる。 傍から見れば、かなりアルコールが回ってヤバそうな雰囲気なのだが、本人は至ってまともだ。
(しかし、宏とは付き合いの短いオレですらこんなにも感無量な思いに浸るんだから、宏が生まれてからずっと見て来た晶にはもっと胸に染みる想いに浸ってる……ようには見えねぇな)
実家(スェーデン)から送られて来たスモークサーモンを摘みつつ、ほのかは透き通った宝石のような碧眼を同級生に向ける。 晶は同じ大学で同じサークルに属していた間柄なのだ。 その晶がはしゃぐでも無く、かと言って不機嫌丸出しな訳でも無いのだ。
(晶は多恵子さんのおめでた、どう思ってんだ? 何事にも自分が最初じゃなきゃ嫌がる性格してるからなぁ。宏のフォローはどうなってる? まぁ、オレ等の見えないトコでやってるかもしれんが)
今後の展開に期待し、心浮き立つ自分がいる。 背中を覆う波打つ金髪を腕で払ったほのかは、ひとり静かにグラスを傾けている筆頭妻へ視線を真っ直ぐに向けた――。
☆ ☆ ☆
(多恵子さん、本当に好かったわ。これで三人目のお子さんだものね。宏君にとっては第一子ね♪ おっと、晶先輩のジントニック、そろそろ無くなりそうだわ。宏君のチキンナゲットも補充しなきゃ)
真奈美は空になった皿やアルコール類の瓶や缶をこまめに片付け、新たな肴やドリンク類を座に並べてゆく。 先輩妻の晶や優、年上の夏穂みたくドッカリと腰を据えて飲み食いしても好いが、宏の妻として、そして主婦の端くれとして、のほほんと座している訳にもいくまい。
(宏君はこれから父親としての責で大変だろうけど、多恵子さんは……経産婦だから心配要らないかしら?)
横目で妊婦となった多恵子の腹を見るも、その姿は以前と少しも変わらない。
(お屋敷で最も小柄な多恵子さんが臨月を迎えると、いったいどんな姿になるのかしら?)
頭の中で、ポッコリ膨らんだお腹を揺らす多恵子を想像してみる。
(何だか……赤ちゃんの重さとバランスを取る為に、後ろに大きく反り返りながら歩きそう。ウフフ♪)
微笑ましい図に、普段から垂れ目がちな瞳が、より一層、下がる。 と、ここで真奈美はハタと気がついた。
(お腹が出て動きに制限掛かるのは暫く先よね。だとしても、これからは多恵子さんに無理はさせられないから、私が代わりにしっかりと主婦業しなきゃ!)
背中の半分まで届く黒髪を揺らし、新たな人生目標(?)に心の中で拳を握る真奈美。
(だけど……)
晶の前にジントニックのお代わりを置きつつ、真奈美は筆頭妻の横顔をチラリと覗う。
(その第一子を多恵子さんに譲ったのか奪われたのかは判らないけど、晶先輩は今回のおめでた、どう思っているのかしら? 宏君の発表前からずっと静かだけど……この後、どうなるのかしら?)
心が逸り、今後の成り行きが楽しみだ。 晶の背後で立ち止まった真奈美は、ひとり静かにグラスを傾けている筆頭妻の背中を真っ直ぐに見据えた――。
☆ ☆ ☆
(お母さんに子供……ねぇ。何だか未だに信じられないや)
まるで他人事(ひとごと)のような出来事に、未だ頭が付いて来ない。
(お母さんの子供ってコトは、私と美優樹の妹、ってコトよね。私とは二十、美優樹とは十七違いの)
世の中には歳の差カップルはもとより歳の差姉妹も多々あれど、それが実際に自分に当て嵌まるとは想像もしていなかった。
(ううん、違うな。単に、私が考えなかっただけ……なのかも)
永らく未亡人だった母親が再婚し、充実した夫婦性活を続けていれば、いずれ新たな家族が増えるのだろうと薄々思ってはいた。 それが何時になるのか……それこそ他人事(ひとごと)として捉えていたのかもしれない。
(この私に妹……ねぇ。二十歳(はたち)の女子大生に新たなる妹、かぁ。クラスメイトに知られたらひと騒ぎだな)
自身が周囲から好奇の視線を向けられるのは仕方無いと諦めの境地に達しつつあるが、家族の事で注目されるのは、どうかと思う。
(そっかぁ。私に妹、かぁ。しかも二十も上のお姉ちゃん……か)
余りの年齢差に、想像力が追い付かない。 むしろ、自分の娘だと考えた方がしっくり来る。 現に、自分が生まれたのは母が十八の時なのだから。
(つまり、今の私に四十歳の姉がいるのと同じ……か。――って、三十八歳のお母さんよか年上じゃん! なんじゃ、そりゃ? 訳、判らんっ!)
中学、高校と陸上命! な部活娘の筋肉脳だっただけに、この時点で飛鳥の脳ミソはオーバーヒート気味だ。 傍から見れば切れ長の瞳は渦を巻き、耳と頭からは湯気が盛大に立ち昇っている事だろう。
(けど……)
床に着くまで伸ばした栗色のツインテールを小さく揺らし、スクリュードライバーをチビチビと舐めつつ飛鳥の顔が六歳上のOBに向く。 晶は自分と宏が在籍した高校の卒業生なのだ。
(晶先輩は私のお母さんが新たな妹を産む事、どう思っているんだろ? 奥さんのトップとしてのお言葉、まだ聞いて無いけど)
新たな妹を思うと心沸き立つが、筆頭妻の心情がイマイチ判らないのがもどかしい。 ようやく脳ミソが冷えた飛鳥は、ひとり静かにグラスを傾けている筆頭妻へ視線をチラリと向けた――。
☆ ☆ ☆
(お母さんに子供……かぁ♪ きっと美優樹みたく可愛い妹に決まってるわ♪)
妊娠がまるで我が事のように、喜色満面になる美優樹。 飛び級を繰り返した才女の脳ミソは一気にフル回転を始める。
(妹が小学校に入ったら、美優樹がその頃に愛用していた服を着させようかしら♪ お下がりだけど綺麗に取ってあるから大丈夫だと思うし、きっと似合うわ♪)
早くも姉バカ振りを発揮する美優樹。 切れ長の瞳は妙に煌めき、胸の前で手を組み天井をうっとりと見上げている画は、どこから見ても怪しい宗教にハマっているかのよう。 そんな自分の状態に気付いているのか、いないのか。 栗色に煌めくツインテールを盛大に揺らし、オレンジジュースの瓶を手にするや喉を鳴らし一気に飲み干してゆく。
(今日はおめでたい日になったわ。お母さんや美優樹、そして皆さんにとっても――ん?)
と、ここで纏う雰囲気が周囲と違う奥さんがひとり、いる事に気付いた。 沸き立つ空気と一線を画す、物静かな空間なのだ。
(そう言えば今日の晶さん、微笑んではいるけど……どうしたのかしら? いつもの晶さんなら、飛び切りの笑顔で宏さんを祝っている筈なのに)
切れ長の瞳を僅かに眇め、美優樹の表情が曇る。
(もしかして……お母さんの妊娠が晶さんには嬉しく無い? まさか……ね。でも、宏さんの正式発表の後、未だお祝いの言葉、言って無いし……)
今までの晶の言動を見れば、そんな事は一切無いと判っている。 もしかしたら、晶なりに何か思う所があるのかもしれない。
(晶さんはお母さんのおめでた、どう思っているのかしら? 後でこっそり教えて貰おうかしら?)
新たな命――妹の誕生は心弾むが、筆頭妻の心情にも迫りたい。 空になった瓶をそっと置いた美優樹は、ひとり静かにグラスを傾けている筆頭妻へ視線を真っ直ぐに向けた――。
☆ ☆ ☆
(ウチに甥っ子、かぁ。二人の姪っ子は親の手をとっくに離れたし、今度はどう育てて行こうか♪)
何本目かの缶ビールを呷り、夏穂は脳天気にあれこれ想像を巡らしひとり悦に浸っていた。
(やっぱ、『光源氏計画』とか称してウチ専用の甥姪ハ~レムを作り上げて――)
ビールと一緒に涎も啜る夏穂。 セミロングの黒髪を大雑把に手で払い、新たな缶ビールに手を伸ばす。
(んぐ……んぐ……んぐ……プッハ~! 今夜の酒は旨いなぁ♪ みんなも楽しそうで何よりだわ♪ ……但し、ひとりだけ例外がいるけどぉ)
歓喜の声が何度も上がる中、とある人物に視線がどうしても向いてしまう。 人様の子供を預かり、人生や世の中の不条理をも教え導く教諭としてひとりだけ浮いた存在、或いは異なる行動をする者に敏感なのだ。 これも職業病の一種だろう。
(晶ちゃん、ご懐妊発表からず~っと静かにしちゃってまぁ。あれは……ナニか腹に抱えている顔付きだわね)
高校時代の晶を知る教師として、瞬時に判ってしまう。 他が賑やかなのにひとりだけ物静かな表情を見せる時は、自分の手の平の中で状況が動いている証拠だ。 だからこそ、不自然な位に淡々と過ごしている元教え子が気になって仕方が無い。
(ま、普段の晶ちゃんなら、『何であたしが最初じゃ無いのよっ! さっさと孕ませないヒロが悪いっ!』とか言って暴れてるトコだろうけど)
晶本人は絶対に認めないだろうが、他の面々は大きく首肯するだろう。 何せ、あの晶(と優の双子姉妹)相手に高校の二年間、担任を務め上げたのだ。 教師としての手腕はプライベートでも健在だ。
(あれは、かなり踏み込んだトコまで知ってる顔付きだわね。もしかして事前に宏クンや姉さんと……)
大酒をかっ喰らいつつも、鋭い読みをする夏穂。 身に染みた教師魂は伊達では無い。
(晶ちゃんは姉さんのおめでた、素直な心でどう思った?)
今後の成り行きが楽しみになり、夏穂は最後まで静観しようと心に決める。 缶ビールを呷った夏穂は、ひとり静かにグラスを傾けている、今は筆頭妻となった元生徒へ切れ長の瞳を真っ直ぐに向けた――。
☆ ☆ ☆
(……お姉ちゃんは多恵子さんのおめでた、どう捉えた?)
シャギーカットにしたショートヘアを揺らし、優は姉の顔をまじまじと見つめる。 他の面々のように遠慮がち、若しくは気遣うような視線を向けず、いつも通りの態度を貫く。
(……ヒロクンは好くやった。男として、そして夫として最初の責務を果たしたね。おめでとう!)
従弟の成長振りをずっと見て来ただけに、その目覚ましい活躍は見ていて楽しいし、こちらも嬉しくなる。 ここに誰もいなければ速攻で抱き付き、キスの嵐を降らせていただろう。 それでも。
(……流石に、今回はお姉ちゃんの心の中まで見通せない。それだけお姉ちゃん、完璧に猫、被ってる)
双子ならではの、アイコンタクトでの以心伝心が今回は不発なのだ。 姉自身がずっと伏し目がちで誰とも視線を合わせず、喜怒哀楽も表さないのも一因かもしれない。
(……お姉ちゃん。この後、どう出る? よもや張り合って自分も懐妊した、けど想像妊娠でした、ちゃんちゃん♪ とか言わないよね? まぁ、それはそれで後々のお笑いネタになって好いけど)
姉のオチャラケを警戒しつつも、今後の展開が楽しみで心が躍る。 同時に従弟の、宏の父親振りにも期待したい。
(……ヒロクンとお姉ちゃん、これからどうなる?)
ジンライムを味わいつつ、優はひとり静かにグラスを傾けている双子の姉へ視線を真っ直ぐに向けた――。
☆ ☆ ☆
(あらあら。晶さんに視線が集まってますわね。でも、晶さん自身が何も仰らない以上、致し方無いですわ)
止む事の無い賛辞を受けつつ、正座したままの多恵子は視界の端に晶をずっと捉えていた。 筆頭妻に向けられるどの視線も怒りや不満等、負の感情では無いのが幸いだ。
(何やらわたくしの事で、皆さんに新たな波紋が拡がっているみたいですわね。晶さんはお見通しのようですけど)
夫である宏が晶を筆頭妻に就かせた理由のひとつに、この豪胆さがあるのかもしれない。
(それでも、晶さんには不快な思いをさせてしまいましたわね。後できちんとお詫びしないと)
自分に降り掛かるべき火の粉が他人にまで及んだ形となってしまい、多恵子は申し訳無い気分になる。 それでも。
(近々、お詫びの証しとして宏さんと濃厚濃密な3Pをして晶さんを昇天させまくろうかしら。わたくしも暫くはエッチ、出来無い身になりますし。おほほのほ♪)
右手でお腹を撫でつつ、これからの道行きが楽しみで仕方無い多恵子だった――。
(つづく)
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ララバイ(3)
ララバイ(3)
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美姉妹といっしょ♪~新婚編
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(ん~、何だか妙な違和感が――ってっ!?)
賑やかな場にありながら、どことなく肌をチリチリと焦がすような、或いは生温かい湿った布で肌を撫でられているような――そんな不快な感覚に晶はふと、顔を上げた。 すると、リビングに集う面々(除・宏)からの視線が全て自分に集まっているではないか。 ある者はチラチラと横目で覗うように、またある者は正面切って見つめてもいる。 屋敷に住まう十一人全員が車座になっているので、些細な動きも目に入るのだ。
「ちょっとアンタ達! なに人のコト、チラチラ、ジロジロ、はたまたガン見してんのよっ!」
理性を持った注意喚起よりも先に、口が勝手に動いてしまった。 しかし、これはいつもの事なので全く気にしない。 ただ、
(折角ヒロの隣を陣取ったのに、これじゃ落ち着いてお酒も楽しめないじゃないっ!)
目立つ言動は一切していないにも係わらず、どうして注目を浴びているのかまるで判らない。
(そりゃ、あたしの美貌はそんじょそこらのタレントや女優よか格段に優れているのは誰もが認めてるけど、だからってジロジロ見られるのは、いくら身内でも好い気はしないわよ)
半分苦々しく思いつつ、眼光鋭く集まる視線を尽く跳ね返してやると。
「だって~、晶姉さんが一番、何か腹に抱えていそうだったんだも~ん。未だにノーコメントだし~」
こちらの威嚇を物ともせず、視線を外さず見つめているのは若菜だ。 しかも、サッと視線を逸らした何人かが若菜の明け透けな意見に小さく頷いているではないか(それはそれで腹が立った)。
「あ、あんたら~~~~っ!」
拳を振るわせ、思わず唸る。
長い髪が逆立ち、目尻が急角度で吊り上がるのが自分でも判った。 視線を逸らした者が息を呑む音まで耳に届く。
(あたしゃ腹黒女じゃねぇ!)
が、喉まで出掛かった言葉を寸前で呑み込む。 ここで咆えたらお笑いネタになるのは確実だし、意図しない二つ名まで付いてしまう恐れもある。 そして何より、今は自分が前面に出る訳にはいかない。
(今日の主役は多恵子さんなんだから、あたしが目立ってどーするっ)
誰にも気付かれぬよう深呼吸し、昂ぶる鼓動を落ち着かせ、顔の強張りも解く。 営業スマイルで培った技術(?)が家庭でも役立つ、好い例だろう。 もっとも、唸った時に手にしたグラスがピシッと甲高い音を立て(顔を引き攣らせ身を退いた輩がいた)、手触りが少し変わったような気がしたが……きっと気の所為だろう。 ここは出来る大人の女として、そして筆頭妻として度量の大きさを見せ付けねばならぬ。 女の子座りのまま居住いを正し(背筋を伸ばしただけだが)、すまし顔で若菜と首肯した面々に応えてやる。
「コホン。若菜ちゃん、あたしは何もお腹に抱えて無いわ。ただ、長期的な展望を見据えてただけよ」
これは本当の事なので堂々と胸を張り、言い切る事が出来る。 隣に座る宏もニコニコ(ニヤニヤ?)顔のまま、グラスを傾けている。
(フンッ! あたしは常にみんなの事を、何よりヒロとの事を考えてんのよっ! ――って、流石にこれだけじゃ判らんか)
筆頭妻の、ひいては己自身の威厳を見せ付ける為に大仰に言ったものの、高校の後輩である飛鳥と、自分と同じ大学(がっこう)を出た真奈美、そして高校時代の恩師である夏穂は盛んに首を傾げている。 どうやらこの三人には言葉が足りなかったらしい。
「晶姉さん~。わざと小難しいコト言って、はぐらかそうとしてる~? 勿体振らないで教えてよ~」
最初に尋ねた若菜も意味が判らないらしく、眉を顰めては首を大きく横に倒していた。 その所為で若菜自慢の黒髪の先端が川のように床に流れている。
(若菜ちゃん、長い髪してるんだから少しは気に掛けなさいよ。そのままじゃ踏まれたり汚れたりするでしょうに)
自分も若菜と同じく腰まで届く髪をしているので、年頃の女性として思わず注意したくなる。 しかし当の本人は全く気にして無いらしく、早く答えを聞きたいとばかり切れ長の瞳を向けて来る。 晶は瞬き一回分で思考を切り替え、小さく微笑んでみせる。
「別に小難しくなんか無いわよ。現に美優樹ちゃん、千恵ちゃん、ほのか、そして優は判ったみたいだし」
こちらの四人は小さく目を見開き、今、気付いたような顔付きになって僅かに頷いてもいる。
(うんうん、頭の回転が速い人は理解が早くて助かるわ)
隣に座る宏とその隣の多恵子も、終始笑顔のままだ。 この二人は単に、こちらの動向を楽しんでいるのかグラスを傾け、肴を摘みつつ時々意識をこちらに向けているのが判る。
(ま、元々はヒロと多恵子さんから言って来た事だし、完全に傍観者の顔付きね)
こちらはこのままで好いとして、問題は首を傾げる四人の対処だ。 このまま放って置いても好い気もするが、筆頭妻として、そして家族として隠し通すのも拙いだろう。
(ま、これ以上シラを切っても仕方無いし、そろそろタネ明かし、してやるか。下手にダンマリ決め込むと変な誤解や誤った解釈されると多恵子さんに迷惑掛かるし)
晶は真奈美に新しいグラスを持って来させ、喉を湿らせてから切り出した。
「そんじゃ、あたしがさっき言った『長期的展望』の意味を話すわね。それが多恵子さんのご懐妊の裏話……と言うか経緯(いきさつ)に繋がるからさ」
今度こそ全ての視線が集まる中、晶は小さく頷く宏と多恵子に頷き返すと淡々と語り出した――。
☆ ☆ ☆
「あれは……今からひと月ちょい前の、師走の始めの頃だったわ。そう、美優樹ちゃんの誕生日宴会を終えた、次の日の夜よ。今でも覚えてる。そうそう、あたし等が暮らす東京にも寒波が押し寄せて今シーズン初の雪下ろしの雷が鳴ってて――」
当時を振り返りながら、晶はゆっくりとグラスを傾ける。 すると、どこからか「勿体振ってる~」「焦らすわね」「余裕こいてなんか腹立つ」「……格好付けても無意味」等々の囁きが聞こえて来たが、全て空耳だろう。
(ふふん♪ 今現在、全ての事情を知ってるのは当事者であるヒロと多恵子さんを除けばあたしだけ! むははははっ! 誰も知らない事を知ってるこの優越感は何度味わっても捨てがたいわねぇ)
ニヤリと口角を上げ、心弾ませ悦に浸る晶は思考を当時へ飛ばした――。
※ ※ ※
「さて、ぼちぼち寝るか。今日の伽はヒロと多恵子さんとツーショット、か。久々の夫婦水入らず、って感じね」
あの二人は歳の差あれどお似合いなのよね、などと思いつつ鏡台で髪を梳いていると、襖をノックする音と宏の呼び掛けが耳に届いた。
「あら珍しい。ヒロがあたしの部屋に来るなんて。しかも多恵子さんまで連れて」
廊下に通じる襖を開けると、そこにはロングTシャツにトランクス姿の宏と膝上までの白いキャミソールを纏った多恵子が佇んでいた。 早々に招き入れると押入から座布団を二枚取り出し、来賓を座らせてからベッドへ腰掛ける。
「しかし多恵子さん。いくら廊下にも暖房入ってるとは言え、その格好じゃ寒かったでしょ? ヒロも上っ張り羽織らせるなり何なりして少しは気遣いなさいよ」
「あ、そうだったね。ゴメン、多恵子さん。俺、全然気付かなくて」
「いえいえ、晶さん、宏さん、ご心配ならさずに。わたくし、年甲斐も無く身体が少々火照っておりますから。おほほ」
多恵子の纏うキャミは生地が薄く、肌が透けて見えるセクシーなものだ。 当然、豊かに揺れる双丘やその頂の薄ピンクの突起が丸判りだ。 しかも穿いているショーツは薄ピンクの紐パン――こちらもシースルーなので女の亀裂が黒っぽく浮き出ている――なので、正に「これからエッチします」と公言してるのと何ら変わらない。
(二人して顔、見合わせるや朱(あか)くしちゃってまぁ、処女と童貞の初エッチかっ! な~んてね)
微笑ましい二人に、こちらも優しい気分になれる。
「ヒロってば、もしかして朝までの3Pコース、したくなった? 明日は日曜だし、久々に貫徹エッチのお誘いかしら? なら、誰が最後まで意識保っていられるか、賭けてみる?」
こちらのジョーク(百パーセント本気)に、夫は慌てながらも律儀に突っ込んでくれる。
「何、言ってんの。どのみち途中から乱入して来るのはいつも若姉と晶姉じゃん」
「あら、心外だわ。あたしはあくまで慎ましく、淑やかに最後のおこぼれを頂戴するだけよ? 若菜ちゃんみたく目の色変えて貪る事はしないし~」
「慎ましく? 淑やか? 誰が? 第一、最後のおこぼれって、どの口が言うかな。真っ先に一番搾り欲しがるの、何処の誰でしたっけ?」
「さぁ? この世で一番美しい妃じゃない?」
「言ってら。あははははっ」
「うふふふふ」
ヒロと交わす軽妙なやり取りは楽しくて仕方が無い。 ましてや自分の寝所で下ネタ満載の言葉を交わすなど、結婚前までは決して味わえ無かった心安らぐ時間だ。 多恵子も判っているのか、ニコニコしながら見守ってくれている。
「で、本題は?」
このまま心温まる(?)下ネタトークを続けたいのはやまやまだが時間も時間だし(時計をチラリと見ると日付が替わる三十分前だった)、わざわざ二人切りの時間を割いてくれたのだから、きちんと用件を聞くとしよう。 それによると。
「なるほど。高齢出産、か」
二人の口から発せられた四文字で、尋ねて来た理由が全て判ってしまった。 多恵子は現在三十八歳だが、二ヶ月後には三十九になる。
「お腹の子供は十月十日、だものね」
誰とも無く口にすると、宏よりも真剣な眼差しの多恵子が大きく頷いた。 なるほど、今回の提案(進言?)は最年長妻の多恵子から夫である宏へ寄せられたらしい。
(ま、ヒロと多恵子さんの間に子を成す為には近々明確にしないと拙い事案だったものね。むしろ今、向き合って正解かもしれないわね)
実際、妊娠期間を考えると、四十までに産む為にはこのひと月ふた月、遅くとも三月上旬までに受胎させる(仕込む♥)必要がある。 しかも、女性には月経(レディ・サイクル)があるので、狙って着床させる為にはタイミングも限られてしまう。
「まぁ、四十の壁に係わらず、リスクを避けるなら早い方が好いものね」
念の為に確認すると、宏と多恵子も同意見との由。
「うん、好く判った。つまりヒロは早々に多恵子さんを孕ませたい、と。で、あたしに、どうしろと?」
宏と多恵子の考え――家族計画は理解した。 しかし、それはあくまで二人の問題であって、自分とは無関係と思われる。 受精の成否は、いわば神の領域だからだ。
(もし、あたしがヒロの子を宿したら小躍りして歓び、誰に憚る事無く産むと決めているもの。何なら出産シーンを全員の目の前で行い、若菜ちゃんの所有するフルハイビジョンカメラ――今は4Kカメラにグレードアップしたらしい――で録画させても好いし)
などと涎を啜りながら、瞬き一回分で考える。
「うん……それは……えっと……その……」
しかし、目の前の従弟は歯切れも悪く唸っている。
(おいおい、ヒロは一家の大黒柱なんだから、もっと堂々と構えなさいよっ!)
喉まで出掛かった言葉を寸前で飲み干す。 今は、父親になろうとする人物を叱咤する時間では無い。 そもそも、多恵子の出産計画について自分や回りがどうこう言う資格も権利も無いのだ。
(ここは「これから多恵子さんと子作りするから協力して」と胸張って宣言すれば済むのに、何を悩んでるのかしら?)
従弟の弱気な態度(ヘタレ具合)にイラッとし、眉を顰めてしまう。 しかし、この従弟は別の心配事があるらしい。 加えて、それは自分に直接係わる事だと纏う雰囲気(オーラ)で判ってしまう。
「えっと、つまり……その」
今尚、言いにくそうに顔を僅かに顰め、視線を逸らし俯く宏。 それでも時々、チラチラとこちらを覗う視線を向けて来る。 隣に座る多恵子も心配そうに眉根を寄せて宏を見つめ、いつしか手も添えられている。
(あらあら、姉さん女房らしい心配りね。ヒロも果報者だわ)
このさり気無い優しさを目撃したお陰か、ついさっきイラッとした気分がスッと晴れ、気分も落ち着いて来た。
(あぁ、そうか。ヒロは――)
そんな、どこか申し訳無さそうな態度で判ってしまった。 何せ、宏が生まれ落ちた瞬間から今日までの二十二年間、従姉の立場にいるのだ。 愛する従弟の喜怒哀楽を存分に知り尽くしているだけに、従弟の思い悩む感情がひしひしと伝わって来る。
(ヒロは、あたしが妊娠の一番手に拘っていると思っているのか。それで先に多恵子さんを妊娠させる許可を貰いに来た、って訳か。だったら――)
脳ミソに閃光が走る。 規模が小さいとは言え、いち企業のトップを預かる立場にいるので頭の回転の速さには自信がある。 部長の肩書きは伊達では無いのだ。 ここはひと芝居、打って出る事にしよう。
「つまり、ヒロは筆頭妻で従姉でもあるあたしを放置し、愛しき多恵子さんを孕ませる事を宣言しに来た訳ね」
「ち、違っ! お、俺っ、ほ、放置だなんてっ――」
わざと蓮っ葉に言うと、慌てたように腰を浮かせ、額に大量の冷や汗を浮かべる宏。 呂律も怪しく視線を彷徨わせ、手も所在無さ気に右往左往させている。 宏の手を握る多恵子も一緒になって腰を浮かせ、驚いたように目を見開いている。
(ムフ♪ ヒロのこの顔は何年経っても変わらないわねぇ)
思った通りの反応を示すから面白い。
「な~んて、冗談よ。本気にしなさんな。うふふふふ」
目と手で従弟を制し、敢えて笑い声を上げると。
「あ、晶姉~。今は冗談かます場面じゃ無いでしょっ」
狙い通りにへたり込む従弟の顔を見た瞬間、電流を流されたように身体の芯からぞくぞくしてしまった。 子宮が熱を帯び、図らずも熱い塊が膣内(なか)を下るのが判る。 これだから従弟弄りは止(や)められない。
「ごめんごめん。ちょろっと場を和ませただけよん」
「そ、それにしては目が本気だったような――」
「それこそ気の所為よ」
これ以上言わさないとばかり、言葉を封じる。 多恵子が宏の隣で成り行きを見守っているのだから、こちらの本心は決して出せない。
(やっぱ、あたしがヒロの最初の子を産みたい! な~んてのは、あたしの我が儘だもの)
愛する男性(ひと)の子を宿し、産み、育てる――。 自分だけでは無い、ここに住まう十人の女、全てに共通する想いだ。
(まぁ、妻が十人もいれば出産順など意味無い――とみんな判ってはいると思うけどね)
それでも一番目に拘るのは、完全に自分自身のエゴだ。 その位はわきまえている。 晶は笑みを二人に向け、安心させるよう穏やかに言葉を紡ぐ。
「いくらあたしがヒロの童貞貰ったからって、妊娠から出産まで一番になる気は無いわよ。そりゃ、最初に結婚した面子相手なら問答無用であたしが最初に受胎し、産むつもりだったわよ」
微笑んだまま、晶は視線を多恵子に向ける。
「でも状況が変わった。家族構成も大きく変わった」
多恵子が小さく頷く。 自分達が同居し、結婚した事を言っているのだと判っている証拠だ。
「なら、あとは自然とプライオリティが決まるのも自然な流れよ」
「優先順位? 何の?」
何を指すのか判らなかったのか、眉根を寄せた宏が首を傾げる。 一方、多恵子は納得したように相好を崩し小さく頷いている。
(やはり人生経験の差、ね。多恵子さんの方が判ってる)
顔には出せないが、まだまだ経験値の低い従弟が心配にもなる。 しかし、ここは頼れるお姉さんとして従弟を導こうではないか。
「そりゃそうでしょうよ。幅広い年代の妻が揃っているのなら、出産のリスクを極力抑える為にはどうするか――。考えなくとも自然と答えは出るでしょ?」
「あ、そう言う事か。うん、だからそれを相談しに来たんだ」
どうやら、この従弟はある程度までは家族計画を意識していたようだ。 なれば、あとは背中を押してあげるだけだ。
「ヒロ? この屋敷の主(あるじ)はヒロ自身よ。ヒロが考え、決めた事ならあたしは口を挟まないし、黙って従うわ。それが間違った道で無い限り」
従姉として、そして筆頭妻として出来うる限りのアドバイスを贈る。
「ヒロが多恵子さんの意を汲み、子を成すのならばあたしは協力を惜しまない。受精させるタイミングに合わせると言うなら、セックスの順番を譲っても好い」
すると、それまで沈みがちだった従弟の表情が見る間に明るくなり、多恵子の表情も晴れやかになる。 どうやら助言が役立ったようだ。
(ふぅ。これで今夜のあたしの役目は終わったわね)
多恵子も問題解決とばかり、笑顔に戻った。
「晶さん。ありがとうございます」
「いえいえ、お礼を言われる事じゃありませんから。最初の出産は多恵子さん以外、ありませんし」
「晶さん……」
言葉を詰まらせた多恵子の瞳に、薄っすらと光るものが。
「年齢を持ち出すのはアレですが、やはり共に暮らす以上向き合わないとダメですし、四十までに子を産みたいと願う多恵子さんの想いを若輩のあたしがどうして断れるでしょう」
「晶さん……重ね重ねありがとうございます」
「晶姉、俺からも礼を言うよ。判ってくれてありがとう」
「な゛、なによっ!? あたしとヒロとの間で、今更、変な遠慮は無しよ、無しっ!」
真顔で面と向かって礼を言われるのは慣れていないから、大いに照れてしまった。 きっと鏡を見たら、首から上が真っ赤に染まっている事だろう。 実際、顔が火照っているのがよ~く判る。
(ふぅ。これで万事解決、全て終了ね)
肩の荷を下ろし、安堵の息を吐(つ)いていたら。
「晶姉! 俺、もう悩んだりしないよ。晶姉の顔色と御機嫌を伺いながら物事進めるの、もう止(や)めるよ!」
スッキリ晴々とした宏からの、聞き捨てならぬ暴言が。 隣に座る多恵子は慌てたように腰を浮かせ宏の腕を何度も引いているが、当の本人は全く気付いていないらしい。
「……おい」
そんな従弟の何気無い(?)ひと言に、自分の導火線に火が点いた。 声のトーンが最下層まで落ち、眉根に深い皺が寄るのが自分でも判る。
「これからは晶姉の叱責に怯える事無く、我が道を堂々と進むよ!」
「おい、こら」
哀しいかな、自分の導火線の短さは熟知している。
「なんせ、晶姉の御機嫌損ねたら俺が他の奥さん達から吊し上げ、喰らっちゃうからね」
「黙れ」
宏のひと言ひと言に頬が引き攣り、髪は逆立ち、膝上の手は硬く握られてゆく。 オマケに、全身に震えまで。 この時、顔面蒼白となった多恵子が部屋の隅へそそくさと逃げるのが視界の隅に映ったが……もはやどうでも好い事だ。
「晶姉ってば、無言の圧力すげぇんだもん。飛鳥ちゃんとか美優樹ちゃんなんか、なまはげに怯える幼子みたくプルプル震えちゃってさぁ。宥めるの、大変なんだもん。あはははは♪」
「好い加減にせいっ!」
ここで堪忍袋の緒が切れた。 いくら寛大で心が広い自分でも、物には限度がある。 この無礼者には相応の罰を与えねばなるまい。
「誰が誰を叱責してるってっ!? 誰の顔色を気にしてるってぇ!? 御機嫌伺いとは何よ! なまはげって誰っ!」
「はわわわっ! あ、晶姉、落ち着いて――」
思わず宏の胸ぐらを掴み、キツく締め上げながら顔を近付け眼光鋭く睨み付けた――。
※ ※ ※
「――と言う訳で、あたしは多恵子さんのご懐妊を全面的にバックアップし、その結果、先日行った病院での検査で多恵子さんのご懐妊が正式に判明したのよ。着床時期は今月上旬ね」
回想から復帰し、宏とのいさかい部分を端折った晶は多恵子のお腹に視線を向ける。 すると、全員の視線も同じ場所へと向くのが判った。 そんな気の合った行動に可笑しさを感じつつ、晶は解説を続ける。
「当然、あたしからのお祝いは検査結果の報告を聞かされた時にちゃんと済ませてあるわ。だから今日は見守るだけに終始してたのよ。あたしが最初に言った長期的展望とは、言い換えればヒロの家族計画の事よ」
粗方の説明を終え、晶はグラスの中身を一気に飲み干した。 流石に長い話だったので、喉がカラカラだ。 と、ここで小さく首を傾げた真奈美から質問が飛んだ。
「あの、妊娠したかどうかって、三ヶ月経たないと判らないんじゃないでしたっけ?」
「あ……そう言えばそうね。妊娠したのが今月上旬って言ったけど、まだひと月経って無いわよ? そんなに早く判るものなの?」
ロングポニーテールを傾けた千恵も同調し、飛鳥や美優樹、若菜も同じように首を傾げ、指折り数えている。 一方、ほのか、夏穂、優の三人は現代の医療レベルを知っているのか、小さく頷いている。
(まぁ、ほのかはパイロットとして半年毎に身体精密検査受けるから知ってて当然ね。夏穂先生は女子高の教師として必要な知識だろうし、優は……どうでも好いわ)
長い髪を片手で払いつつ「どうします?」と多恵子に視線を向けると、微笑んだまま手の平でこちらを指した。 こちらで説明しても好い、との合図だ。 これも先日、報告を受けた時に予(あらかじ)め決めておいた事だ。 多恵子曰く、「筆頭妻である晶さんからご説明戴けた方が万事丸く収まるでしょうし。おほほのほ」だそうだ。
(絶対、ヒロが何か入れ知恵したに決まってる! でなきゃ、多恵子さんが『丸く収まる』だなんて言う訳無いしっ)
百パーセント確信するが、お目出度い席なので赦すとする。 咳払いひとつで気分を切り替えた晶は、多恵子に代わって応える。
「真奈美、千恵ちゃん。最新の医療技術じゃ簡単な事よ。まぁ、三週間前と言えば、ほのかの実家の別荘にいた時ね。そこでヒロは見事、多恵子さんの種付けに成功したって訳。判った?」
八人の妻を前に胸を張った晶はドヤ顔を決め、話を締め括った。 すると。
「あ~、もしかしてあの時かぁ! 晶姉さんが宏ちゃんの濃厚一番搾りを二晩続けて多恵子さんに譲った、あの時だぁ! みんなホラ~、両日とも宏ちゃんが屈曲位と正常位の合わせ技で抜かずの三連発決めた時だよ~!」
向日葵の如く破顔した若菜に、多恵子は一瞬で茹でダコみたく真っ赤になり、深く俯いてしまった。 宏も全身を赤く染めて蹲り、これでは肯定しているのと同じだ。
(あらら、みんなして催して来ちゃったかな?)
他の面々も頬を朱(あか)く染め、内股になってモジモジしている。 どうやら若菜によるリアル表現に、そのシーンを想い出したらしい。 と、それまでじっと息を潜めて(?)いたほのかが何かに気付いたように顔を上げた。
「ってコトは、スウェーデンで子供が出来た、ってコトか!?」
「そうだよ、ほのかさん。俺の……俺達最初の子供は、ほのかさんの生まれ故郷であるスウェーデンで、それもほのかさんの実家で命を宿したことになるんだ。ある意味、ほのかさんの子供でもあると言っても好いかもね」
何とか復活した宏が笑顔で補足した瞬間、猛然と席を立ったほのかが宏と多恵子を同時に抱き締めた。
「宏ぃ! 多恵子さん! 嬉しいよぅ! うぅうう……」
二人の肩を抱くほのかの声は涙に掻き消され、その後、暫く誰も動く事が出来無かった。
(つづく)
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